政治・経済

20161115GPIF年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をめぐって、不安の声が高まっている。将来の年金給付に向けて、厚生年金・国民年金の積立金を運用しているのがGPIFである。年金資金は国民の老後生活のために欠かせない。ところがその運用で巨額損失を垂れ流している。文=ジャーナリスト/吉岡浩史 

欧米に比べ稚拙な資産運用方針

 GPIFに対して、とりわけ不安の視線が向けられるようになったのは、今年度4~6月期の運用状況が公表された8月以降のことである。5兆2342億円の損失という結果に多くの国民が愕然としたからだ。資産運用の専門家に言わせれば、「長期の運用である年金資産運用について、短期的なパフォーマンスはそれほど重要ではない」(大手アセットマネジメント幹部)ということだが、やはり、不安心理は解消できない。

 GPIFの存在が従来にもまして注目されるようになったのは、同法人の資産運用改革が安倍政権下で行われたからでもある。結果として、2014年10月以降、年金積立金のうち、国内外株式で運用する割合は全体の12%から25%に拡大された。「貯蓄から投資へ」というアベノミクスの方針に沿って、安定的な債券運用の割合を縮小して、その分、株式の割合を高めたわけだ。

 だが、その大改革は今のところ、裏目にしか出ていない。「貯蓄から投資へ」という国民マネーの流れは一向に本格化せず、株価も一時の勢いを失って、低迷を続けている。「GPIFが実際に株式投資を拡大した当時、日経平均株価は1万9千円程度だった。その後、株式相場は反落局面に突入した」と大手証券幹部が指摘するような状況なのだ。したがって、すべての原因は相場環境に尽きるという見方も成り立つ。

 だが、資産運用のプロフェッショナルたちからは、「相場環境だけではない」という厳しい声も上がっている。例えば、ある有力アセットマネジメントのトップはこう語る。

 「GPIFは外部に運用を委託しているが、株式運用の場合ほとんどはインデックス投資のパッシブ(保守的)運用で、日経平均株価が下がれば、おのずとパフォーマンスも悪化する」

 株式相場が下がっても運用がそれほど悪化しない、あるいは逆に運用成果が上がるような高度な運用から程遠いという考え方である。「欧米などの年金運用機関はかなり以前から株式運用のウエートが高いが、それだけではなく、資産運用のレベルも相当に高い」状況に比べると、GPIFの運用レベルは「大きく見劣りする」というわけだ。

優秀な人材が集まらない仕組み

 GPIFをめぐっては、資産運用のレベルとは別の次元で問題視する声も上がってきている。それは組織の在り方に対する疑問と言っていい。そのひとつが独立行政法人という組織形態である。

 独立行政法人はかつて、特殊法人がその不透明さゆえに社会的な批判を浴びたことで導入されたものであり、批判の的となった「官僚の天下り→高給」という仕組みを是正したようになっている。したがって、独立行政法人は根拠法によって役職員たちの給与は「決して高くない水準に抑制されている」(中央官庁幹部)ことは間違いない。

 それはGPIFも例外ではないが、「そのような待遇で、優秀な人材を集めることができるのか」と外資系アセットマネジメントの幹部は首をかしげる。

 「GPIFは資産運用を外部に委託しているとはいえ、委託先の運用状況の精査などにはそれなりの専門性が必要であり、そのためには民間運用会社に匹敵するような待遇でないと優秀な人材を集められない」

 実は、この指摘は資産運用ビジネスに携わっている関係者から異口同音に発せられている。あるファンドマネジャーは「あの待遇では絶対にGPIFには転職しない」と断言するほどだ。ところが、GPIFを所管する厚生労働省は、それらの声には一向に耳を傾けない。なぜか。独立行政法人ではない組織に衣替えされると、厚生労働省の影響力が弱まりかねない懸念があるからだという。確かに過去の事例からすれば、中央官庁がその権限を死守することは決して珍しいことではない。

 実際、GPIFの理事長以下の人選については「実質的に厚生労働省の官僚が決定している」と他省庁の幹部は指摘する。しかも、日本銀行、NHK、預金保険機構といった公的機関の理事長などの場合、政府が選定した候補者は国会の場で意見表明した上で国会同意を得て就任となる国会同意人事の対象となっているが、GPIFを経営している理事長、理事などの人事に国会同意は必要ない。

 今年4月に理事長に就任した高橋則広氏も、15年1月に資産運用の要で運用管理業務担当理事兼CIOに就いた水野弘道氏も閣議了解というプロセスだけだった。

 「責任の重さの割に安い報酬でも引き受けた分だけ評価していい」

 高橋理事長などには、そうした同情論もないわけではない。中でも、高橋氏の場合、「就任を要請されたものの、一度は辞退した」という話もある。再度の要請を受けて、意を決したとすれば、その決意は一定の評価がなされていいかもしれない。が、果たして、そんな体制で国民の老後の糧が守れるのだろうか。

 少なくとも、現在の経営陣が運営するGPIFからは、国民が老後に安心できるような成果が示されていないことだけは間違いない。

 

【厚生年金】関連記事一覧はこちら

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る