政治・経済

20160719REDS_P01

ゴーン会長、益子社長体制で再建に挑む(Photo=佐藤元樹)

度重なる不正問題で地に墜ちた三菱自動車。日産の再建に成功したカルロス・ゴーン氏が会長に就任することで、「日産の奇跡、再び」を目指すが、果たして思いどおりにいくか。三菱の病巣は根深く、置かれた状況は日産よりもはるかに厳しい。ゴーン氏の手腕が問われることになる。文=本誌/関 慎夫

日産自動車は3番目の助っ人

 三菱自動車工業の今年度の世界販売台数が国内主要メーカーで「最下位」になることが明らかになった。今春に発覚した燃費不正事件で国内販売は壊滅的と言っていいほど落ち込んだ結果である。

 1990年代には、パジェロの大ヒットもあって販売を大きく伸ばしたが、2000年と02年の相次ぐリコール隠し発覚によって信用が失墜し販売は激減、国内大手5社の地位からは滑り落ちていた。それでも体質は改まらず、ついに最下位転落である。

 三菱自動車は、70年に三菱重工業から分離・独立した、日本では最後発の自動車メーカーだ。その歴史の浅さもあって経営基盤が弱く、過去、不祥事が起きるたびに三菱自動車は、外部に救いの手を求めてきた。

 最初のリコール隠しの時は、当時のダイムラークライスラーに支援を要請、社長を受け入れた。ところが2度目のリコール隠しによってダイムラークライスラーは支援打ち切りを決定、社長も引き上げた。そこで頼ったのが三菱グループ。三菱重工、三菱商事、東京三菱銀行(当時)の御三家が中心になって出資に応じ、三菱商事から派遣された益子修氏が社長に就任(05年)し、再建を目指した。

 そして今回の不祥事では、結束の固い三菱グループでも匙を投げざるを得なかった。代わって救いの手を差し伸べたのが日産自動車のカルロス・ゴーン社長で、日産は33.4%の株を取得するとともに、ゴーン氏自ら三菱自動車の会長に就任する。

 ゴーン氏は99年、ルノーから当時経営危機にあった日産に派遣され、瞬く間に再生を果たす。これは日本産業史に輝く快挙と言ってよく、ゴーン氏の手腕は高く評価された。

 ゴーン氏が日産再生に用いたのが「日産リバイバルプラン」(NRP)だ。これは、工場閉鎖や調達先の半減など、聖域を設けない構造改革計画で、この計画を遂行することで、①00年度の当期利益の黒字化②02年度の営業利益率4.5%以上③02年度末の有利子負債7千億円以下――の3つの数値目標をコミットメント(必達目標)とし、達成できなければ経営陣全員が退陣するという背水の陣を敷いた。

 結果は周知のとおりで、倒産寸前だった日産はよみがえる。日産が三菱自動車の救済に名乗りを挙げた時、多くの三菱社員が歓迎したのも、この実績があってこそ。「ゴーンさんが、これまでの経営陣ができなかったような施策を実行してくれればわれわれは生き残ることができる」(三菱自動車社員)と期待を寄せている。

益子社長留任に社内の白い目

 しかし、本当にNRPの再現がなるのか、疑問も残る。ゴーン氏はNRPを進めるにあたって「すべての答えは社内にあった」と語っている。NRPの策定は、若手社員を中心としたクロスファンクショナルチームが担当した。そして、その施策は、多くの社員が認識していたものばかりだった。ただし、長年のしがらみと、「銀座通産省」(銀座は当時の本社所在地)と呼ばれるほどの官僚的風土が、「正しい経営判断」の邪魔をしていた。ゴーン氏は外部からきた人間の強みを生かし、邪魔をするしがらみや前例をすべて取り除いた。もともと日産には技術力があり、販売網も整備されていた。成長の阻害要因を取り除きさえすれば、自然と成長軌道に乗っていった。

 ところが三菱自動車の場合、基礎的なメーカーとしての力が当時の日産と比べて劣っている。というのも、リコール隠しが発覚してからの長期低迷期に、多くの優秀な社員が会社を去って行ったために技術力は低下。燃費不正の問題でも、競合車よりいい燃費を追求したものの、技術力がないがために不正に走らざるを得なかった。今後、日産から技術供与されることになるだろうが、一度落ちた技術力を回復させるのはそう簡単なことではない。

 もう一つ、再建の障害になりかねないのが社長人事だ。12月の臨時株主総会で新経営陣が誕生するが、会長にはゴーン氏、社長には現会長兼社長の益子氏が就く予定だ。

 益子氏は10年以上にわたり三菱自動車のトップを務めているのだから、今日の事態を招いた経営責任は重い。益子氏本人も日産の支援が決まった当時は「新体制には残らない」と語っていた。しかしゴーン氏の強い要請により、残留することになった。

 NRPでは、ゴーン社長、塙義一会長(前社長)という布陣だったが、それにならったともいわれている。改革には痛みはつきもので、その痛みは社員の不満を呼ぶ。塙氏はそのなだめ役として機能した。その役割を益子氏に期待しているという解釈だ。

 しかし生え抜きの塙氏と違って益子氏は、三菱商事からの派遣社長である。同じ役割などできるはずもないし、社員の間には益子氏留任に白けた空気が広がっているのだから、なだめ役など到底、務まらない。

 どんな立派な再生プランができたとしても、結局は社員が一丸となって取り組むかどうかで成果が決まる。今度の人事が水を差すことにならなければいいのだが。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る