文化・ライフ

英パフォームグループと大型放映権契約を締結したJリーグ

 まさに慈雨である。Jリーグは来季から英動画配信大手のパフォームグループと10年総額2100億円の大型放映権契約を結んだ。

 1年平均で210億円。今季の放映権料が50億円だから約4倍だ。

 Jリーグは、この巨額の軍資金を成績や観客動員数に応じて傾斜配分する方針を示している。これまで約1.9対1だったJ1とJ2の配分比率は2.5対1に拡大する見通し。端的に言えば、世界に通用するビッグクラブをつくるというわけだ。

 カズこと三浦知良(J2横浜FC)が自らのコラムで、こう書いていた。

 〈スペインのバルセロナやレアル、ドイツならバイエルン。優勝してばかりでつまらないとしても、そういうチームがいるから盛り上がる。ネームバリューも圧倒的だから、お金を投じる人が出てくる。そんな断トツのビッグクラブが日本にもできないとダメかなと思う。リーグを潤すお金は水と同じ。上から下に流れても、下から上には流れにくい。下を平等に潤すだけだと繁栄もしないのでは〉(日本経済新聞9月16日付)

 Jリーグがスタートして23年。地域密着の理念は、ある意味、プロ野球に対するアンチテーゼだった。

 プロ野球がフランチャイズと呼ぶのに対し、Jリーグはホームタウンだ。前者が営業権を意味するのに対し、後者は地域権。初代チェアマンの川淵三郎は「Jリーグにプロ野球の巨人はいらない」と喝破した。

 実際、Jリーグに巨人は生まれなかった。Jリーグを制したクラブは鹿島アントラーズ(7回)、横浜F・マリノス(合併前を含む)、ジュビロ磐田、サンフレッチェ広島(以上3回)、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、ガンバ大阪(以上2回)、浦和レッズ、名古屋グランパス、柏レイソル(以上1回)と9つもある。

ビッグクラブのないJリーグの良い点とは

 驚くことにこの数、87年の歴史を誇るリーガ・エスパニョーラと同じなのだ。

 内訳はこうだ。レアル・マドリード(32回)、バルセロナ(24回)、アトレティコ・マドリード(10回)、アスレティック・ビルバオ(8回)、バレンシア(6回)、レアル・ソシエダ(2回)、デポルティーボ・ラコルーニャ、セビージャ、レアル・ベティス(以上1回)。レアルとバルサ、2強の王座占有率は実に65.9パーセントに達する。

 23年の歴史しかないリーグと87年の歴史を誇るリーグのチャンピオンの数が同数というのは、確かに不思議ではある。

 もっとも、“どんぐりの背比べ”と化しているJリーグにも良い点はある。

 資金力が潤沢ではないローカルクラブでも、優秀な指導者がいて、育成システムが整備されていれば、都市部のクラブや大企業を母体とするクラブと互角以上に渡り合うことができるのだ。

Jリーグクラブ経営陣は巨額の分配金をどこに投資するか

 その好例が2012、13、15年とJリーグを制したサンフレッチェ広島だろう。広島の15年度人件費約18億円はJ118チーム中、真ん中あたり。それでいて、これだけの結果を残すのだから、クラブの経営者はもっと評価されていい。

 その広島でもアジアチャンピオンズリーグではベスト16止まり。15年のアジアチャンピオンズリーグで優勝した中国の広州恒大にはブラジル代表のMFパウリーニョや元同国代表FWリカルド・グラールが在籍している。中国のビッグクラブとの格差は広がる一方だ。

 日本にもビッグクラブを、と願っている関係者はカズだけではない。2100億円もの巨額放映権料は、それを後押しすることになるだろう。

 しかし、問題は分配される資金を有効にいかせるかどうか、だ。Jリーグの、そしてJクラブの発展はそこにかかっている。

 「リーグの二極化は時の流れ。強いチームにカネが集まり、弱いチームは廃れていく。競争原理とは、そういうものでしょう」

 そう語るのは元日本代表の大野俊三だ。続けて、こんな懸念も口にする。

 「問題は、せっかく巨額の分配金を手にしても、それを有効に使えるだけのフロントがいるかどうか。フロントの手腕が未熟では魅力的なチームは育たない」

 サッカーに限らず言えることだが、プロスポーツ発展のための両輪は「競争」と「協調」である。Jリーグは、これまでは協調路線に軸足を置いてきた。J1、J2、J3合わせて53クラブにまで拡大したのは、その成果と言える。

 だが、拡大路線はそろそろ限界に近づきつつある。ここから先はクラブ間の競争だろう。大野が指摘するように、今後はクラブ経営者のビジョンと投資戦略が問われることになる。(文中敬称略)

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る