マネジメント

20151115jetstar

帰省利用や気軽な旅など、日本の空に新たな需要を掘り起こしたLCC(低コスト航空会社)。今や航空需要の1割を占めるほどになっている。業績が低迷していたジェットスター・ジャパンも単年黒字化し、業界自体の成長が期待されるが、一方で、国際競争は激しさを増している。文=本誌/古賀寛明

主要3社とも黒字化を達成

 関西国際空港や成田空港の第3ターミナルに行くと、多くのLCCがアジア各地から到着し、また出発していく。ロビーを見渡しても、バックパッカーや若い女性のグループが目につく。そうした光景を見るたびに、LCCの登場が、国際線の旅を身近なものにしたのだという感慨が湧いてくる。

 今年、2千万人を突破することが確実視されている訪日外国人観光客の拡大をけん引したのは、ビザの緩和や円安といった面もあるが、LCCの貢献も忘れてはならない。日本はLCC後進国といわれるが、アジア地域、特に東南アジアでは航空需要の6割近くを占める。また、多くの海外LCCが就航先に関西空港を選ぶのもLCCならではの理由が関係している。

 客単価が低いLCCは、できるだけ多くの乗客を乗せねばならず、その結果、シート間隔は狭くなる。こうした理由から一般的に飛行時間は4時間以内が限度といわれる。関空が成田よりも人気という裏には、単純にアジアとの距離が近いといった地理的優位性もあるのだ。クルーズ船が博多港に集中するのも同じような理由からだ。

 日本にLCCが誕生したのは、2012年のこと。あれから4年、ようやく日系主要3社のLCCがすべて黒字化した。既に13年から黒字化したピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)は16年3月期に営業利益を過去最高の61億円にまで伸ばしている。ANAホールディングスの100%子会社であるバニラ・エアも15年3月期から黒字化を果たし、今期も15億円弱の営業利益を達成した。

 15年6月期は79億円の営業損失を出していたジェットスター・ジャパン(以下、ジェットスター)も、92億円もの改善に成功。1年前倒しで黒字化を達成し、13億円の営業利益を出した。主要3社がすべて黒字化したのは初めてのこととなる。さらに、日本の航空需要に対しLCCの割合はまだ1割程度と諸外国に比べても低いため、まだまだ伸び代はあると考えられており、今後の成長曲線も描きやすい。

 とはいえピーチは、3年連続の黒字で累積損失を解消したが、バニラ・エアとジェットスターには累損があるなど、財務基盤はまだ脆弱。さらに言えば、昨年来の原油安の影響で航空燃料も格段に安い、それが決算に好影響を与えていることは否めない。さらに国際的な視野でみれば、雨後の筍のように乱立していたLCCも競争激化で、淘汰の波が押し寄せているのだ。

国際間の競争激化で相次ぐ撤退・再編

 9月末、くまモンにそっくりなキャラクターを全面に出し、かわいいLCCと評判だった台湾の会社、Vエアが運航を停止した。羽田をはじめ、関空、セントレアなど日本路線を主な戦場としてきたが、日系LCCやシンガポールのスクートといったライバルとの競争に敗れた形だ。「フルサービスキャリアの親会社であるトランスアジア社の機材を利用するなど、LCCの基本である効率的な運航ができなかったのでは」(航空関係者)といった声も上がるなど、戦略的な失敗もあったのだろうが、突然の発表には驚かされた。

 Vエアに限らず、最近、アジア地域で撤退や再編といったニュースをよく耳にする。日本は、アジアの中で少し離れた位置にあることで、まだ本格的な競争には巻き込まれてはいないが、いずれ、その争いが始まるとみられている。主役となりそうなのが、マレーシアのエアアジアグループと、カンタス航空傘下のジェットスターグループだが、日本のジェットスターは黒字化したばかりだし、楽天が出資したことで話題になったエアアジア・ジャパンの再出発のめどはまだ立っていない。そうした意味では、競争はもう少し先なのかもしれない。ただ、そのときに備え、日本勢もそれぞれの成長戦略を取り始めている。

 ジェットスターは、グループメリットを生かしながら、今後は中国本土などアウトバウンド、インバウンド両方が見込める海外の都市を中心に就航する成長戦略を打ち出している。

 バニラ・エアも9月に成田空港とフィリピンのセブ、台北経由のホーチミンなどに就航するなど、国際線への新規就航が目立つ。また、この5月にはLCCでは初のアライアンスに参加。シンガポール航空傘下のスクートやタイガーエアといったLCCと共同戦線を張るなど、攻めと同様守りにも手を打っている。両社に共通するのは、現在の収益の柱である国際線を成長につなげていこうという考えだ。

 一方のピーチは地方創生の切り札としても期待されている。先日も、18年度中に北海道の新千歳空港を関西、那覇、仙台に続く4つ目の拠点にすると発表。道内他地域を新千歳空港や本州の空港と結ぶ予定だ。また、機内食に「近大マグロ」ならぬウナギ味の「近大ナマズ」を出すなど、豊富なアイデアで、価格だけに頼っていない。これが経営の安定化につながっている。

 ただ、LCCの損益分岐点は搭乗率80%前後といわれる。今後、航空燃料の上昇や新たなライバルの登場などを考えれば、黒字達成くらいではとても浮かれてはいられないようだ。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る