マネジメント

20161206YAMATO_P01

(ながお・ゆたか)1965年、兵庫県生まれ。高崎経済大学卒業後、ヤマト運輸に入社。執行役員関東支社長、常務執行役員を経て、2015年4月より代表取締役社長に就任。

 宅急便が誕生して40年。これまで、クール宅急便などさまざまなサービスを生み出してきたが、今もITを積極的に活用すると同時に、地方創生といった課題に取り組むことで、新たなサービスを生み続けている。物流ビジネスから見える日本の未来について、ヤマト運輸の長尾裕社長に話を聞いた。聞き手=本誌/古賀寛明 写真=佐藤元樹

スマートフォンが物流も変えた

―― 「宅急便コンパクト」や「ネコポス」など、新サービスの業績への影響は。

長尾 宅急便コンパクトも伸びていますが、ネコポスの需要はより大きいですね。これまで、このサイズはメール便が中心で、荷物もカタログや雑誌など紙の媒体がメーンでした。しかし、軽量の荷物でも、今や紙からモノに変化していますので、従来のメール便では対応できなかったニーズを満たしています。また、これまでのメール便よりも付加価値を見いだしていただいています。

さらに、今までの紙の送付状からデジタル情報での受付にしたことで間口は狭まっているはずなのですが、メルカリさんをはじめとするオンライン上のフリーマーケットなど、新しいCtoCビジネスにおいてはフィットしており、新たな需要を開拓できたと考えています。

―― ネットフリマなどにフィットした理由は何ですか。

長尾 例えば、宛名書きをデジタル化したことで、売り手側の情報を買い手側に見えないようにお届けすることができるようになったことが大きいと思います。従来のオークションサービスですと、名前はもちろん、住所や電話番号など、売り手側の個人情報が送り状に書かれることになっていたわけですが、匿名配送という形になったことで必要のない情報までさらされることがなくなったわけです。時代の求めるニーズに応えられたことで選んでいただけているのだと考えています。

―― 宅急便はITビジネスと親和性が高いですね。

長尾 そうですね。ITを使うと荷物が動くよりも先に情報を動かすことができますから、従来であればEメールで「荷物を出しました」とお知らせするだけだったものが、先に到着時間といった情報を提供することで、受け取るお客さまの都合によっては、日にちや時間、受け取る場所までも変更することが可能になったのです。

スマートフォンが欠かせない世の中になったことからも分かるように、皆さん忙しくなっているのかもしれません。確かに仕事する時間も増えましたし、一人暮らしも、共稼ぎ世帯も多いですから、時間をどう有効に使うかに対しては、皆さんものすごく敏感になってきています。宅配も便利ではあるのですが、同時に面倒なものになっています。

そう考えると、個人のお客さまに対してはメールで対応するよりも、むしろ生活の中に溶け込んだSNSなどの対話型のコミュニケーションの方が親切ではなかろうか、ということになったのです。そういったことで、LINEさんと組むことになりました。われわれが強みとする対面するコミュニケーションも大切にしながら、一方でITの上でのコミュニケーションを磨くことも大事なことだと考えています。

ビジネス拡大の鍵は「加工」にあり

―― 中部ゲートウェイが稼働し始めましたが、どんな効果が見込まれますか。

長尾 10月から動き始めたばかりですので、最初から無理をさせるとオペレーションも上手くいきませんので、しばらくは三河地域の荷物に対しての取り組みになりますが、中部ゲートウェイを3年前にできた神奈川の厚木にある厚木ゲートウェイと結ぶことで、多頻度幹線運行を始める環境が整いました。

 不特定多数のお客さまの荷物を積み合わせて運ぶわれわれのような業態では、どこかで締め切りを必要としていました。これまでであれば日の単位で動いていましたから、夜の9時頃に地方向けの幹線の車を出発させて、翌朝にターミナルに到着し、そこからラストワンマイルに仕分けるといった形で、翌日配達の仕組みを作っていたわけです。

 今後は、中部ゲートウェイと、来年竣工する関西ゲートウェイができることで、需要の太い東京・名古屋・大阪の3つの商圏が結ばれますから24時間、多頻度輸送が可能になり、必要なときに必要なものを運ぶことが可能になります。もちろん荷物が速く届くということもありますが、むしろ、企業の調達、納品といったサプライチェーンを再構築していただくエンジンになれると考えています。日の単位の概念であった物流から、時間単位に変えることができるのですから、企業にとっては大きな武器になるはずです。

