政治・経済

20161206duterute

先日、来日したフィリピンのドゥテルテ大統領。日本では親日家ぶりを発揮したが、相次ぐ暴言や過激な麻薬取り締まりに国際社会からは強い批判を受けている。しかしフィリピン国内での支持は圧倒的だ。なぜこれほどまでにギャップがあるのか。その背景を探る。文=国際ジャーナリスト/戸田光太郎

タバオ市長として治安回復の実績

 「犯罪者は八つ裂きだ」と言ったフィリピン大統領ドゥテルテ。「裁判など不要。犯罪者ども、腐敗した官僚や警察は皆殺しだ」国際人権団体から抗議を受けると「人権派どもは、麻薬業者や強盗の被害者たちへの人権は忘れてる!」と怒った。

 この勢いは大統領になる前からだった。

 「人を撃ったのは初めてじゃない」と大統領選最中イロイロ市遊説でロドリゴ・ドゥテルテは言った。

 「サン・ベダ法科大学卒業間近に同級生が向こうからやってきて『おい、おい、ビサヤ野郎』と挑発してきたので見せしめに撃った。バン! で、退学さ」

 聴衆は沸き返った。革ジャンを着て大型バイクを乗り回し、射撃場で機関銃を撃ちまくる市長だったドゥテルテ。選挙戦では会場に流れる音楽に合わせて踊り、時にエルビスか矢沢永吉のように汗を拭いたタオルを聴衆に投げ、若者言葉を交えた演説で熱狂させた。

 通常、候補者はシンボルカラーを決めて選挙するが、ドゥテルテはステージに国旗を翻し、国旗に接吻して右手を左胸に添えた。ビサヤの遊説ではビサヤ語で語り掛けた。演説の終わりはいつもこの一言。「フィリピンを愛してるぜ!」。多様な宗教や人種を越えてフィリピンを愛すると吠えた彼に、嘘はないと国民は感じた。

 フィリピンは合わせて7107の島々からなる海洋国家だが、大きく分けるとルソン島、ビサヤ諸島、ミンダナオ島の3つに分かれる。ビサヤ野郎と揶揄されて発砲したというのは今までの政治がルソン島のマニラを中心にタガログ語と英語で行われてきたからだろう。大統領就任後もドゥテルテは市長だったダバオ(ミンダナオ島)とマニラを往復している。

 が、後に学友が打ち明けた。

 「当時は学校に銃を持ち込むのは当たり前で、ドゥテルテと友人のオクタビオ・ゴコはふざけているうちに発砲して、どちらの弾だか分からないが、木造の床にめり込んだだけさ。で、2人はその後も友達で、ゴコは後に米国に移住した。2人とも卒業している。退学は、ない」

 ダバオ市長に当選したドゥテルテは、スピード違反の取り締まり、夜間の酒販売の禁止、投資家を呼び込むための手続きの簡素化など改革を実行。ダバオ市長を計7期、22年務めた。そして2016年、39%の得票率を得て大統領にまで上り詰めたのだ。

 ダバオは1980年代、強盗や傷害事件が多発し、商店は夕方には店じまい。ドゥテルテは88年、検事から市長に就任。犯罪撲滅の大号令をかけ、深夜の酒類販売禁止なども制度化し、治安を回復した。今は夜間市場も開かれ、観光客や仕事帰りの市民で賑わう。彼がダバオ市で行った政治手法は、治安の改善に全力を尽くし、投資が国内外から自然に集まるようにするというものだ。

 厳格な犯罪対策のほかに、タクシーのぼったくり、歩きタバコなどを禁止し、ゴミの分別を導入した。フィリピンで初めて無料の救急センター911電話サービスをつくり、モールなど大型店舗には監視カメラを条例で設置。犯罪者を一切許さない強権をふるいながら、女性の権利向上の条例を発布したりして、ダバオ市を住みやすい街にしてきた。

 欧米企業がコールセンターを設け、現地複合企業サンミゲルも近郊で巨大な工業団地を計画するなど経済効果も生む。「無秩序都市」であったダバオ市は、彼が市長を務めていた間に「屈指の安全都市」になり、治安も景気も大きく回復し、市民から絶大な支持を得た。

植民地フィリピンの特別な事情

 フィリピンは14世紀後半からスペイン、オランダ、アメリカと数々の国からの支配で搾取され、階層はスペイン系を頂点に中華系、原住民もルソンやビサヤやミンダナオと錯綜している。今でも階級は峻別され、互いに口もきかない場合がある。

 政治家から役人、警官までが腐敗しきって、国のすべてが機能不全で、麻薬を取り締まるはずの警官が取引に加担し、売人は逮捕されてもすぐ釈放される。真面目に生きることには意味がなく、そこには荒療治が必要だった。

 ドゥテルテは大統領就任後、テレビで1時間以上にわたってインタビューされていたが、極めて冷静に語彙豊かな英語で答えていた。法科大学を出て司法試験に受かる者が、ただのナラズモノなわけがない。国連を呪い、オバマを罵り、中国に擦り寄りお金を引き出し、日本では親日ぶりをアピールと、なかなかの策士なのかもしれない。

 ドゥテルテには学生時代、共産党をつくった教授に師事した時から民衆への共感がある。支配者アメリカへの怨嗟がある。日本への信頼がある。政治家の父と教育者の母の間に生まれ、知性もあるが、ワイルドなパフォーマンスにも長けている。

 芯から腐ったフィリピンを支えるには強権発動しかないと腹をくくった大統領には初志貫徹してほしい。彼がフィリピンを愛し、歴代の大統領のように「うまい汁」を吸うことなく国民のために働けば、歴史に残る名君となろう。(文中敬称略)

 

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