政治・経済

20161206honghai

戴正呉・シャープ社長

シャープが2016年度上期の決算発表を開催したが、戴正呉社長にとっては初めて公にシャープの経営を語る場となった。戴社長は自ら練った「経営基本方針」の有言実行に努めているという。その成果は徐々に表れ、シャープの業績回復を後押ししている。文=本誌/村田晋一郎

有言実行の姿勢を強調

 台湾の鴻海精密工業傘下として再起を図ることになったシャープだが、足元のビジネスは回復傾向にある。

 戴正呉社長が実務を開始したのは出資完了後の8月21日だが、鴻海の意向は、戦略的提携発表から1カ月後の5月12日に公表した「早期黒字化に向けた3つの構造改革」で示された。2016年度上期はこの具体化に注力してきたという。

 上期の売上高は第1四半期の落ち込みが響き、前年同期比でマイナスとなったが、営業利益は黒字転換。通期では売上高が前年度比18.8%減の2兆円となるものの、営業利益は257億円の黒字、当期純利益は418億円の赤字を見込んでいる。下期に限っては、純利益が3年ぶりに黒字化する見通しで、来年度以降の純利益の黒字化にめどをつける。下期以降は成長軌道へ転換し、18年度には東証一部への復帰を目指すという。

 戴社長が決算会見で強調したのが「有言実行」と「責任」という言葉だ。これらを徹底することで自らの求心力を高めている印象を受ける。「対外的に公表したことは何があろうとも必ず達成する」というスタンス。未達となれば、「新体制になっても、やはりシャープは信頼できないとの烙印を押され、未来はない」との危機感に基づいている。有言実行については、14年度以降、2度仕切り直した中期経営計画が未達に終わった経緯があり、「今までのシャープは有言実行ではなかった」と語る。

 戴社長の就任は4月の提携発表時に決まっていたが、実務開始までの約3カ月はシャープの経営に参画できなかった。その間に戴社長はシャープを分析。そして熟考の末、実務開始にあたり40ページに及ぶ「経営基本方針」をまとめ、幹部に説明することからシャープ再建を始めた。現在は経営基本方針の有言実行を追求し、内容の達成をその都度チェックしているという。

 基本方針には、3つの構造改革の内容も含まれており、会見においては、構造改革の項目の推進状況がそれぞれ示された。現時点で全36項目のうち、堺事業所への本社移転をはじめ19項目を実現しており、その効果が徐々に業績にも反映しつつある。年末までにこの達成率をもっと上げていきたいという。

 また、成長戦略についても現在10項目を設定。そのうち有機ELディスプレーのパイロットライン投資など3項目が達成済みという。このように進捗状況を公にすることで、有言実行の姿勢を強調している。

 その一方で、現時点で不明確なことは明言しない慎重さもうかがえた。特に今後の成長の鍵を握る有機ELディスプレー開発については、「試作してみないと判断できない」と述べるにとどめた。なお、当初発表するとみられた中期経営計画は、今後の事業の統合や改革の状況を判断した上で、来年4月に発表するという。

いびつな人員構成をどうするか

 戴社長は自らの「責任」についても熱く語った。経営上の課題はすべて自分の責任であり、すべてブレークスルーしたいと意気込む。

 課題の一つとして挙げたのが商慣習だ。シャープは原材料の購買契約や施設の賃貸契約などで、取引先と多くの「不平等な契約」を結ばされており、それがコストに響いているという。今までの契約は尊重するが、見直しの余地があるものについては、自ら責任を持って交渉に乗り出し、改善していくという。ただし、現在のシャープの力は弱いため、鴻海の後ろ盾で有利に交渉を進めていく方針。

 鴻海の力を借りる一方で、鴻海グループにおけるシャープの位置付けは、あくまで「戦略投資」であることも強調。シャープの独立性と透明性を維持することにも責任を持って経営に当たるという。その一環として、戴社長は年内に鴻海の役員を辞し、シャープの経営に専念する意向を明らかにした。

 また、人材についても取り組むべき課題として挙げた。人員削減は経営陣の求心力低下につながりがちだが、戴社長は就任後、人員削減に言及したことはないという。三原工場(広島県)など拠点の統廃合を検討しているが、再編がどのような形になっても人員は削減せず、配置転換で対応する方針。今後の事業展開によっては、一部事業を内製化する可能性もあり、その際には人員が不足するためだという。むしろ問題は年齢構成にある。シャープの従業員の平均年齢は49歳以上、過去のリストラにより中堅層から若年層が不足している。このため、過去に退職した40代半ばの年齢層の再雇用や今後の新卒採用を積極的に行っていくという。

 滑り出しとしては、戴社長の経営改革は順調なように見える。経営課題の抽出と解決に関して、有言実行で遂行する。この有言実行については、全社員にも遂行を求めており、徐々に成果が上がっていることから、戴社長自身、それなりの手応えを感じている印象を受ける。ここまでのところシャープに変化の兆しは感じられる。しかし最終目標に掲げる「グローバルブランドへの飛躍」は、今後も戴社長が有言実行と自らの責任を貫けるかに懸かっている。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る