[NEWS REPORT]
「攻める」茨城県のネット動画に自治体広報も注目
2016年10月31日

公職選挙法の改正によって選挙年齢が18歳に引き下げられたことで、自治体は今まで以上に若者を対象とした広報活動が必要となってきた。若者のテレビ、新聞離れが進む今、茨城県が取り組んできたインターネット動画サイト「いばキラTV」が全国の自治体から注目されている。文=本誌/井上 博
公職選挙法の改正によって注目されるネット動画
2015年6月の公職選挙法等改正によって、18歳以上20歳未満の者が新たに選挙に参加できるようになった。改正後、初の国政選挙となった今年7月の参議院選挙では、マスコミ各社が選挙特集を組み、自治体では高校生の選挙体験を実施するなど選挙権を持った世代に投票をアピールしてきた。
しかし、いくら投票を呼び掛けても国や自治体が行っている施策や活動を知ってもらい、関心を持ってもらわなければ選挙は単なる人気投票となってしまう。新しく選挙権を持った世代、投票率が低い20代に行政の情報をいかに伝えるかが、全国の自治体の課題となっている。
その解決策のひとつとして注目されているのが、日本で一番見られている自治体の動画サイトといわれる茨城県のインターネット動画サイト「いばキラTV」である。
「若者の新聞離れ、町内会の加入率の減少などによって、昔からの自治体の広報活動である広報誌、掲示板でのポスター、回覧板では若者に限らず、すべての世帯にまんべんなく行政の情報を届けることは難しくなってきました。この世代や世帯の変化、インターネットに対応した行政情報を発信するサイトとして『いばキラTV』はスタートしました」と、説明するのは「いばキラTV」を企画、運営する茨城県広報監の取出新吾氏。
実は、茨城県は全国で唯一、ローカルの民放テレビ局がない県。そのため、県議会の中継や行政の活動などテレビ番組を通じて情報発信ができない。また、地域のメディアとしての役割を持つケーブルテレビも、県内の一部の地域では提供されていない。県内全域をカバーするローカルテレビやケーブルテレビのない茨城県は、県全域に発信するメディアとしてインターネットに着目、12年に「いばキラTV」を立ち上げた。
取出氏は、米半導体大手のインテル在籍時の13年から広報ICTディレクターとして「いばキラTV」のテコ入れを図り、15年にインテルを退職。広報監に就任する。
「開設当初は、テレビ局へのこだわりからライブ動画サービス『Ustream』をプラットフォームに採用、まさにインターネットTVでした。要望が多かった県内のニュースをライブで配信しましたが、『Ustream』での番組配信では本来の目的である情報発信までには至りませんでした。そこで、いつでも好きなときに見られるオンデマンド型の動画配信サービス『YouTube』にプラットフォームを変え、番組という枠にとらわれずにさまざまなコンテンツを増やし、『いばキラTV』のサイトだけではなく、YouTubeのチャンネルとして情報発信する形に変えました」
その結果、YouTubeを見る若者を中心にアクセスを増やし、自治体の動画サイト“行政動画”の中でコンテンツ数、YouTubeの再生数、チャンネル登録数で全国1位を達成する。この集客力が全国の自治体から注目される理由である。
多様なコンテンツが茨城県の魅力を発信する
“行政動画”というコンテンツを拡大させた「いばキラTV」が公開する動画数の本数は約8500。その種類も「スポーツ」、「エンタメ」、「観光・グルメ」、「県からのお知らせ」、「いばらきセレクション」など、多様な情報を発信している。
「行政動画というとイメージアップCMや観光地のPRビデオがありますが、その多くは県外など外部に向けたものです。それに対して『いばキラTV』は、県内に向けたコンテンツがほとんど。その多様なコンテンツは、“素”の茨城県の情報として全国に発信され、観光だけではなく住みたい県としての茨城県の良さのアピールにもつながっています」と、取出氏。
テレビ局がないことから開設されたが、今ではテレビが放送しない高校生サッカーの地方予選、テニスの県大会など独自のコンテンツも増え、ネット動画の特性を生かしたコンテンツも人気となっている。
「一番人気は、女性の大食いタレントが茨城県内でデカ盛り料理を食べる『いばらきペロリ』。過去の放送が見られないテレビと違い、いつでも見ることができるネット動画は地域のグルメ情報に最適です。また、19年に開催する茨城国体の選手育成のための弓道の動画は、弓道を学ぶ動画がなかったために予想外にアクセスがありました」
前例の少ない行政動画という分野だけに、時にはアクセスが増えないコンテンツもあったが、まずはやってみることで行政動画のノウハウを蓄積してきた。今ではそのノウハウが認められ、全国の自治体からの視察も増えている。今年の4月、神奈川県も「かなちゃんTV」を立ち上げ、自治体によるネット動画の発信が動き始めている。
「これからも多様なコンテンツを発信し、県内だけではなく県外にも茨城県の魅力を発信していきます」と、取出氏。
「いばキラTV」を見る若い世代が、茨城県を担う世代になった時、ネット動画の役割はますます大きくなる。全国の自治体が広報活動を課題とする中、ネット動画による行政動画は全国に広がっている。
好評連載
深読み経済ニュース
一覧へ2015年の経済見通し
[連載] 深読み経済ニュース解説

