文化・ライフ

FA制度と逆指名制度で富裕球団の草刈り場に

 広島カープが四半世紀ぶりのリーグ優勝を達成した。若いファンの中には、前回の優勝を知らない者も少なくない。

 1980年代、3度のリーグ優勝(うち日本一2回)を果たすなど、我が世の春を謳歌した広島が91年を最後にリーグ優勝から遠ざかった理由は主に2つある。

 まずは93年に導入されたフリーエージェント(FA)制度だ。弱小球団の広島は富裕球団の草刈り場となった。

 この制度を利用して94年に川口和久(巨人)、99年に江藤智(巨人)、2002年に金本知憲(阪神)、07年に新井貴浩(阪神)、黒田博樹(ドジャース)、08年に高橋建(ブルージェイズ)、13年に大竹寛(巨人)らがチームを去った。

 フロントの無策も浮き彫りになった。メジャーリーグでは、FA権の取得に近づいた選手をトレードに出し、リスクを最小限にとどめる球団がある。広島は、そうした手法を用いなかった。

 同じく93年に実施されて14年間続いた、有力選手が入団先を選ぶドラフト会議での「逆指名」制度も、広島には逆風となった。

 その象徴的な選手が99年に逆指名で近大から巨人に入った二岡智宏(現巨人二軍打撃コーチ)である。

 「二岡は広島出身で、高校は地元の広陵。スカウトも早くから二岡をマークしており、当然、卒業後は広島に行くと思っていた。入団した暁には広島は二岡を内野のリーダーとして育てる方針だと。

 ところが2つ目の逆指名枠を使って巨人へ。マネーゲームには参加しない方針の広島だが、二岡に限っては、資金的にかなり無理をしたと聞いている。それでも、二岡が広島を袖にしたのは、巨人の提示した金額が破格だったということ。この年の1位の上原浩治も当初はメジャーリーグ志望だった。それを覆したのだから、2人には相当な“軍資金”を用意したと思われます」(在京球団元スカウト)

 広島にとっての転機は04年に訪れた。球界再編騒動のあおりを受け、球団存続が危ぶまれた。

 巨人が主導する縮小再編計画は12球団から10球団、8球団へと段階的にチームを減らすというもので、親会社を持たない広島は消滅候補に挙げられた。

 参考までに言えば、04年の広島の売上高は63億円。このうちの半分あまりを巨人戦を中心とする放映権収入が占めていた。

 言うならば、寄らば大樹ならぬ巨人の陰――。一方の巨人にとって、広島は扶養家族のようなものだった。

“寄らば巨人の陰”脱出は市民、県民の樽募金で

 こんな笑うに笑えない話がある。語るのは、当時のある主力選手。

 「カープにとってのドル箱は本拠地の市民球場での巨人とのナイトゲーム。1試合で1億円とも1億5千万円とも言われた。だから少々の雨じゃ中止にせんのよ。どしゃぶりの中でやったこともある。大げさでなくスパイクよりも長ぐつの方が必要やった。

 しかし、選手も表立っては文句を言わんかった。自分たちの食いぶちが巨人戦やというのを知っとったからね」

 “寄らば巨人の陰”から脱するには、どうすべきか。起死回生策として浮上してきたのが新球場建設計画である。

 球団創設後の間もない57年に建てられた市民球場は収容人数約3万2千人とキャパが小さい上に老朽化が進み、03年には観客動員数が94万6千人にまで落ち込んでいた。

 広島が市民球団と呼ばれる理由は、球団存続のための樽募金にある。球団創設2年目の51年、広島は選手の給料が遅配となるなど球団存続の危機に立たされた。

 それを救ったのが、市民、県民による募金活動、俗にいう樽募金である。

 火付け役は当時の監督・石本秀一だ。地元紙の中国新聞に投稿までして協力を訴えた。

 「カープをつぶすかどうかは県民の考え一つだ。いまカープをつぶせば日本に2度とこのような郷土チームの姿を見ることなどできないだろう。私も大いに頑張る。県民もこの際、大いに協力してカープを育ててほしいと思う」

 新球場建設の際にも2度目の募金活動が行われた。

 09年に完成した新球場は総天然芝で開放感があることに加え、アミューズメント性にみちている。

 これにより、観客は急増し、04年に63億円だった売上高は、15年には倍以上の148億円を記録するに至った。

 メジャーリーグで通算79勝をあげた黒田博樹に6億円もの高額な年俸を用意できた理由が、ここにある。

 新球場なくして広島の25年ぶりのリーグ優勝はありえなかった。ただ、どんなに魅力のある球場でも劣化は避けられない。絶え間ないリニューアルが求められる。(文中敬称略)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

コエンザイムQ10のCMで知名度向上、売上高1兆円を目指すカネカ--カネカ社長 角倉 護

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
65歳からのハローワーク

  • ・総論 働く上で「年齢」は意味を持たなくなる
  • ・50歳からの15年間の準備が豊かなセカンドライフを保証する
  • ・エグゼクティブのセカンドキャリア最前線
  • ・企業のシニア活用(富士通、ネスレ日本、鹿島)
  • ・副業のすすめ 現役時代の副業は定年以降のパスポート
  • ・島耕作に見るシニアの今後の生き方 弘兼憲史

[Special Interview]

 赤坂祐二(日本航空社長)

 「中長距離LCC事業には挑戦する価値がある」

[NEWS REPORT]

◆社員の3分の1を異動したWOWOWの危機感

◆迷走か、それとも覚醒か B2Cの奇策に出るJDI

◆外国人労働者受け入れ解禁で どうなる日本の労働市場

[特集2]

 開幕まで1年!

 ラグビーワールドカップ2019

ページ上部へ戻る