マネジメント

20161101UT_P02

(わかやま・よういち)1971年愛媛県生まれ。日本大学に進学するも、アルバイトに専念、起業資金を貯める。テンポラリーセンター(現パソナ)、クリスタルを経て、95年UTグループの前身となるエイムシーアイシーを設立。2003年には製造派遣業界で初の上場を果たす。

 安倍政権は働き方改革を進めているが、そこでカギを握るのが派遣社員。「同一労働、同一賃金」が実現すれば待遇は改善されるとはいうものの、労働人口が減り続けているため人手不足が恒常化、派遣社員の採用そのものが難しくなっている。そうした中、派遣社員を5年で3倍に伸ばそうという中期計画を策定したのがUTグループ。しかも、社員の給料を平均で20%増やすという。どうすればそんなことが可能なのか。若山陽一社長に話を聞いた。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐藤元樹

環境が後押しし業績は絶好調

―― 人手不足が深刻化しています。派遣業界でもいかに人材を確保するか、各社とも頭を痛めています。その中にあってUTグループは、高成長を続け、派遣社員数も増え続けています。その理由は何ですか。

若山 当社は製造業派遣の会社としては、この5年間、もっとも大きく成長した会社です。その要因は3つあります。

 第1に、製造業派遣マーケットの環境が大きく変わったことが挙げられます。昨年10月、労働者派遣法が改正され、派遣社員のキャリア形成の支援が義務づけられました。そこで多くの派遣会社がその対応を迫られましたが、当社は創業時から、派遣社員を正社員として雇用し、教育にも力を入れてきましたから、その強みを発揮できる環境になりました。

 第2に、求人求職の需給が逼迫したことです。現在の有効求人倍率は1.37で、ここ20年でもっとも高い。その点、当社は、かつては半導体に特化した製造業派遣だったものを、5年間で、製造業全般へとマーケットを広げると同時に、全国50カ所に拠点を設置、各拠点で営業・採用・管理を一体で推進できるようになりました。これにより派遣先企業の数が増えた。企業数が増えると採用人数も増える。この好循環によって、業績を伸ばすことができたのです。

 第3に、求められるコンプライアンスがより厳しくなってきたこと。例えばアップルはサプライヤーに対して、EICC(電子機器メーカーが定めたサプライヤーの労働環境のガイドラインおよび団体)に準拠するよう求め、現場で働く派遣社員に対して直接インタビューするなど、厳しくチェックしています。もしここからはずれると、サプライヤーになることはできません。

 つまり、育成、採用、コンプライアンスの3つの条件が厳しくなったために、それに対応できる派遣会社が絞られた。そのため、派遣を要請する企業が増えると同時に、当社で働きたいという人材も増えることにつながりました。そのひとつの指標が、同業他社から当社に移ってくる社員の多さです。当社はその数が業界一多い。それが働く人たちの当社に対する評価だと自負しています。

―― UTグループは、「製造業派遣日本一」の旗を掲げていましたが、現状は。

若山 日本一と言い始めたのは5年ほど前のことで、当時は社員数5千人。日本最大の製造業派遣会社は9千人ほどでした。それが今、当社の社員数は1万3千人を超えました。最大手のところは上場していないため正確な数字は分かりませんが、1万3千人台です。ですからほぼ肩を並べています。

派遣社員からエンジニアに

20161101UT_P01―― 日本一を達成したとなると、次なる目標は何でしょう。

若山 昨年、2021年3月期を最終年度とする5年間の中期経営計画を策定しました。そこでは「日本全土に仕事をつくる」とうたっています。日本のものづくりを支える「雇用創造インフラ」となることを目指しています。

 数値目標としては、売上高1450億円(16年3月期実績440億円)、EBITDA(営業利益に減価償却費を足した数値)100億円(同25.7億円)ですが、社員に関して言えば、当時1万人だった社員を3万人に増やすと同時に、社員給料の20%アップを達成します。

