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「インダストリー6.0」を標榜する東レのIT活用力――日覺昭廣(東レ社長)

日覺昭廣社長 東レ

 東レの業績が好調だ。前3月期まで3期連増で最高益を更新。今期の更新も手が届くところにきている。しかし日覺昭廣社長は、その業績に気を良くすることなく、「徹底的な経営の効率化が必要」と気を引き締める。日覺社長に業績好調の理由と、経営の要諦について直撃した。 聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐藤元樹

インダストリー4.0の2周先を行く

―― 日覺社長は最近よく、「インダストリー6.0」という言葉を使っています。インダストリー4.0なら分かりますが、6.0とは何ですか。

日覺 インダストリー4.0は、ドイツのシュレーダー政権(1998~2005)が、製造業の競争力を引き上げるために、構造改革、労働市場改革を断行したことに始まります。これにより労務コストを16%下げることに成功した。その結果がヨーロッパ経済におけるドイツの独り勝ちです。

 この方針はメルケル政権(05~)にも引き継がれましたが、その一環としてインダストリー4.0が提唱されました。これは工場をインターネットで結ぶことで労働コストを抑え生産性を引き上げるという考えです。ただし取り組みは始まったばかりで具体的な成果はこれからです。

 その点、東レは国内外の工場の製造過程に相当進んだITシステムを既に導入しています。その結果、生産、販売から収益まで、日次管理ができるようになった。そのためPDCAのサイクルを超高速で回せるようになっており、毎日の利益が目標から乖離してきたら、すぐに全員で原因を究明し対策を打つことが可能です。

 さらに東レの場合、工場は全世界にあります。例えばヒートテックなら、原糸・原綿や紡績は日本で編み立て、染色は中国、縫製は香港、ベトナム、インドネシア、バングラデシュといった具合に分散しています。しかも生産は何千万枚単位のため、すべてが同時並行で動いている。これをコントロールするには、ITを駆使しなければならないし、実際に成果が出ています。

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(にっかく・あきひろ)1949年、兵庫県生まれ。73年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、東レ入社。2001年エンジニアリング部門長、工務第2部長、02年取締役、04年常務、06年専務、07年副社長を経て、10年に社長COOに就任した。11年より社長CEO兼COOを務めている。

 つまりインダストリー4.0よりはるかに先を行っている。IoTを進化させているという意味ではインダストリー4・2というほうが正しいかもしれないけれど、2周ぐらい先に進んでいるのではないかという意味で、インダストリー6.0という言い方をしました。

―― 成果を具体的に教えてください。

日覺 先ほど言った利益の日次管理は今期が最終年度の中期経営課題プロジェクト「AP-G2016」に盛り込まれているものです。これまでにもコスト削減に取り組んできましたが、AP-G2016では、従来の比例費・固定費の削減に加え、生産プロセス革新や営業トータルコスト削減を進めています。

 この3年間で、合計2千億円のコスト削減を目標にしていますが、これまでの2年間で1333億円を削減しています。今期第1四半期も予定どおりに進捗していますが、こうしたコスト削減はITがあって初めて成り立つものです。

自力での開発はパイオニアの宿命

―― このようなITシステムは独自開発したものだそうですね。

日覺 そうです。ITの効果を最大限に発揮するためには、製造プロセスやサプライチェーンごとの課題の分析をしっかり行い、効率化するためにどのようなツールが必要か見極めて最適なシステムを構築する必要がありますが、基本的には各工場がそれぞれ独自にシステムを作り上げています。

 日次管理で言えば、マレーシアや中国のテキスタイル子会社、米国のフィルム子会社などが自らの考えたやり方で先行しており、これを全社展開したものです。でも実際には既に半数ほどの子会社や工場で同じようなことを行っていたという経緯があります。

 当社は、以前からIT投資に取り組んでいるため、社内のシステム開発力は相当なレベルがあります。なんでも自分たちでやるというのは東レのDNAのようなものです。歴史を振り返れば、昭和20年代にナイロンを開発した時も、作る機械など世の中に存在しなかった。ですから機械も設備も自分たちで作らざるを得なかった。パイオニアの宿命です。

