マネジメント

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東京三菱銀行のニューヨーク支店長、ユニオンバンクCEOと豊富な国際経験を持つ金成憲道氏。キャリアを積む中で目の当たりにした、日本とは全く違う米国企業のCEO選定プロセスや、ガバナンスに対する姿勢の違いについて、牛島信氏が切り込む。構成=本誌/吉田 浩 写真=佐藤元樹

東京で既定路線の人事が白紙撤回になりかけた

牛島 今日は、以前本コーナーにご登場いただいたJPモルガン証券の森口隆宏シニアアドバイザーと同じく、三菱東京UFJ銀行出身で海外経験も長い、金成さんにお越しいただきました。森口さんのお話を聞いていて感じたのは、アメリカの銀行で執行部門を務め、株主や社外取締役とのやり取りを行ってきた経験が、とても重要な示唆に富んでいるということです。金成さんも同様の経験をされていますよね。

金成 私はもともと東京銀行の出身で、合併で東京三菱銀行になった後の97年からニューヨーク支店長を務めていました。日本では山一証券の破綻に始まる金融危機があった。そのころのニューヨーク支店というのは、主力に為替市場部隊がいて、彼らは東京の為替市場部門の指示で動く。これに関してはニューヨーク支店長は言葉は悪いですが、下宿屋の主人という立場でした。普段は日本のお客さまをお相手しているのがメーンでしたので、平時は楽しい役回りという雰囲気があったのです。ところが金融危機でそうはいかなくなってしまった。悠長に東京の指示を待って動いていると時差がネックになるので、ニューヨーク支店での判断が求められるようなった。下宿屋の主人から全権大使になったようなものです。その後、いったん、大阪支店に異動したのですが、たった1年でカリフォルニアに行くことになりました。

牛島 森口さんの後任、ユニオンバンクのCEOとして、ということですね。

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(かなり・のりみち)1946年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、70年旧東京銀行入行。97年旧東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)取締役ニューヨーク支店長に就任。2001~05年米ユニオンバンカル・コーポレーション(UNBC)社長兼最高経営責任者(CEO)およびユニオン・バンク・オブ・カリフォルニア(UBOC)頭取兼最高経営責任者(CEO)を務める。06年三菱東京UFJ銀行副頭取。07年以降、UNBC会長およびUBOC会長を兼務。08年10月より現職。

金成 森口さんは現地でCFOを4年間、CEOを4年間やられて、NYSE上場など華々しい業績を上げられていました。そのCEO3年目に、銀行の交代人事の一環で私が後任として赴任しろということとなりました。当時、ユニオンバンクには15名の社外取締役がいて、社内からの取締役は4人。こちらがマイノリティーです。一方、株式は三菱東京UFJで65%を所持していて、こちらではマジョリティーでした。そのオーナーが、「次のCEOは金成だ」と送りこんだんです。

牛島 日本の感覚では、何も問題はないですね。

金成 そのとおりですが、社外取締役は「フィデューシャリー・デューティ」、あえて訳せば受託者責任ということにこだわっていた。上場企業であれば、少数株主を含む、すべての株主の利益を最大化することに努め、彼らの利益に反することをしてはならないということです。

牛島 最近、日本でも話題になりはじめている言葉ですね。

金成 そこで「金成をCEOにすることが、それに沿っているのか」ということになるわけです。ユニオンバンクは、確かに65%の株式は三菱東京UFJが持っているが、ニューヨークで上場しているパブリックカンパニーだ、そこに自分たちが全く知らない日本人を連れてきて経営者にするのか、という話なんですね。三菱東京UFJの支店ではないという意味も込められています。そして、まずは副会長として赴任することになったのですが、現地に行って少しすると「金成はいい人物だが、リーダーシップがないようにみえる」というわけです。それも当然で、副会長とは言え、東京側から見ると「1年後にCEO」は既定路線だから、何も担当していない。でも社外取締役からは「何もしていないので、リーダーシップがない」と思われたわけです。