―― 国際物流の状況はいかがでしょうか。

長尾 ANAホールディングスさんがつくられた沖縄の国際物流ハブに参画し、活用しています。地図を見れば分かると思いますが、沖縄はアジアの主要都市と日本の主要都市の中間に位置しています。ですから、昔の琉球交易は理にかなっているなとあらためて感心させられますね。

 昨年の11月には、サザンゲートという物流施設が稼働を開始し、そこを利用して沖縄を通過点ではなく、加工を行うことで付加価値をつける一大拠点にしています。

 既に、面白い案件もいくつかありまして、例えば、当社のクライアントが化粧品の製造をサザンゲート内で行っておりまして、最後にアジア各国向けのラベルを貼るローカライズの作業まで行い、輸出をする動きが始まっています。

―― 農水産品の輸出も期待されていると思いますが。

長尾 農水産品の海外輸出は国策にもなっています。今年の2月から官邸主導で輸出拡大のワーキンググループが発足しまして、私もメンバーに入っていました。さまざまな業界の方と輸出拡大の議論を行い、6月に一度提言をまとめました。その時にも沖縄は重要な拠点であるという認識が行われています。

 農水産品もそのまま通過させて輸出するだけではなくて、先ほどの化粧品の例のように、なんらかの付加価値をつけることでニーズは生まれるのではないかと考えています。つまり、農水産品という製品をいかに商品にするかということです。そのために、サザンゲートの中にセントラルキッチンを設置することも考えています。農水産品に関しては、飛行機だけでなく、例えば船をつかった輸送のニーズもあるはずですので、県が進める港湾整備ができれば、さらに沖縄の価値もあがるのではないでしょうか。

宅急便の原点は人とのつながり

20161206YAMATO_P02―― 地方自治体と連携を積極的に行っていますが、農水産物輸出にもつながっていますか。

長尾 そうですね。実際に現在お運びしているものも、各県との農水産品の輸出拡大の協定に端を発しているものも多く、商流が始まることが物流につながるケースも増えています。

 成功事例でいえば、青森県と香港の飲食チェーンのマッチングで、その系列のすし店にホタテをはじめとする水産物が輸送されることになりまして、今も毎日、国際クール宅急便で輸送されています。香港は通関のハードルが低いですからスタートしやすいこともありますが、中国本土の入り口にもなっていますから、香港という市場を今後どう攻めていくかはより重要になってくるでしょうね。

―― 山間部地域の高齢者の見守り支援といった地域課題解決にも取り組んでいますが。

長尾 お客さまの異変に気が付いたら、関係機関に報告を行う見守り活動も行政と協定を結んで行っていますが、CSV(共通価値の創造)を標榜しているのですから、本業をとおした地域課題解決にしなければなりません。

 例えば、青森県の黒石市では、単身世帯の独居老人の方々に毎月、市の定期刊行物をお届けしています。少なくとも月に1回は会いに行くわけですから、そのデータを市へフィードバックします。例えば、配達しても3日間お会いできないというようなことがあればフラグを立てる、そんな取り組みを行っています。

 ただ大事なことは、きちんとビジネスになっていないと続けられないということです。これがCSVの本来の目指すべき姿ですからね。

―― 宅急便ができて40年、サービスも随分変わりましたね。

長尾 宅急便を始めた小倉昌男の思想というのは、それまでのビジネスであった商業貨物を止めて始めました。当時の社員という経営資源を宅急便という新しいビジネスに集中させたということです。それだけ、個人向けのネットワークをつくることが、ほかの仕事をやりながらできることではないと分かっていたのだと思います。逆に言うと、そういった下地があったからこそ、宅急便が地域からもつながりを求めていただけるのではないかと考えています。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
この夏飲みたい日本の酒

  • ・総論 量から質へ“こだわり”が求められる時代へ
  • ・埼玉・秩父から世界一へ イチローズモルトの奇跡
  • ・家庭でも酒場でもレモンサワーが飲まれる理由
  • ・幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港酒造
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・伊豆で愉しむ野趣なワインと夏の富士
  • ・トップが薦めるこの夏のビール

[Special Interview]

 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 「トップの器以上に会社は大きくならない」

[NEWS REPORT]

◆ヨーロッパに続け! 動き始めた日本の再エネ事業

◆東芝のPC事業を買収し8年ぶりに参入するシャープの勝算

◆日産―ルノー経営統合問題に苦慮するカルロス・ゴーン

◆大阪がエンタメで仕掛けるインバウンドと夜の経済

働きがいのある会社を総力取材

 人材育成企業20

 企業の成長戦略をクローズアップ

ページ上部へ戻る