政治・経済

このごろ、IoT(Internet of Things)という言葉をよく聞く。「モノのインターネット」と直訳されているが、どうもよく分からない人が少なくないのではないか。IoTとは何のことで、どうして騒がれているのか。これからどんな影響があるのか、あらためて解説する。文=ジャーナリスト/梨元勇俊 

つながることで新しい価値が出現

 IoTの具体例としてよく取り上げられるのが「スマートロック」だ。スマートフォン(スマホ)のアプリで提供されている鍵を利用して解錠できる施錠方法のことだ。自宅のドアの内側にスマホからの電波を検知してドアロックを解除できる装置を取り付けるものなど各メーカーからさまざまな製品が出ている。

 これなら従来型の鍵を持ち歩かなくても済むし、離れた場所からでも鍵を開けることができる。ハウスキーパーにメールなどで「指定日時に開け閉めの権限を得るためのアドレス」を送っておけば事前に鍵の実物をやりとりしなくても自由に外出できる。

 開け閉めの時間や回数を記録することもできるので一人暮らしの高齢者の家に取り付ければ、夜中に外出したり、逆に何日も外出した気配がないことが遠隔地でも把握できるため、鍵の開け閉め情報が介護支援にも役立つ。

 鍵と同様にIoTは家の中のモノすべてに応用できる。エアコンのスイッチをスマホにつなげば、外出先から室内の温度や湿度などを快適に保つことができる。照明につなげれば、点灯・消灯がいつでも、どこにいても自在にできるし、風呂のスイッチにつなげば帰宅後すぐに汗を流せる。

 自動車でもスマホのアプリがカーナビゲーションの代わりになるだけでなく、道路の混雑状況や自転車の飛び出しが多い場所などの情報も得ることができるようになる。安全運転に役立つだけでなく、これらの情報を活用すれば、運送業者がどんなクルマで何を、どのルートで配送すれば一番効率がいいのか分析することも可能だ。

 医療でも、スマホから自分の血圧や体温などの情報を医師に送ることで、地方や海外旅行先にいてもかかりつけの医師に診断サポートをしてもらうことができる。このごろはスマホに代わる時計型や眼鏡型のウエアラブル端末の開発が盛んなので、医療分野のIoTはこれからもっと進むだろう。

 このようにIoTとは、「これまでデジタルとは無縁だったものごとがインターネットとつながることで、これまでにない新しい使い方や価値が生じること」を指している。

「作って、売って終わり」ではない

 人間はかつて、対面の会話や手紙で情報交換をしていた。それが電話に代わり、次いでコンピューターが登場して遠隔地でも同時刻でなくても機械を介して情報をやりとりできるようになった。今はスマホやタブレットなどのハードウエアと、LINEやメッセンジャーなどのソフトウエアが情報交換の主流だ。

 インターネット上のウェブサイトの数は世界で10億件以上、1日でやりとりされる情報量は44兆ギガバイト以上とされ、今も刻々と増え続けている。この膨大な情報量がIoTを進化させた。人工知能(AI)などの力を借りて情報を取得し、蓄積し、分析してフィードバックすることでユーザー一人一人のニーズに寄り添うことが可能になってきている。

 これからのメーカーは「作って売って、終わり」ではない。ユーザーのライフスタイルの変化に合わせて接触しつづければ、ひとりのユーザーを半永久的に捕まえることができるからだ。IoTが進展すれば、メーカーはユーザーの嗜好や使い方を把握した上で、製品の耐用年数が迫れば修理を促したり、新製品との交換を提案するようになるだろう。

 モノづくりは今後IoTによって、作り手からの一方的な提案ではなく、使い手のニーズに合わせて多種多様に変化する可能性がある。既存の業態や産業構造を根底からひっくり返してしてしまうかもしれない。これがIoTが騒がれている理由ではないか。

 スマートロックもウエアラブル端末も、今はごく一部にしか普及していない。だが、ユーザー(言い換えれば消費者)は利便性や効率化に敏感だ。これまで数千円掛かってたモノやサービスが数百円で手に入ったり、それまでかなり手間を取られていた作業が不要になるなど、ユーザーがコストの軽減や利便性の向上を実感すれば、状況が一変するかもしれない。スイカやパスモなどの交通系ICカードが、窓口に並ぶ時間の短縮などの利便性で利用者を増やしたように。

 IoTの進展に呼応するかのようにデジタルユーザーのスキルも急速にバージョンアップしている。パーソナルコンピューターが誕生して30年。もはやパソコンを使えない人はほとんど見かけなくなったが、物心ついたときからデジタル関連機器に囲まれて育った「デジタルネイティブ世代」は情報端末を使いこなして自分が欲しい価値を自分で創り出す能力を備えている。アルバイト先の作業マニュアルを作るのでも、スマホで作業の節目を撮影し、それにコメントを入力してカネや時間をかけずに簡単につくってしまう。

 IoTは情報量の増大とユーザーのスキルアップでその進化を加速させている。自分には無縁と背を向けていては、その果実を取り損なう。前向きな興味を持って進展を見守りたいものだ。

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