
予想以上に内容が濃かった民進党の代表選
あらためて言うまでもなく、人事は組織運営の要諦である。人材を生かすかどうかは、人事に懸かっているといっても過言ではない。そしてそれが、リーダーにとって必要不可欠の要であることは、企業経営に関わっている人たちであれば、痛いほどよくご存じのはずだ。そんな人事について永田町では、まさに「明と暗」がくっきりと分かれた。
9月15日、野党第1党の民進党代表選が行われ、蓮舫氏が新代表に選出された。蓮舫氏は、「富士山から飛び降りる覚悟だ」と語り、いの一番に出馬に名乗りを挙げた。岡田克也代表、枝野幸男幹事長、安住淳国対委員長といった当時の執行部が蓮舫氏支持を明らかにした。それぞれがどの候補者を支持するのかを明らかにするのは問題ではない。しかし、党幹部の中から無投票にする動きが出てきたことが「第1の問題」だった。
「野党の代表選は『コップの中の嵐』で、世間の関心はない。無投票でいい」
そんな声が伝わってきた。これこそ、民進党が看板を変えて中身が変わらない有権者の苛立ちを如実に表している。政権運営失敗の反省がない――これこそが、支持率低迷の一番の要因であるはずなのに、看板や代表の顔を変えれば済む、そんな思考が見え隠れするのだ。
危機感を持つグループが、ようやく担ぎ出せたのが、前原誠司元代表、玉木雄一郎氏の2氏だった。とりわけ玉木氏が立候補に必要な推薦人20人を集められたのは、告示日前日の夜だった。「あからさまに恫喝の電話をかけ、推薦人から降りるよう働きかける党幹部がいた」と、玉木陣営の一人は語る。“コップの中の嵐”のはずが、内部では相当な足の引っ張り合いが展開されていたのである。
その後、蓮舫氏の二重国籍問題が火を噴く。ところが、蓮舫氏本人の弁明はあるものの、党の選管などはソッポを向いたままだった。普通に考えれば、仕切り直しをするか、党本部主導によって蓮舫氏に説明の場を持たせるとか、説明責任を果たさせるかをしなければいけなかっただろう。せっかくの代表選が、陳腐な争いになったようだ。
それでも、代表選の最終スピーチは3氏とも堂々たるものだった。誰が代表になってもおかしくない、見事な内容だった。かつてはタカ派の代表選手のように見られていた前原氏は、低い目線で内政を立て直すための政策を訴えた。しかも、自らが戦犯だったことを自覚し、反省とともに党の立て直し、国の立て直しの先頭に立たせてほしいとの言葉は心に響いた。玉木氏の「民進党を変えたい」という叫びにも似た訴えは、聴衆の胸に届いたはずだ。
蓮舫氏の圧勝だった。それでも、内容の濃い代表選を戦った結果で、後は一枚岩の党になれば誰も異論はなかったはずだ。ところが――。
冷え切った民進党と凄みを見せた自民党
翌日、党人事で真っ先に名前が挙がったのが、野田佳彦元首相だった。蓮舫氏が参加する花斉会の会長で、蓮舫氏が師と仰ぐ人物である。その野田氏をナンバー2の幹事長に据えたのである。その他、花斉会人脈や野田内閣時のメンバーが脇を固めた。これでは、蓮舫氏の自己保身や派閥重用人事と言われても仕方ない。一気に党内の温度は冷え込んだ。
一方の自民党は、民進党代表戦から時計の針を遡ること約1カ月、参院選後に内閣改造および党人事を行った。
注目されたのは、幹事長に二階俊博総務会長を抜擢したことだ。本来、谷垣禎一幹事長は続投の方向だったが、自転車転倒事故による頸髄損傷で入院中の谷垣氏が固辞したため、安倍晋三首相は“知恵を絞った”格好だ。
官邸で冷え切った2人と揶揄されてきた安倍首相と菅義偉官房長官。霞が関を掌握してきた菅氏は、官邸の要と呼ばれてきた。安倍首相からすれば、菅氏を官房長官から外せない。かといって、これ以上力をつけさせるわけにもいかない。そんな時、もう一人の実力者を空いたポストに据える人事を見せたのである。
2人の大関が、がっぷり四つの組手で大相撲を繰り広げる。両大関のガチンコ対決は、これまで以上に自民党の凄味を感じさせる。一人横綱の安倍首相は高見の見物といったところだ。支持率は下がることなく、「次の一手」をじっくり考える余裕すら作り出すことに成功したと言えるのではないか。
永田町の人事の明と暗は、ものの見事に対照的なものとなった。人事の失敗で、低調から脱することができない蓮舫民進党を横目に見ながら、早くも官邸周辺では年明け解散の声が出始めている。野党がこのような体たらくでは、まだまだ安倍政権は安泰なのだろう。
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