マネジメント

東京三菱銀行のニューヨーク支店長、ユニオンバンクCEOと豊富な国際経験を持つ金成憲道氏。キャリアを積む中で目の当たりにした、日本とは全く違う米国企業のCEO選定プロセスや、ガバナンスに対する姿勢の違いについて、牛島信氏が切り込む。構成=本誌/吉田 浩 写真=佐藤元樹

金成憲道(ドイツ証券会長)プロフィール

 

(かなり・のりみち)1946年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、70年旧東京銀行入行。97年旧東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)取締役ニューヨーク支店長に就任。2001~05年米ユニオンバンカル・コーポレーション(UNBC)社長兼最高経営責任者(CEO)およびユニオン・バンク・オブ・カリフォルニア(UBOC)頭取兼最高経営責任者(CEO)を務める。06年三菱東京UFJ銀行副頭取。07年以降、UNBC会長およびUBOC会長を兼務。08年10月より現職。

 

金成憲道氏が経験した米国式コーポレートガバナンス

 

既定路線のCEO人事を白紙撤回されかけた金成憲道氏

牛島 今日は、以前本コーナーにご登場いただいたJPモルガン証券の森口隆宏シニアアドバイザーと同じく、三菱東京UFJ銀行出身で海外経験も長い、金成さんにお越しいただきました。森口さんのお話を聞いていて感じたのは、アメリカの銀行で執行部門を務め、株主や社外取締役とのやり取りを行ってきた経験が、とても重要な示唆に富んでいるということです。金成さんも同様の経験をされていますよね。

金成 私はもともと東京銀行の出身で、合併で東京三菱銀行になった後の97年からニューヨーク支店長を務めていました。日本では山一証券の破綻に始まる金融危機があった。そのころのニューヨーク支店というのは、主力に為替市場部隊がいて、彼らは東京の為替市場部門の指示で動く。これに関してはニューヨーク支店長は言葉は悪いですが、下宿屋の主人という立場でした。普段は日本のお客さまをお相手しているのがメーンでしたので、平時は楽しい役回りという雰囲気があったのです。

 ところが金融危機でそうはいかなくなってしまった。悠長に東京の指示を待って動いていると時差がネックになるので、ニューヨーク支店での判断が求められるようなった。下宿屋の主人から全権大使になったようなものです。その後、いったん、大阪支店に異動したのですが、たった1年でカリフォルニアに行くことになりました。

牛島 森口さんの後任、ユニオンバンクのCEOとして、ということですね。

金成 森口さんは現地でCFOを4年間、CEOを4年間やられて、NYSE上場など華々しい業績を上げられていました。そのCEO3年目に、銀行の交代人事の一環で私が後任として赴任しろということとなりました。当時、ユニオンバンクには15名の社外取締役がいて、社内からの取締役は4人。こちらがマイノリティーです。一方、株式は三菱東京UFJで65%を所持していて、こちらではマジョリティーでした。そのオーナーが、「次のCEOは金成だ」と送りこんだんです。

牛島 日本の感覚では、何も問題はないですね。

金成 そのとおりですが、社外取締役は「フィデューシャリー・デューティ」、あえて訳せば受託者責任ということにこだわっていた。上場企業であれば、少数株主を含む、すべての株主の利益を最大化することに努め、彼らの利益に反することをしてはならないということです。

牛島 最近、日本でも話題になりはじめている言葉ですね。

金成 そこで「金成をCEOにすることが、それに沿っているのか」ということになるわけです。ユニオンバンクは、確かに65%の株式は三菱東京UFJが持っているが、ニューヨークで上場しているパブリックカンパニーだ、そこに自分たちが全く知らない日本人を連れてきて経営者にするのか、という話なんですね。三菱東京UFJの支店ではないという意味も込められています。

 そして、まずは副会長として赴任することになったのですが、現地に行って少しすると「金成はいい人物だが、リーダーシップがないようにみえる」というわけです。それも当然で、副会長とは言え、東京側から見ると「1年後にCEO」は既定路線だから、何も担当していない。でも社外取締役からは「何もしていないので、リーダーシップがない」と思われたわけです。

