国際

急成長中のインド市場を狙ったドコモの誤算

 新興マーケットのダイナミクスは冷酷なものであり、特にインドの場合は、優れた知性、適切な橋渡し役、広報活動、大量の資金を持ってしても、成功するための適切かつ最善の方法を見出すのは難しいようだ。NTTドコモは、苦労続きの5年間を経て、タタとの提携から撤退することを決定した。

 ドコモが2009年にタタ・テレサービシズ(TTSL)の株式26・5%を27億ドルで獲得してインドマーケットに進出した頃、インドでは既存の5億人の加入者に加えて毎月何百万人もの加入者が増加中だった。多くの主要携帯電話会社(CSP)が、複数周波数を利用できるようになり、世界で最も急速に成長を続ける携帯電話マーケットであったインドでの事業を開始することを望んでいた。

 TTSLは、インド全土の何千もの町や村で約8500万人の加入者に電気通信サービスを提供している。主な事業は携帯電話、有線電話(タタ・インディコムブランドで事業を展開)、固定電話、公衆電話ボックス、インターネット接続などだ。

 ドコモの狙いは、TTSLが持つ現地マーケットの知識とインド国内の上位3社にしか与えられない電気通信事業免許を手に入れることだった。一方、TTSLは成長するインドマーケットでシェアを伸ばすために、3G技術を利用することを望んでいた。インド初の3Gサービスは、タタ・ドコモのブランド名で開始された。3Gによって、タタ・ドコモは、インドの電気通信事業の流れを変えた。

 インドの電気通信マーケットは、日本とは多くの点で大きく異なっている。日本とは違い、インドの会社は加入料を低めに設定し、成長トレンドを生かすために販売促進に大きく投資する。インドでは日本と違いプリペイド方式を利用するケースが多く、提供するサービスも、日本では付加価値的なサービスが中心だが、インドでは機能に関するサービスが中心だ。採算性が最初の大きな問題だった。

合弁事業成功のためにはインド特有の戦術が必要

 10年はインドの電気通信事業にとって良き時代の終わりが始まった年だった。2Gに絡む汚職事件が発生し、無能な政府は問題に対処できず、司法が介入する事態となった。これにより小規模事業者は撤退し、合弁事業者は頓挫して、新しい事業者による投資と成長は行き詰まった。裁判所は、122件の違法な事業免許を取り消し、マーケットは低迷した。11~14年の期間は、前進に向けた勢いや機運もなく、電気通信マーケットが底を打った最悪の時期だった。こうした原因が積み重なって、合弁事業は失速して行った。

 合弁開始5年後の14年、ドコモは手を引く決断を下した。契約条項により、タタは共同設立者への売り戻し条項を行使することを決め、投資額の少なくとも50%、13・5億ドルを返金する必要に迫られた。しかし、撤退交渉はすんなりとは行かなかった。 16年6月、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)は、タタグループの持ち株会社タタ・サンズに対し、契約不履行の補償としてドコモに11・7億ドルを支払うことを命じた。

 恐らく進出と撤退のタイミングが悪かったことが合弁事業失敗の主原因だったと言えよう。さまざまな研究によると、合弁事業の60%から70%が失敗すると言われる。インドが魅力的なマーケットであることを疑う人はいない。そうだとしても、すべての外国企業がインドマーケットで成功する訳ではないことも事実だ。インドで直面する課題は独特なもので、たとえインドの会社が日本企業の技術力と専門知識を認識・リスペクトして、日本企業との提携を望んでいるとしても、合弁事業の設立前、設立中、設立後の交渉は非常に重要となる。そのためには高い能力を有した人材とインド特有の戦術が必要となる。

 インドで事業を開始しようとする日本企業にとって、インド進出にはいくつかの方法がある。(1)単独進出、(2)M&A、(3)合弁事業の設立、などだ。インドマーケットでの経験が乏しい日本企業にとって、インドの会社との合弁事業を設立することは非常に賢明な戦略だ。合弁事業の相手先候補としてインドの会社を評価・選定する際には、ビジネス上の役割と企業文化の2つの側面から評価することが重要である。そのためには、日本企業とインドの提携先企業間の価値連鎖において、新しい関係がもたらす基本的な優位点と不都合な点とを検討することに併せて、インド独自の環境を考慮する必要がある。

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