政治・経済

東京電力福島第1原子力発電所の廃炉・賠償費用は誰が負担するのか。経産省としては東電存続、国民の一部負担というシナリオを描いているものの、検討するために集められた有識者会合の参加者が激怒するなど、混迷の度合いを深めている。文=ジャーナリスト/児玉雄二郎

経産省にかみついた三村日商会頭

 東京電力ホールディングス(HD)の経営改革や福島第1原子力発電所(1F)の廃炉・賠償費用の支援策などを検討する経済産業省の有識者会合「東京電力改革.1F問題委員会」が紛糾している。東電の事業分割、分社化や他社との事業統合など、有識者会合で議論がされていないことが、既定路線のように報道されたことに、会合出席の有識者が激怒した。

201612201F_P01

三村明夫・日本商工会議所会頭(Photo=幸田 森)

 また、非公式な会合を数回開催していたにもかかわらず、世耕弘成経産相が会合自体を「存在しない」と会見で明言し、マスコミ各社との確執も生じた。

 経産省は、支援策を年内に取りまとめなくてはならず、その焦りが、失態につながった。有識者会合の結論は、東電HDと原子力損害賠償・廃炉等支援機構が来年1月に取りまとめる「新・総合特別事業計画」の抜本改定に反映させる予定だ。端的に言えば、東電をつぶさずに1Fの廃炉・賠償費用にめどをつける改革案をつくることだ。

 最初の問題が、会合の序盤で起きた。10月中旬の1回目の会合直後、「東電の原子力発電事業を分社化する」方針が複数の全国紙で報道されたためだ。1回目の会合は、経産省が会合の趣旨を説明するほか、参加有識者が基本的な考えを説明するだけ。そのため、具体的な議論はなされていない。

 その段階の報道だったことから、有識者から漏れたものではなく、経産省が複数の社の記者にリークし、それぞれに大きく記事を書かせることで、原発事業の分社化が有識者会合の基本的な考えであると既定路線を押しつけようとしたと考えられる。

 これにかみついたのが、有識者の1人、日本商工会議所の三村明夫会頭だ。10月下旬の2回目の会合では冒頭から、「なんで議論もしていないような話が出てくるんだ」と経産省側に詰め寄ったといわれている。既に経産省がつくったシナリオを後追いで認めさせるための会合なら「(会合自体を)つくる意味はない」と厳しく追及した。

 政府の各種会議に参加している三村氏だけに、役所がシナリオを用意していることは分かっているが、議論をしていないうちから、結論の“肝”が出てくることは許せなかったようだ。

 また、別の有識者は「三村さんが怒ったのは、廃炉費用をすべて東電に任せることはできず、国民負担が生じるセンシティブな内容。それだけに、慎重な議論が必要だと考えているからだ。国民が納得できる負担となるのか、説得できるのかなどを含めた総合的な判断が欠かせない中で、再編という結果だけの先行は許せないと考えたようだ」と解説する。その上で、「ほかのメンバーも同じ気持ちだ」と話す。

 こういった経過を受け、東電の経営効率化や廃炉費用の捻出のために経産省が考えているのは、「JERA型を軸とした再編だ」と、全国紙の経産省担当記者は指摘する。

開けなくなった非公式会合

 JERAとは、火力発電・燃料調達事業で包括提携した東京電力と中部電力の共同出資会社だ。この記者によると、JERA同様に、東電のさまざまな事業を分社化して、他の電力会社などと提携、合弁会社を設立することを加速させるのが狙いだという。事業を売却してしまうと、その後の東電の収益がなくなり、毎年の廃炉費用や賠償費用を稼ぐことができなくなるので、あくまでも、収益力があるかたちでの東電存続という形態を持たせるには、数少ない選択肢の中で、有力なものだ。

 その中で原発事業の再編がポイントになり、特に、柏崎刈羽原子力発電所を他の電力会社との合弁の形態にし、再稼働を早期化させようという狙いだ。同時に東日本、西日本で原発事業を統括する再編も想定しており、これとも組み合わせた策にしたいと考えているもようだ。

 こういった極めて難しい議論を進める中で、経産省としては通常の有識者会合とは別に、非公式の会合を開き、議論のペースを早めようとした。通常の有識者会合は経産省の会議室で開催されるが、非公式会合は、通常会合の翌日の早朝に都内のホテルなどで議論していた。

 なかば公然の会合であったが、先の東電の分社化・再編をめぐる報道で、リークされなかった報道機関などが問題視し、経産省の担当者を追及。さらに、10月下旬の閣議後会見では世耕経産相が、「会合は、すべてオープンにして、いつどこでやるか公表して開催されている。非公式な会合というのは私は聞いていないし、存在もしない」と全面否定する事態となった。

 この結果、非公式会合は開催されないことになり、十分な議論ができるか、不安視されている。ある有識者は「すべての会合を公式で実施する必要はない。非公式会合でも議論していることを説明しても何ら問題ない」と経産省の判断を疑問視する。

 ただ、こういった議論全般に対し、全国紙の電力業界担当記者は「経産省は、東電がパートナーを組んで、再生する路線を考えているが、実際にパートナーに手をあげる会社があるのかについては考えていない。有識者会合の取りまとめも机上の空論になる可能性が高い」と懸念を示している。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る