能力を示さないとCEOとして認められない

牛島 東京の親会社と現地の認識が完全に違っていたのですね。

金成 そこで、森口さんが一つミッションをくれました。もともと三菱銀行が持っていたバンクオブカリフォルニアには伝統かつ歴史ある海外支店、国際部門があったのですが、一方で社外取締役たちはカリフォルニアの地銀であるユニオンバンクに国際部門は戦略的に不要ではないか、その分資源をカリフォルニア州内に集中すべきであるとの意見でした。しかし、バンクオブカリフォルニア由来の国際部門はアメリカでも有数の歴史がある部門ですし、これを手放すのはあまりにもったいない。そこの調整をやれというわけです。バンクオブカリフォルニアを所有する経緯とその意義、ユニオンバンクとしての利点まで含めて、取締役会で何度も説明していった。その活動を通して、「金成が次のCEOでいいだろう」という話になっていきました。

牛島 森口さんと金成さんの作戦勝ちというところでしょうか。

金成 アメリカでは取締役会にリードディレクターという存在がいて、全体をまとめていく役割を担っています。彼が「金成でいこう」という考えになってくれたらしい。そうでなければ、私は1年で帰国することになっていたでしょう。

牛島 そんなことになっていたら、三菱東京UFJとしては大問題ですね。

金成 許されない事態ですね。森口さんのプレッシャーはいかばかりかというところです。私も1年間、晒し者として「あいつはどういうヤツなんだ」「アイツで大丈夫か」と見られ続けている。あんなに疲れる1年はほかにないですね。

牛島 今、後継者選びでそこまでやっているところは、日本では少ないでしょうね。

金成 どちらがいいということではなく、考え方が違います。その後は社外取締役との密なコミュニケーションを図ることにしたのです。そこで主要ポストすべてにサクセションプランを作り、その仕上がりをチェックし続ける。そのチェックにボードも加える。ただし、CEOとなるとそう簡単ではないのですが幹部人事を通じ風通しを良くするということは大事でした。社外取締役の役目は、1にストラテジー、2にCEOセレクションとおもってますから、それは重要なことなんですね。

 

金成憲道氏が実践したコーポレートガバナンスとは

 

社外取締役に定年制を導入した意図

牛島 当時、ユニオンバンクのボードメンバーは誰が選んでいたのでしょうか。

金成 いろいろなルートがありましたが、年齢、性別、人種、専門分野、職業などのバランスを見ながら、選んでいました。問題は社外取締役の世代交代です。CEOは4年で交代していく。しかし、15人の社外取締役は代わらない。このままだと社外取締役の権限がどんどん脹らんでいくのではないかという危惧が出て来たんです。当然、そんな話をすると社外取締役が多数派であるボードでは抵抗に遭います。

 やりたかったのは、まず定年制の導入です。72歳で線を引き加えて任期を10年に定めようとしました。こうすれば比較的若い人も採用できますし、自然と社外取締役も交代していきます。先ほど言ったように、現在のボードは反対します。そこで、「ただし、新規就任の社外取締役から適用し現在のボードには適用しない」と註釈を付けた。こうでもしないと通らないし、通らなければ社外取締役の交代は進みません。

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(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

牛島 帰国されて三菱東京UFJでも副頭取に就任され取締役会での議論を経験されている。そうした経験を踏まえて、日本での社外取締役に関する議論はどのように感じられますか。

金成 今の日本では、コーポレートガバナンス・コードの話があって、その中で「2人の社外取締役」について議論しています。取締役会の経営監視強化にはつながっており進歩しているのですが、日本の場合マジョリティーが社外ということは非現実であるし、そこが形として難しいところでしょう。ドイツでは取締役会があり、監査役会があり、経営執行部と、完全な役割分担がなされているいわゆるツーボードシステムです。アメリカでも取締役会と執行は分離している。

 取締役会は企業のストラテジーとCEOセレクションが大きな役割です。日本では、取締役会と執行役員がようやく分離され始めていて、社外取締役が入ってガバナンスをやるという話になっている。でも社外取締役も取締役だから、建前上は執行上の重要決断もするという、少し矛盾した状態です。

