政治・経済

20161115SUBARU_P01

新型「インプレッサ」を発表する吉永泰之・富士重工業社長(Photo=佐藤元樹)

スバルの快走が止まらない。世界の販売台数は前年度までで4年連続過去最高を更新。5年連続も確実な情勢だ。その結果、需要に供給が追い付かず、ユーザーは納車まで長い期間待たされている。いつになったら解消できるのか。文=本誌/関 慎夫

北米市場では「瞬間蒸発」

 「すべての車種が納車まで3カ月お待ちいただいています」とうれしい悲鳴を上げているのは富士重工業(スバル)の吉永泰之社長だ。

 10月25日には、5代目となる新型「インプレッサ」を発売。こちらも発売10日前の段階で、予定の2.5倍となる6千台の予約が集まるなど、上々の滑り出しを見せている。

 新型インプレッサは、スバルが誇る自動ブレーキシステム「アイサイト」と、衝突時にボンネット上にエアバッグが膨らむ「歩行者保護エアバッグ」、室内には「7つのエアバッグ」のすべてを標準装備とするなど、安全性能を一段と高めている。もっともそのために、2.0リットルの最廉価モデルでも200万円(税抜き)と、旧型車の同等モデルより10万円以上高い設定となっているが、「スバルの技術をお客さまに提供することがスタート。価格からのスタートではない」「以前は上級車種にしかアイサイトを付けていなかったが、分け隔てなく価値を提供したい」と、価格より価値追求のクルマであることをスバルの役員陣は強調する。これも納車待ち3カ月の自信のなせる業だろう。

 とはいえ、こと国内に限ってみれば、今年1~9月の登録車販売台数は約9万台で、前年比6%減にとどまっている。インプレッサの投入で販売が伸びたとしても、せいぜい前年並みが関の山だろう。

 ではなぜクルマが足りないかというと、北米での勢いが加速しているためだ。

 スバルは昨年、全世界で92万台を発売した。これは過去最高の記録だが、日本市場は12万台にすぎない。圧倒的シェアを誇るのが北米市場で、58万台を販売した。

 原油価格が高騰していた時代、北米市場ではハイブリット車などの低燃費車が人気を集めていたが、原油価格が下落するに従い、ピックアップトラックやSUV(多目的スポーツ車)などの人気が復活した。この波にのったのが、スバルの「レガシィ アウトバック」で、「工場から出荷した瞬間、蒸発する」と表現されるほどの人気となっている。そのお陰でインセンティブ(値引き)を低く設定できるため、業績寄与度も大きい。

 スバルは米インディアナ州に生産工場(SIA)を持つが、その生産能力は年間20万台。これでは北米市場の需要を賄うことができない。そのため不足分を日本で生産し輸出に回している。その結果、国内市場に出まわるクルマが少なくなり、冒頭の吉永社長の言葉にあるように、すべての車種で3カ月の納車待ちとなっている。新型車が出る場合は発売前にある程度、在庫を用意するものだが、インプレッサは予想以上に予約が殺到したことで、やはり3カ月待ちになるという。

増産に踏み切れない事情

 この状況を改善するため、スバルでは現在、SIAの生産増の工事を行っており、「11月末か12月末には現在の20万台が40万台になる」(吉永社長)という。それでも、現在のアメリカにおけるスバル人気を考えると「生産能力を倍にしても足りないこともあり得る」(同)という贅沢な悩みを抱えている。

 それならもっと増産体制を組めばいいようなものだが、吉永社長は過去に「スバルらしさを維持できるのは110万~120万台程度」と語るなど、規模を追うことは得策ではない、と考えている。

 現在のスバル人気はその独自性にある。スバルの代名詞である水平対向エンジンがもたらす走行安定性、他社に先駆け開発したアイサイトなど、スバルのクルマにはオリジナル技術が満載だ。それが差別化となって、ユーザーに「ほかのクルマとは違う」と満足させ、支持を集めてきた。規模が大きくなればなるほど、ユーザーの特権意識は小さくなる。独自性が強いメーカーだからこそ、適正規模はそれほど大きくない。

 そして「今年の販売台数は初めて100万台を超える」(吉永社長)。吉永社長の考える規模の限界まで、あとわずかだ。需要はいくらでもある。しかしスバルらしさは失いたくない。そのジレンマがスバルを悩ませる。

 規模拡大に慎重なのはもうひとつの理由もある。北米偏重の怖さである。全世界のスバル車の3分の2が北米で売られている。これはある意味、非常に効率がいいのだが、これまで北米市場は、原油価格の上昇・下降を繰り返し、そのたびに売れるクルマが変わってきた。今後、価格が高騰するようなことがあれば、いまのスバル人気もどうなるか分からない。それを考えれば、今以上の設備増強を決断するのは容易ではない。

 今が人気絶頂なだけに、その反動を恐れる気持ちは当然だ。とはいえ納車を待ちわびるユーザーのことを考えれば、いつまでも3カ月待ちを放置してはおけない。ある程度の納車期間は、人によっては期待を膨らませることにつながるが、長過ぎれば当然、メーカーへの不満につながる。

 贅沢な悩みと言ってしまえばそれまでだが、好調であっても、経営者の悩みは尽きない。

 

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