[連載] 深読み経済ニュース解説
再デフレ化に突入し始めた日本経済
[連載] 深読み経済ニュース解説
消費税率引き上げ見送りの評価と影響
[連載] 深読み経済ニュース解説
安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由
[連載] 深読み経済ニュース解説
日銀による追加緩和決定の影響は!?
霞が関番記者レポート
一覧へ財務省が仮想通貨の規制に二の足を踏む本当の理由――財務省
[霞が関番記者レポート]

[霞が関番記者レポート]
加熱式たばこ増税に最後まで反対した1社――財務省
[霞が関番記者レポート]
下水道におむつ処分流す仕組み検討開始 介護子育て負担軽減――国土交通省
[霞が関番記者レポート]
NEMの大量流出で異例のスピード対応 批判をかわす狙いも――金融庁
[霞が関番記者レポート]
バイオ技術活用提言 遺伝子の組み換えで新素材や医薬品開発――経済産業省
永田町ウォッチング
一覧へ流行語大賞に見る2017年の政界
[永田町ウォッチング]

永田町ウォッチング
堅実路線にシフトした安倍改造内閣の落とし穴
[永田町ウォッチング]
政治評論家、浅川博忠さんの「しなやかな反骨心」
[永田町ウォッチング]
無党派層がカギを握る東京都議選の行方
[永田町ウォッチング]
東京都議選は“小池時代”到来の分岐点か
地域が変えるニッポン
一覧へ科学を目玉に集客合戦 恐竜博物館に70万人超(福井県勝山市、福井県立恐竜博物館)
[連載] 地域が変えるニッポン(第20回)

[連載] 地域が変えるニッポン(第19回)
コウノトリで豊かな里山 自然と共生する町づくり(福井県越前市、里地里山推進室)
[連載] 地域が変えるニッポン(第17回)
植物工場、震災地で威力 雇用創出や活性化に効果(岩手県陸前高田市、グランパ)
[連載] 地域が変えるニッポン(第16回)
道の駅を拠点に村づくり(群馬県川場村、田園プラザ川場)
[連載] 地域が変えるニッポン(第15回)
好評ぐんぐん、「アメーラ」地域に活気、雇用を創出(静岡市、サンファーマーズ)
実録! 関西の勇士たち
一覧へワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)
ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)
ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)
ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)
ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄
ビジネストレンド新着記事
注目企業
一覧へワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)
昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

新社長登場
一覧へ「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡
創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

イノベーターズ
一覧へ老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治
フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

大学の挑戦
一覧へ専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長
2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

企業eye
一覧へ不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事
ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…
