マネジメント

誕生50年で閉館する銀座のソニービル

 東京・銀座の数寄屋橋交差点に位置するソニービルは、ちょうど50年前の1966年に誕生した。その8年前には銀座にショールームを構えていたが、ビル一棟まるまるショールーム化したのがソニービルだった。

20161220ITSASONY_P02

 ソニービルが開業した時、盛田昭夫社長(当時)は日経新聞に次の一文を寄せた。

 《(前略)このビルの建設につい、手放しで喜んでいいのかどうか、いまだに悩む点が無きにしもあらずである。その一つは、電気の専業メーカーであることをモットーとしてきたわれわれが、日本で一番値の高い土地――すなわち、それは世界で一番高い土地だと思うが――そんなぜいたくな所に、ビルなどを建てること自体正しいのかどうか。人によっては、一電機メーカーの分野で正気の沙汰とは思われないかもしれないし、思い上がりもはなはだしいと言われるかもしれない。第一、やっている私自身、その当時、とんでもないことだと思った。ついこの間まで、やるべきではないか、とまで真剣に考えていたのが本音である。(後略)》

 当時のソニーの売上高はわずか469億円にすぎない。現在の100分の1以下の規模だ。他の電機メーカーはというと、日立3400億円、松下電器(現パナソニック)2500億円と、ソニーとは桁が違う。急成長を続けていたとはいえ、ソニーはまだまだ弱小メーカーだった。そんな会社が銀座の一等地にビルを建てたのだから、盛田社長が世間の評判を気にしたのも当然だった。

 しかしそれは杞憂に終わった。ソニービルはすぐに銀座の風景に溶け込み、ソニー製品に興味を持つ人たちで賑わい、ソニーの成長スピードもさらに加速した。ソニー製品をPRする場として、ソニービルは期待以上の役割を果たした。

 そのソニービルが、来年3月末日を持って閉館となる。その後は地上部分を取り壊し、跡地を「銀座ソニーパーク」として開放する。東京オリンピック閉幕後の2020年秋には新たにビルを建設し、22年に新ソニービルとして、再スタートする計画だ。

 そこでソニーでは、閉館までの間、ソニーの歴史を回顧する「It's a Sony展」を開催する。ここではソニービルの歴史とソニーがまだ東京通信工業だった時代からの歴代のソニー商品約730点が展示されている。これさえ見れば、ソニーのモノづくりの歴史が分かる展示会で、11月12日午前11時のオープンと同時に、多くの人が訪れた。根強いソニー人気をうかがわせる光景だった。

金のモルモットと盛田のユニフォーム

 入ってすぐのところにあるのは、著名人の思い出のソニー商品で、平井一夫社長がインタビューで語っていた「スカイセンサー5800」もここに飾ってある。それを通り過ぎると、創業者の井深大氏が書いた「設立趣意書」や、創業間もない時期に糊口をしのぐためにつくった電気釜などが展示されている。そしてこのコーナーでひときわ存在感があるのが、金のモルモットだ。

20161220ITSASONY_P03

手前が初代トリニトロンテレビ。奥が失敗に終わったクロマトロンテレビ

 これは評論家の大宅壮一が週刊誌に書いた記事がきっかけだった。

 《トランジスタでは、ソニーがトップメーカーであったが、現在ではここでも東芝がトップに立ち、生産高はソニーの2倍半近くに達している。つまり、儲かると分かれば必要な資金をどしどし投じられるところに東芝の強みがあるわけで、何のことはない、ソニーは、東芝のためにモルモット的役割を果たしたことになる》

 これを読んだ井深は憤慨するが、やがて「モルモット精神があれば、いくらでも新しい仕事がある」と考えを改めた。60年、井深は藍綬褒章を受章する。それを記念して、社員は井深に金のモルモットを贈り、井深は終生、これを大事にした。

 展示会のオープン初日、会場には平井一夫社長も姿を見せたが、その襟には金色に光るものがあった。これは金のモルモットを模したもので、70周年を記念して社内で開催したサマーフェスタの記念グッズ。この一事をもっても、金のモルモットが今でもソニーのベンチャー精神の象徴になっていることが分かる。

 このモルモットのように、展示物の中にはソニー製品ではないものもある。その中のひとつが、ソニーのユニフォームだ。

20161220ITSASONY_P04

ソニーの歴史を彩ったウォークマンの数々

 ベージュ色の薄手のジャケットで、季節に合わせて袖が着脱できる。これは81年に三宅一生がデザインしたもので、盛田はこのユニフォームをとても気に入っていた。

 盛田は93年に脳出血に倒れ、翌年に取締役を退任したが、最後の取締役会には、このユニフォームを着て出席した。盛田のユニフォームへの愛着が分かるエピソードだ。会場には、実際に盛田が着たものが展示されている。

 このユニフォーム、今では廃止されているが、ソニー社内では、今なお着ている人を見かけることができる。また平井社長はソニー・ミュージックに入社したためユニフォームは支給されなかったが、ソニーに転じた時に、わざわざもらったという。

 もちろん歴史的な製品も数多く展示されている。

20161220ITSASONY_P05

15万体を販売した「アイボ」

 「G型テープレコーダー」、トランジスタラジオ「TR55」は、いずれも日本初。ブラウン管テレビに革命を起こした「トリニトロン」や音楽を外に持つことに成功した「ウォークマン」、子どもの運動会の必需品だったパスポートサイズのビデオカメラ「ハンディカム」等々、ソニーファンには垂涎の的の製品ばかりだ。

 その一方で、ペットロボット「アイボ」、2足歩行ロボット「キュリオ」のプロトタイプ、世界初の有機ELテレビ「XEL-1」など、事業化したものの撤退に追い込まれた製品も多い。ソニーはロボット事業への再参入を表明しているが、アイボやキュリオの事業をそのまま継続していたら、と思わざるを得ない品々だ。

 このほか、最近のソニー製品や、新規事業創出プログラムから出た野心的な製品も展示されている。ソニーの歴史だけではなく、今後の方向性を読むことができる。

 「It's a Sony展」は来年3月31日まで開催されている。(一部敬称略)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る