牛島 それはどのように対応していけば良いのでしょうか。

金成 お国柄も違うので、どの国の真似をすれば良いということではないと思います。日本では、「同じ釜の飯を食った仲」とう言葉があるように、仲間意識、企業への忠誠心が強い。外からどんなに良い人材を連れてきても、長年一緒にやって来た仲間で重要なことを決めたがる。

 そういう環境では、社外取締役にすべて任すという選択は難しい。何らかの形でわが国の風土に合い、かつ国外からの視線に耐えられるものを目指すということでしょう。

株主だけを重視するガバナンスで良いのか

牛島 日本企業はアメリカ企業とは違って、「同じ釜の飯を食った仲」という意識があり、なかなか社外取締役が機能しきれないという話ですが、アメリカではどういう状況なのでしょうか。

金成 アメリカでガバナンスの議論が活発になった背景には、年金組合の存在があるのではと思います。年金組合が投資をする際、しっかりした企業に投資する必要があり、そこでガバナンスという考えが出て来た。これが80年代の話です。ところが、企業には株主、従業員、取引先、お客さまとさまざまな立場のステークホルダーがいて、どれもが企業にとって大切な存在です。そのすべてに目くばりしていくことこそ、ガバナンスのはずですが、今のガバナンスはそれら機関投資家に比重が振れ過ぎだと思えます。

牛島 確かに、株主だけを大事にするのはおかしいですね。

金成 投資家も言うことが人によって違うし、時期によって発言の内容が変遷することもあります。あるときは「お前の会社はROEが低過ぎる」と批判してきたかと思えば、逆に不良資産などが問題になると、「自己資本比率が低いじゃないか」と指摘してくるわけです。

牛島 全く逆のことを言ってくるわけですね。

金成 確かにそれらは大事な話ですが、従業員やお客さまからきちんと支持される会社、持続可能な会社であるために社外取締役は何ができるかという議論をしたほうがいい。

危機の時にこそ本心が見える

牛島 ほとんどの人は、働くことで自分の価値を見いだします。職を得て、給料をもらい、自分が社会の役に立っていると自覚することが誇りにつながる。だからこそ、企業は重要であり、きちんと運営されなければならない。大きな会社、上場企業の社長になれる人は、「多くの人が誇りを持って働ける環境を作る」役割があります。そのリーダーが活躍できる場を生み出すためにガバナンスがあるのではないかと思うわけです。

 アメリカ式のやり方では、社外取締役が大きな力を持って経営者を制御し、ガバナンスを機能させています。日本では社外取締役は増えていますが、それが日本の会社にマッチしているかは分からない。そういう試行錯誤をしている過程だと思うんです。その点で、金成さんの「同じ釜の飯」という話は、とても興味深いです。

金成 ユニオンバンクのCEOになった直後にニューヨーク同時多発テロがありました。あの2機目が突入したツインタワーのサウスタワー12Fにユニオンバンクのニューヨークオフィスがあって、100人のスタッフがそこで働いていました。14Fの会社は半数が犠牲になったと聞いてますが、われわれは奇跡的に1人も被害者が出ませんでした。

 それはそこの支店長が突入直後、強硬に「すぐに逃げろ」と指示を出したからです。また、あの事件で、国際部門の書類がすべて駄目になってしまいましたが、香港にあるバックアップのデータ、サンフランシスコの予備データを既にリタイアしたOBにも協力してもらい、徹夜で突き合わせ続けて、一日も決済の遅れを出さなかった。それをやり続けた従業員たちの絆は後々まで、強い信頼関係として残ったと思います。

 強烈な体験でしたが、危機を共有体験とするとリーダーシップのもとに結束しやすいという意味では良かったと思います。

牛島 危機を共に乗り超えるのは大きなことですね。

金成 その後ほかのいろいろなケースを見てきた結果、結論としては、リーダーには私心を持つ余裕もなく業務にまい進するとかそういうことが大事ではないかと思うようになりました。仕事ができる人はたくさんいますが、いいリーダーになれるとは限らない。仕事ができるだけの人がリーダーになると、その人だけが強大になり、誰もコントロールできない存在になったりすることもあります。