能力を示さないとCEOとして認められない

牛島 東京の親会社と現地の認識が完全に違っていたのですね。

金成 そこで、森口さんが一つミッションをくれました。もともと三菱銀行が持っていたバンクオブカリフォルニアには伝統かつ歴史ある海外支店、国際部門があったのですが、一方で社外取締役たちはカリフォルニアの地銀であるユニオンバンクに国際部門は戦略的に不要ではないか、その分資源をカリフォルニア州内に集中すべきであるとの意見でした。しかし、バンクオブカリフォルニア由来の国際部門はアメリカでも有数の歴史がある部門ですし、これを手放すのはあまりにもったいない。そこの調整をやれというわけです。バンクオブカリフォルニアを所有する経緯とその意義、ユニオンバンクとしての利点まで含めて、取締役会で何度も説明していった。その活動を通して、「金成が次のCEOでいいだろう」という話になっていきました。

牛島 森口さんと金成さんの作戦勝ちというところでしょうか。

金成 アメリカでは取締役会にリードディレクターという存在がいて、全体をまとめていく役割を担っています。彼が「金成でいこう」という考えになってくれたらしい。そうでなければ、私は1年で帰国することになっていたでしょう。

牛島 そんなことになっていたら、三菱東京UFJとしては大問題ですね。

金成 許されない事態ですね。森口さんのプレッシャーはいかばかりかというところです。私も1年間、晒し者として「あいつはどういうヤツなんだ」「アイツで大丈夫か」と見られ続けている。あんなに疲れる1年はほかにないですね。

牛島 今、後継者選びでそこまでやっているところは、日本では少ないでしょうね。

金成 どちらがいいということではなく、考え方が違います。その後は社外取締役との密なコミュニケーションを図ることにしたのです。そこで主要ポストすべてにサクセションプランを作り、その仕上がりをチェックし続ける。そのチェックにボードも加える。ただし、CEOとなるとそう簡単ではないのですが幹部人事を通じ風通しを良くするということは大事でした。社外取締役の役目は、1にストラテジー、2にCEOセレクションとおもってますから、それは重要なことなんですね。

社外取締役に定年制を導入

牛島 当時、ユニオンバンクのボードメンバーは誰が選んでいたのでしょうか。

金成 いろいろなルートがありましたが、年齢、性別、人種、専門分野、職業などのバランスを見ながら、選んでいました。問題は社外取締役の世代交代です。CEOは4年で交代していく。しかし、15人の社外取締役は代わらない。このままだと社外取締役の権限がどんどん脹らんでいくのではないかという危惧が出て来たんです。当然、そんな話をすると社外取締役が多数派であるボードでは抵抗に遭います。やりたかったのは、まず定年制の導入です。72歳で線を引き加えて任期を10年に定めようとしました。こうすれば比較的若い人も採用できますし、自然と社外取締役も交代していきます。先ほど言ったように、現在のボードは反対します。そこで、「ただし、新規就任の社外取締役から適用し現在のボードには適用しない」と註釈を付けた。こうでもしないと通らないし、通らなければ社外取締役の交代は進みません。

牛島 帰国されて三菱東京UFJでも副頭取に就任され取締役会での議論を経験されている。そうした経験を踏まえて、日本での社外取締役に関する議論はどのように感じられますか。20161115USHIJIMA_P03

金成 今の日本では、コーポレートガバナンス・コードの話があって、その中で「2人の社外取締役」について議論しています。取締役会の経営監視強化にはつながっており進歩しているのですが、日本の場合マジョリティーが社外ということは非現実であるし、そこが形として難しいところでしょう。ドイツでは取締役会があり、監査役会があり、経営執行部と、完全な役割分担がなされているいわゆるツーボードシステムです。アメリカでも取締役会と執行は分離している。取締役会は企業のストラテジーとCEOセレクションが大きな役割です。日本では、取締役会と執行役員がようやく分離され始めていて、社外取締役が入ってガバナンスをやるという話になっている。でも社外取締役も取締役だから、建前上は執行上の重要決断もするという、少し矛盾した状態です。

牛島 それはどのように対応していけば良いのでしょうか。

金成 お国柄も違うので、どの国の真似をすれば良いということではないと思います。日本では、「同じ釜の飯を食った仲」とう言葉があるように、仲間意識、企業への忠誠心が強い。外からどんなに良い人材を連れてきても、長年一緒にやって来た仲間で重要なことを決めたがる。そういう環境では、社外取締役にすべて任すという選択は難しい。何らかの形でわが国の風土に合い、かつ国外からの視線に耐えられるものを目指すということでしょう。(後編に続く)

(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

「同じ釜の飯」文化の日本企業に最適なガバナンスとは—金成憲道×牛島信(後編)

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