政治・経済

20161115ibaraki公職選挙法の改正によって選挙年齢が18歳に引き下げられたことで、自治体は今まで以上に若者を対象とした広報活動が必要となってきた。若者のテレビ、新聞離れが進む今、茨城県が取り組んできたインターネット動画サイト「いばキラTV」が全国の自治体から注目されている。文=本誌/井上 博

公職選挙法の改正によって注目されるネット動画

 2015年6月の公職選挙法等改正によって、18歳以上20歳未満の者が新たに選挙に参加できるようになった。改正後、初の国政選挙となった今年7月の参議院選挙では、マスコミ各社が選挙特集を組み、自治体では高校生の選挙体験を実施するなど選挙権を持った世代に投票をアピールしてきた。

 しかし、いくら投票を呼び掛けても国や自治体が行っている施策や活動を知ってもらい、関心を持ってもらわなければ選挙は単なる人気投票となってしまう。新しく選挙権を持った世代、投票率が低い20代に行政の情報をいかに伝えるかが、全国の自治体の課題となっている。

 その解決策のひとつとして注目されているのが、日本で一番見られている自治体の動画サイトといわれる茨城県のインターネット動画サイト「いばキラTV」である。

 「若者の新聞離れ、町内会の加入率の減少などによって、昔からの自治体の広報活動である広報誌、掲示板でのポスター、回覧板では若者に限らず、すべての世帯にまんべんなく行政の情報を届けることは難しくなってきました。この世代や世帯の変化、インターネットに対応した行政情報を発信するサイトとして『いばキラTV』はスタートしました」と、説明するのは「いばキラTV」を企画、運営する茨城県広報監の取出新吾氏。

 実は、茨城県は全国で唯一、ローカルの民放テレビ局がない県。そのため、県議会の中継や行政の活動などテレビ番組を通じて情報発信ができない。また、地域のメディアとしての役割を持つケーブルテレビも、県内の一部の地域では提供されていない。県内全域をカバーするローカルテレビやケーブルテレビのない茨城県は、県全域に発信するメディアとしてインターネットに着目、12年に「いばキラTV」を立ち上げた。

 取出氏は、米半導体大手のインテル在籍時の13年から広報ICTディレクターとして「いばキラTV」のテコ入れを図り、15年にインテルを退職。広報監に就任する。

 「開設当初は、テレビ局へのこだわりからライブ動画サービス『Ustream』をプラットフォームに採用、まさにインターネットTVでした。要望が多かった県内のニュースをライブで配信しましたが、『Ustream』での番組配信では本来の目的である情報発信までには至りませんでした。そこで、いつでも好きなときに見られるオンデマンド型の動画配信サービス『YouTube』にプラットフォームを変え、番組という枠にとらわれずにさまざまなコンテンツを増やし、『いばキラTV』のサイトだけではなく、YouTubeのチャンネルとして情報発信する形に変えました」

 その結果、YouTubeを見る若者を中心にアクセスを増やし、自治体の動画サイト“行政動画”の中でコンテンツ数、YouTubeの再生数、チャンネル登録数で全国1位を達成する。この集客力が全国の自治体から注目される理由である。

多様なコンテンツが茨城県の魅力を発信する

20161115DOUGA_P01

取出新吾氏

 “行政動画”というコンテンツを拡大させた「いばキラTV」が公開する動画数の本数は約8500。その種類も「スポーツ」、「エンタメ」、「観光・グルメ」、「県からのお知らせ」、「いばらきセレクション」など、多様な情報を発信している。

 「行政動画というとイメージアップCMや観光地のPRビデオがありますが、その多くは県外など外部に向けたものです。それに対して『いばキラTV』は、県内に向けたコンテンツがほとんど。その多様なコンテンツは、“素”の茨城県の情報として全国に発信され、観光だけではなく住みたい県としての茨城県の良さのアピールにもつながっています」と、取出氏。

 テレビ局がないことから開設されたが、今ではテレビが放送しない高校生サッカーの地方予選、テニスの県大会など独自のコンテンツも増え、ネット動画の特性を生かしたコンテンツも人気となっている。

 「一番人気は、女性の大食いタレントが茨城県内でデカ盛り料理を食べる『いばらきペロリ』。過去の放送が見られないテレビと違い、いつでも見ることができるネット動画は地域のグルメ情報に最適です。また、19年に開催する茨城国体の選手育成のための弓道の動画は、弓道を学ぶ動画がなかったために予想外にアクセスがありました」

 前例の少ない行政動画という分野だけに、時にはアクセスが増えないコンテンツもあったが、まずはやってみることで行政動画のノウハウを蓄積してきた。今ではそのノウハウが認められ、全国の自治体からの視察も増えている。今年の4月、神奈川県も「かなちゃんTV」を立ち上げ、自治体によるネット動画の発信が動き始めている。

 「これからも多様なコンテンツを発信し、県内だけではなく県外にも茨城県の魅力を発信していきます」と、取出氏。

 「いばキラTV」を見る若い世代が、茨城県を担う世代になった時、ネット動画の役割はますます大きくなる。全国の自治体が広報活動を課題とする中、ネット動画による行政動画は全国に広がっている。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る