 大きな会社などの出来上がった組織の場合は、仕事ができるかどうかだけではなく、私心の有無をみないといけないのではないか、という気がしてきました。多くの人が納得するリーダーを選ぶには、それが大事ではないかと。

日本式コーポレートガバナンスの是非

 

日本企業で経営者の報酬が低いのはなぜか

牛島 日本式の内部昇進型経営者の人選について、金成さんは必ずしも否定的ではないようにお見受けします。日本式のシステムにも一定の将来性はあるとお考えでしょうか。

金成 内部昇進型のトップには否定的ではないですね。理由は明白で、そのやり方で日本が発展してきた実績があるからです。持続的な成長も遂げている企業も多い。そういう事実を無視して「日本式は駄目だ」と言いきれないと思います。問題は国外からの視線に耐えられ、外の目にも納得してもらう努力が必要ということだと思います。

牛島 今の日本の経営者の報酬は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。

金成 日本の場合、やはり横並び傾向があると同時に、お金への執着を嫌う傾向があるのではと思ってます。報酬は多少は増加傾向と思いますが、欧米企業と比較すると桁が違う。個人的には欧米の報酬は多過ぎると思いますが、そこはお国柄もあるし、納得できているならいいのでしょう。

 私の例で恐縮ですが、ユニオンバンクのCEOだった時、報酬額は公開されていまして、銀行自体はフォーチュンのランキングで200位でしたが、トップの報酬は末尾の500位くらいでした。その下には、不祥事を起こして減給されているトップしかいない。お陰で複数の社外取締役からは、せめて4~5倍の報酬にしろと言われていました。

 ところが私は日本からの単なる派遣社員ですから、横並び問題があるため、私だけ上げるわけにはいかない。そう説明しましたが、取締役が何度か東京に「金成の報酬を上げろ」と直談判にいったらしいです。無理は当然なのですが。

牛島 日本から派遣された経営者ですからね。

金成 同じ釜の飯を食ってきた仲間で1人だけ飛びぬけた報酬をもらうということはあり得ませんよね。一緒に苦労してきたのに何だ、と。部長と取締役、取締役と社長であまりに報酬に差があると、そういう気持ちが生まれてチームが乱れがちになる。

牛島 「それが良くない、もっとかき回せ」という人もいます。

金成 日本では退職後も、そのレベルに応じて活躍の機会が提供され、企業側もそれを必要としているという特有の形態もあり、よく機能していると思います。

日本式ガバナンスは既に存在している

牛島 先ほどの「私心」にも通じますね。あまりに報酬が高いと、そこに私心が生まれやすくなる。

金成 例えば、ベンチャーでバリバリ成長中の経営者であれば違います。しかし、大企業などある程度出来上がった組織、企業の経営者は次の世代に引き継いでいくことを考えると、バリバリタイプの経営者だと1人だけが突出し強大化することもあるでしょう。誰でも長くやれば衰えますし、次の人に引き継ぐと影響力が残りやすくなります。院政みたいな形になると社外取締役も機能しにくい。

牛島 トップは年限を決めて交代すべきという方もいる一方、できる人なら何年でもやるべきだという意見も根強いですね。

金成 退いた後には一切口出しをしないとか、余人を持って代え難いリーダーシップ、カリスマ性があるなら何年でもやればいいと思いますが、そういった方は希少です。持続性を考えるなら、一定の線で引き継いだ方がいいと思いますがなかなか難しい問題ですね。

 例えば、近年、基礎科学分野で日本人のノーベル賞受賞が相次いでいますが、成果が出にくい基礎研究で長い時間をかけて取り組み続けることができる社会は世界では珍しいといわれている。欧米だと、えてしてすぐに成果を求められる。そういう日本式のいいところを持続させれば良いし、すべてグローバルスタンダードでなければいけないわけではない。そこを含め日本式のいいところを世界に理解させる努力は必要だと思います。

牛島 日本式のガバナンスは既に存在しているということですね。アメリカで15人の社外取締役に囲まれていた金成さんだならではの説得力があるお話を伺えました。

 

(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

 

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