マネジメント

20161115USHIJIMA_P01

東京三菱銀行のニューヨーク支店長、ユニオンバンクCEOと豊富な国際経験を持つ金成憲道氏。キャリアを積む中で目の当たりにした、日本とは全く違う米国企業のCEO選定プロセスや、ガバナンスに対する姿勢の違いについて、牛島信氏が切り込む。構成=本誌/吉田 浩 写真=佐藤元樹

東京で既定路線の人事が白紙撤回になりかけた

牛島 今日は、以前本コーナーにご登場いただいたJPモルガン証券の森口隆宏シニアアドバイザーと同じく、三菱東京UFJ銀行出身で海外経験も長い、金成さんにお越しいただきました。森口さんのお話を聞いていて感じたのは、アメリカの銀行で執行部門を務め、株主や社外取締役とのやり取りを行ってきた経験が、とても重要な示唆に富んでいるということです。金成さんも同様の経験をされていますよね。

金成 私はもともと東京銀行の出身で、合併で東京三菱銀行になった後の97年からニューヨーク支店長を務めていました。日本では山一証券の破綻に始まる金融危機があった。そのころのニューヨーク支店というのは、主力に為替市場部隊がいて、彼らは東京の為替市場部門の指示で動く。これに関してはニューヨーク支店長は言葉は悪いですが、下宿屋の主人という立場でした。普段は日本のお客さまをお相手しているのがメーンでしたので、平時は楽しい役回りという雰囲気があったのです。ところが金融危機でそうはいかなくなってしまった。悠長に東京の指示を待って動いていると時差がネックになるので、ニューヨーク支店での判断が求められるようなった。下宿屋の主人から全権大使になったようなものです。その後、いったん、大阪支店に異動したのですが、たった1年でカリフォルニアに行くことになりました。

牛島 森口さんの後任、ユニオンバンクのCEOとして、ということですね。

20161115USHIJIMA_P02

(かなり・のりみち)1946年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、70年旧東京銀行入行。97年旧東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)取締役ニューヨーク支店長に就任。2001~05年米ユニオンバンカル・コーポレーション(UNBC)社長兼最高経営責任者(CEO)およびユニオン・バンク・オブ・カリフォルニア(UBOC)頭取兼最高経営責任者(CEO)を務める。06年三菱東京UFJ銀行副頭取。07年以降、UNBC会長およびUBOC会長を兼務。08年10月より現職。

金成 森口さんは現地でCFOを4年間、CEOを4年間やられて、NYSE上場など華々しい業績を上げられていました。そのCEO3年目に、銀行の交代人事の一環で私が後任として赴任しろということとなりました。当時、ユニオンバンクには15名の社外取締役がいて、社内からの取締役は4人。こちらがマイノリティーです。一方、株式は三菱東京UFJで65%を所持していて、こちらではマジョリティーでした。そのオーナーが、「次のCEOは金成だ」と送りこんだんです。

牛島 日本の感覚では、何も問題はないですね。

金成 そのとおりですが、社外取締役は「フィデューシャリー・デューティ」、あえて訳せば受託者責任ということにこだわっていた。上場企業であれば、少数株主を含む、すべての株主の利益を最大化することに努め、彼らの利益に反することをしてはならないということです。

牛島 最近、日本でも話題になりはじめている言葉ですね。

金成 そこで「金成をCEOにすることが、それに沿っているのか」ということになるわけです。ユニオンバンクは、確かに65%の株式は三菱東京UFJが持っているが、ニューヨークで上場しているパブリックカンパニーだ、そこに自分たちが全く知らない日本人を連れてきて経営者にするのか、という話なんですね。三菱東京UFJの支店ではないという意味も込められています。そして、まずは副会長として赴任することになったのですが、現地に行って少しすると「金成はいい人物だが、リーダーシップがないようにみえる」というわけです。それも当然で、副会長とは言え、東京側から見ると「1年後にCEO」は既定路線だから、何も担当していない。でも社外取締役からは「何もしていないので、リーダーシップがない」と思われたわけです。