―― 売上高もEBITDAも、年間30%ずつ伸ばしていくわけですか。随分と野心的な計画ですね。

若山 ここ10年間を平均すれば、毎年25%ずつ成長してきました。しかも最初にお話ししたように、育成、採用、コンプライアンスの3つを提供できるコンペチターはあまりいません。ですから、これからのほうが成長しやすいと考えています。

―― 成長のためにはM&Aという手段もあります。

若山 製造業派遣会社の多くが、1970年代に誕生しています。それから40年がたち、事業承継の時期を迎えています。そうした中にシナジーが期待できるところがあれば、M&Aもひとつの選択肢です。

 ただし、M&Aで重要なのはインテグレーションです。効果を発揮するには、働く人の気持ち、感情を大切にしなければなりません。つまるところ、買収先の社員、取引先が、M&Aを受け入れてくれるか、われわれと一緒になることで喜んでもらえるかです。

 3年前にはパナソニックの子会社の、電池の製造請負・派遣会社、パナソニック バッテリー エンジニアリング(現UTパベック)を買収、子会社化しましたが、非常にうまくいっています。人を大切にするパナソニックの人づくりの在り方には、学ぶところも多い。一方で向こうの社員にしても、活躍の場が広がった。お互いに得るものがあるM&Aでした。こういう案件があれば、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

―― 中計でもうひとつ驚いたのが、給料の20%アップです。そんなことができるのですか。

若山 難易度は高いです。ですがこれにチャレンジしなくては、この仕事をやっている価値がないとさえ思っています。もちろん派遣社員のままで20%上げるのは不可能です。そこで社員に研修を行い、エンジニアになってもらいます。当社は製造業派遣会社だけでなくエンジニア派遣会社もグループ内にあるので、こちらに転籍してもらう。製造業派遣社員からエンジニアになると、月に約10万円給料が上がります。

 これが「One UT」というもので、昨年1年間だけでも130人がジョブチェンジしました。これを5年後には、毎年1千人がエンジニアになるようにしたい。そのための支援は惜しみません。

執行役員の3割が派遣社員からの昇格

―― 執行役員の中には派遣社員から昇格した人もいるとか。

若山 当社には「エントリー制度」というものがあり、年に1度、現場の全社員がマネージャーや執行役員に立候補できます。

 この春に出した、経営評論家の神田昌典さんとの共著「未来から選ばれる働き方」(PHPビジネス新書)の中でも紹介しましたが、中卒で時給900円で働いていた社員が、今は執行役員です。彼は現場のライン長からマネージャーとなり、そこで社員採用で結果を残し、採用部門の執行役員にエントリーしてきました。彼のこれまでの実績と、それまで別々だった中途と新卒の採用の一本化の提案を評価して、執行役員に採用しました。

 彼以外にも、エントリー制度によって執行役員になった社員は、全執行役員中3割ほどを占めていますし、今後、もっと増やしていこうと考えています。

―― 冒頭の話にもあったように、人材育成への取り組みが、UTグループの競争力を高めています。若山社長の人材に対する考え方を教えてください。

若山 一般的に派遣業界では派遣社員は商品、という考え方があります。あるスキルを持っている人材を、それを必要とする現場にマッチングする。それが派遣会社であり、受け入れる側は一時的臨時的な問題解決のために派遣してもらう。それが一般的でした。

 しかし、ものづくりの現場では50万人の派遣社員が働いています。恒常的に日本のものづくりを彼らが支えている。それならば、彼らを使い捨てのように使うのではなく、彼らを育成し、彼らからお客さまに選ばれる会社でありたいと考えています。

 01年のITリセッションの時、製造業派遣市場は初めてシュリンクしました。この時、社員たちと何を大事にするべきか、徹底的に議論しました。それで生まれたのが「はたらく力で、イキイキをつくる」という企業理念です。派遣で働くすべての人にイキイキと働いてもらうためにどうするか、それを考え、実行するのが重要だと思います。

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