文化・ライフ

少年時代の生活風景がトレーニングそのもの

 9月場所こそ大関・豪栄道が全勝優勝を果たしたものの、最高位の横綱が白鵬、日馬富士、鶴竜と3人ともモンゴル出身であることを考えれば、依然として大相撲はモンゴル勢の天下であると言えよう。実に幕内力士42人のうち10人がモンゴル勢である。

 近年の幕内優勝を見てみよう。2013年からのモンゴル力士による賜杯占有率は9割を超える。

 いったい、どこにモンゴル勢の強さの秘密があるのか。

 元小結・時天空の間垣親方は説明する。

 「モンゴル出身の力士たちは子どもの頃から馬に乗っているからバランス感覚がいい。

 昔の日本人力士も船に乗ることで足腰が鍛えられていたという。名横綱の双葉山関も漁師の息子だったと聞いたことがあります」

 こう前置きして、自らの少年時代の生活風景について語り始めた。

 「自分の父親は(首都ウランバートルを取り囲む)トゥブ県の出身。子どもの頃、夏休みになると、家族で父の生家に行きました。マンションがたくさんあるウランバートルと違って、本当に田舎なんです。馬にも乗るし、井戸に水を汲みにも行く。

 井戸といっても家から1キロメートルはゆうにある。片手に10キログラム、計20キログラムの水をこぼさないように運ぶんです。水がなければ料理もできないから、必死で働きましたよ」

 生活そのものがトレーニングと言っても過言ではない。そもそも水汲みなどという言葉は、もうこの国では死語に等しい。

 別の見方をするモンゴル出身者もいる。元関脇・旭天鵬の大島親方だ。

 「僕もそうですが、白鵬も朝青龍も16歳頃から相撲を始めました。16歳になると、ある程度身体はできている。

 ところが日本には“わんぱく相撲”がある。あれが成長を阻害している面もあるのかなと……」

 わんぱく相撲の弊害。これは、どういうことか。

 「相撲を取る上で忍耐は大事です。でも小さい頃にケガをし、それに耐えるような生活をしていると、将来的にマイナスになるのではないか。

 というのも、今では小学生と言えども、体は結構大きい。中には体重が100キログラムを超えるような“豆力士”もいます。

 例えばヒザを痛めたとする。これが古傷になると苦労します。大相撲の世界に入ると、もっと体重の重い力士と戦わなければならないわけですから……」

 子どもの頃から、体を酷使してはいけないということか。モンゴル出身ならではの視点である。

相撲部屋の生活で日本語をマスター

 モンゴル出身力士や親方を取材していて感心するのは、日本語の上達速度である。来日して1年もたてば、ほとんどの力士が生活に不自由ない程度に日本語を操る。

 3年もたてば、日本人力士と、もう遜色ない。5年もたてば完璧と言っていい。

 プロ野球やサッカーのJリーグと比べれば分かりやすい。来日して3年、5年たつ選手でも、インタビューは母国語で応じている。

 ほとんどの球団が通訳を用意していることもあり、日本語をマスターする必要性が少ないからだ。

 日本のプロ野球で10年近く活躍した元メジャーリーガーが、帰国の際、「覚えた日本語は?」との質問に「こんにちは、ありがとう、さようなら……」と言った時には寂しさを禁じ得なかった。

 話をモンゴル出身力士に戻そう。大島親方によると、入門した当時の大島部屋には「モンゴル語を使ったら罰金」というルールがあったという。

 さて大島親方は、どうしたか。1人でカラオケ屋に行き、日本の歌謡曲を歌うなどして、1年もたたないうちに日本語をマスターしたという。

 モンゴル出身力士は母国語のモンゴル語に加え、たいていの者がロシア語を話すことができる。社会主義時代が長く、ロシア(旧ソ連)を手本としていたからだ。

 来日するまで、日本語を習った者は、ほとんどいない。学校ではなく相撲部屋での生活の中で身に付けていったのである。

 元大関・雅山の二子山親方のモンゴル出身力士評。

 「日本人力士にハングリー精神がないとは言わないが、小さい頃から何不自由なく生活し、高校や大学を経て入門する力士が今はほとんど。モンゴル出身力士は、親のため、家族のためという意識が非常に強い。だから、少々のことでは音をあげない。そこが決定的に違っているような気がします」

 豪栄道や琴奨菊、稀勢の里たちには、モンゴル出身横綱が元気な時に、横綱になってもらいたいものである。

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