能力を示さないとCEOとして認められない

牛島 東京の親会社と現地の認識が完全に違っていたのですね。

金成 そこで、森口さんが一つミッションをくれました。もともと三菱銀行が持っていたバンクオブカリフォルニアには伝統かつ歴史ある海外支店、国際部門があったのですが、一方で社外取締役たちはカリフォルニアの地銀であるユニオンバンクに国際部門は戦略的に不要ではないか、その分資源をカリフォルニア州内に集中すべきであるとの意見でした。しかし、バンクオブカリフォルニア由来の国際部門はアメリカでも有数の歴史がある部門ですし、これを手放すのはあまりにもったいない。そこの調整をやれというわけです。バンクオブカリフォルニアを所有する経緯とその意義、ユニオンバンクとしての利点まで含めて、取締役会で何度も説明していった。その活動を通して、「金成が次のCEOでいいだろう」という話になっていきました。

牛島 森口さんと金成さんの作戦勝ちというところでしょうか。

金成 アメリカでは取締役会にリードディレクターという存在がいて、全体をまとめていく役割を担っています。彼が「金成でいこう」という考えになってくれたらしい。そうでなければ、私は1年で帰国することになっていたでしょう。

牛島 そんなことになっていたら、三菱東京UFJとしては大問題ですね。

金成 許されない事態ですね。森口さんのプレッシャーはいかばかりかというところです。私も1年間、晒し者として「あいつはどういうヤツなんだ」「アイツで大丈夫か」と見られ続けている。あんなに疲れる1年はほかにないですね。

牛島 今、後継者選びでそこまでやっているところは、日本では少ないでしょうね。

金成 どちらがいいということではなく、考え方が違います。その後は社外取締役との密なコミュニケーションを図ることにしたのです。そこで主要ポストすべてにサクセションプランを作り、その仕上がりをチェックし続ける。そのチェックにボードも加える。ただし、CEOとなるとそう簡単ではないのですが幹部人事を通じ風通しを良くするということは大事でした。社外取締役の役目は、1にストラテジー、2にCEOセレクションとおもってますから、それは重要なことなんですね。

社外取締役に定年制を導入

牛島 当時、ユニオンバンクのボードメンバーは誰が選んでいたのでしょうか。

金成 いろいろなルートがありましたが、年齢、性別、人種、専門分野、職業などのバランスを見ながら、選んでいました。問題は社外取締役の世代交代です。CEOは4年で交代していく。しかし、15人の社外取締役は代わらない。このままだと社外取締役の権限がどんどん脹らんでいくのではないかという危惧が出て来たんです。当然、そんな話をすると社外取締役が多数派であるボードでは抵抗に遭います。やりたかったのは、まず定年制の導入です。72歳で線を引き加えて任期を10年に定めようとしました。こうすれば比較的若い人も採用できますし、自然と社外取締役も交代していきます。先ほど言ったように、現在のボードは反対します。そこで、「ただし、新規就任の社外取締役から適用し現在のボードには適用しない」と註釈を付けた。こうでもしないと通らないし、通らなければ社外取締役の交代は進みません。

牛島 帰国されて三菱東京UFJでも副頭取に就任され取締役会での議論を経験されている。そうした経験を踏まえて、日本での社外取締役に関する議論はどのように感じられますか。20161115USHIJIMA_P03

金成 今の日本では、コーポレートガバナンス・コードの話があって、その中で「2人の社外取締役」について議論しています。取締役会の経営監視強化にはつながっており進歩しているのですが、日本の場合マジョリティーが社外ということは非現実であるし、そこが形として難しいところでしょう。ドイツでは取締役会があり、監査役会があり、経営執行部と、完全な役割分担がなされているいわゆるツーボードシステムです。アメリカでも取締役会と執行は分離している。取締役会は企業のストラテジーとCEOセレクションが大きな役割です。日本では、取締役会と執行役員がようやく分離され始めていて、社外取締役が入ってガバナンスをやるという話になっている。でも社外取締役も取締役だから、建前上は執行上の重要決断もするという、少し矛盾した状態です。

牛島 それはどのように対応していけば良いのでしょうか。

金成 お国柄も違うので、どの国の真似をすれば良いということではないと思います。日本では、「同じ釜の飯を食った仲」とう言葉があるように、仲間意識、企業への忠誠心が強い。外からどんなに良い人材を連れてきても、長年一緒にやって来た仲間で重要なことを決めたがる。そういう環境では、社外取締役にすべて任すという選択は難しい。何らかの形でわが国の風土に合い、かつ国外からの視線に耐えられるものを目指すということでしょう。(後編に続く)

(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

「同じ釜の飯」文化の日本企業に最適なガバナンスとは—金成憲道×牛島信(後編)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る