 ですからITにしても必要なら自分たちでシステムを構築する。それが東レの強さにもつながっています。

グループ会社が実証する「疾風に勁草を知る」

―― 業績も安定して伸びています。社長として最大の課題は何ですか。

日覺 経営の基本は「あるべき姿に向け、やるべきことをやる」ということです。そして今やるべきことは徹底した経営の効率化、つまりコスト削減です。

 コスト削減はいつの時代も永遠のテーマです。東レは02年に「NT改革」という改革で徹底的なコスト削減を実行しましたが、その後の成長戦略でコスト削減意識が薄れてしまったという歴史があります。そこにリーマンショックが起き、東レの業績も大きく落ち込みました。

 そこで09~10年度の2年間、聖域なきコストダウンを実行し合計1020億円を削減しました。これにより、10年度には1001億円の営業利益を確保できた。続く11~13年度の3カ年では、1220億円を削減し、13年度で1053億円の営業利益。そして今は先ほど言ったように2千億円削減が目標で、今期の営業利益1700億円を何が何でも達成します。

 数字を見てもらえば分かりますが、仮にコスト削減がなければ、利益が出ていません。ですからこれからもコスト削減の手綱を緩めるつもりはありません。

―― コスト削減に終わりがないのは分かりますが、あまりに手綱を絞り過ぎると社員が疲弊してしまいませんか。

日覺 会社の経営で重要なのは、全役員、社員がモチベーションを高く持ち、やる気で取り組むことです。やる気を持って自発的に取り組むか否かで、全社で100億~200億円も利益が違ってきます。やる気さえあれば、仕事は必ず成功します。コスト削減についても同様です。

 そのためには、人材育成に注力し、人を基本とする経営を継続して行うことが重要です。6年前に社長に就任して以来、国内外の関係会社に出向いては、現場での意見交換などを行ってきました。これも、東レグループ全体のベクトルを合わせるためです。

 そしてベクトルが合えば、さまざまな知恵や工夫が現場から出てきます。日次管理で先行しているマレーシアやアメリカの子会社はその代表です。彼らの事業環境は厳しい。アメリカの子会社はビデオテープ用のフィルムを製造していたのですが、ビデオテープがなくなってしまった。そこで自らソーラーパネルなどの新しい市場を見つけ、開拓していった。その上で効率化を進めるために自発的に日次決算を導入した結果、今では高収益会社になっています。

 こうした例はグループの中に数多くあります。面白いのは厳しい環境にある会社ほど、業績がいいということです。まさに「疾風に勁草を知る」で、困難に直面して初めて、その価値や強さが分かるのです。

―― アメリカにある会社なら、業績が悪化したら従業員をレイオフして利益を確保するというやり方もあるのではないですか。

日覺 それなら東レがやる意味がありません。今言ったように、人が基本です。だから現場で創意工夫が生まれる。これがアメリカ流資本主義のように、マニュアルがあって、従業員はマニュアルどおりに働けばいいという会社では、現場からは何も生まれてきません。人件費を変動費としてとらえ、業績が悪くなったら人を減らして採算を合わせるというのは、東レの経営とは対極にあるものです。

 ですから、今論議されている「同一労働、同一賃金」も疑問です。マニュアルどおりの働き方ならそれでいいかもしれませんが、われわれの現場には匠の技がある。同一労働、同一賃金はなじみません。

繊維が支える東レの技術力

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ボーイング787には東レの炭素繊維が採用された(写真提供:全日本空輸)

―― このほか、経営する上で大事にしていることは何ですか。

日覺 芯がぶれないことです。東レの強さは繊維と高分子化学です。一時、「繊維の時代は終わった」と言われたこともありますが、今でも研究開発を行っています。そしてそのベースがあるから、炭素繊維などの新しい収益源が生まれてきた。もし仮に、一時的に儲かるという理由で繊維をやめていたら、わが社の技術は3、4年もすればおかしくなってしまうでしょう。

 つまり時流迎合タイプの経営ではなく現場主義に基づく時代適合の経営を目指しています。そのために、10年単位の「長期の展望」、3年程度の「中期の課題」、足元で実行すべき「今の問題」という3つの時間軸で経営を考えています。

 この3つの時間軸で、世の中の流れ、方向を把握し、将来のあるべき姿を設定し、その達成に向け中期の課題に取り組むことで、持続的な成長を目指しています。

 
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