マネジメント

20161220MORMOT_P01

井深大(右)、盛田昭夫のコンビで成長したソニー


天才・井深大を支えた盛田昭夫

 前稿で見てきたように、ソニーは誕生からの70年間で、数多くのヒット商品を世の中に送り出してきた。評論家の大宅壮一に「モルモット」と揶揄されながらも、究極のポジティブシンキングによって、それをバネにし、さらなる成長を遂げてきた。その歴史は、戦後日本経済の復興の足跡と重なる。しかもソニーの行動は、他社の企業行動にも大きな影響を与えている。

 2人の創業者、井深大と盛田昭夫は戦時中、軍需電子機器の開発で出会った。戦後、井深の研究内容を描いた新聞コラムを盛田が目にし、2人は再会、1946年に東京・日本橋の白木屋ビルの一角で東京通信工業を設立する。翌47年には本社を東京・北品川に移す。2006年に現在の品川駅港南口(住所は港区港南)に本社を移すまで、北品川はソニーの代名詞でもあり、ここからあまたのソニー製品が生まれていく。

 50年には日本初のテープレコーダー、55年には日本初のトランジスタラジオが誕生する。それぞれ開発には苦労したが、井深の執念がそれに勝った。当時のソニーは町工場に毛の生えたような存在だったが、こうしたユニークな製品により、その存在を知られるようになっていく。

 ソニーがテープレコーダーを開発したことで、社に出入りするようになったのが、のちにソニー社長になる大賀典雄だった。大賀は当時東京芸大声楽科に在学中であり、プロの声楽家を目指していた。大賀の持論は「批評能力は表現能力に勝る」。テープレコーダーに記録した自分の歌を聞けば、もっとうまく歌えるようになるはずだと考えたのだ。ただし、当時の音質のレベルは低い。大賀はソニー製品の品質の向上が自分の役に立つと考え、頻繁にソニーを訪れるようになり、やがてはアドバイザーとして報酬も受け取った。その後、大賀はベルリン音楽大学に留学し首席で卒業、プロのオペラ歌手として活躍するが、経営の才もあると見込んだ井深と盛田は、大賀を口説き落とし、ソニーに引っ張り込んだ。54年のことである。

 盛田は大阪大学工学部出身で戦争中は海軍技術中尉だったエンジニア。しかし井深と出会ってからは、開発は井深に任せ、サポートに回った。学生時代から天才発明家として知られた井深の才能を発揮させるには、それが最善と考えたのだろう。資金調達や営業を一手に引き受け、井深が心置きなく開発に専念できる体制をつくりあげた。「テープレコーダーやトランジスタをつくっている時、後始末は盛田君がやってくれるという安心感があったから、僕は好きなことをやっていればよかった」という井深の言葉が残っている。

ハードとソフトに両輪経営の功罪

20161220MORMOT_P02 ソニーの功績のひとつに、国際化にいち早く取り組んだことが挙げられる。60年には他の電機メーカーに先駆け、米現地法人ソニー・アメリカを設立、62年にはニューヨーク五番街にショールームを開設した。これは銀座にソニービルが誕生する4年前のことだ。また61年には日本企業としては初めてアメリカで上場、当時の為替で14億4千万円を調達した。63年に盛田は家族を連れてアメリカに移住。メディアに積極的に出ることで「アメリカでもっとも有名な日本人」となる。これも、ソニーブランドの認知度を高めるための戦術で、のちにウォークマンが大ヒットした時には、ヘッドホンを耳に踊る盛田が『TIME』誌の表紙を飾っている。

 ソニーを語る上で「ハードとソフトの両輪経営」は欠かせない。これが今のソニーを世界で唯一無二の存在にしている。ソニーがCBSレコードと合弁で音楽産業に進出したのは68年のことだった。89年にはコロンビア映画を買収し、映画にも参入。こうした蓄積が、94年にプレイステーション発売によってゲームビジネスへとつながっていく。

 バブル期にはソニーだけでなく他の電機メーカーも映画産業にかかわった。松下電器(現パナソニック)はユニバーサル映画を傘下に持つMCAを買収、東芝はワーナー・ブラザーズに出資した。しかしいずれも今は手放している。

 ソニーだけがソフト部門を持ち続けていられるのは、ソフトの分かる人材がいたためだ。井深も盛田も大の音楽好き。2人がソニーに招いた大賀はプロの声楽家だ。特に大賀は、CBS・ソニー誕生と同時に同社に転じ、専務、社長を歴任、設立10年で日本一のレコード会社に育て上げた。この実績をもとに大賀は82年にソニー本体の社長に就任した。

 しかしこの「ハードとソフトの両輪経営」は、それは、その2つを熟知する経営者を見つけることが困難だという、新たなる問題を生む。大賀の社長在任期間は13年の長きにわたったが、それは後継者探しに難航した結果でもある。結局、ヨーロッパ駐在時代に映画監督のルイ・マルらと親交のあった出井伸之氏が社長に抜擢され、次のトップは米3大ネットワークのひとつCBSの社長経験もあるハワード・ストリンガー氏、そしてCBS・ソニーに入社した平井一夫氏へとバトンが渡る。しかし、出井氏以降、市場を席捲するヒット商品はあまり生まれていないのは皮肉というほかはない。

カンパニー制と執行役員制

 冒頭に「ソニー=モルモット論」について触れたが、それほどまでにソニーは世の中に存在しない商品を送り出し、新しい市場を開拓してきた。そしてこれは商品に限った話ではない。

 94年、ソニーはそれまでの事業部制を改め、カンパニー制へと移行した。各カンパニーのプレジデントには、10億円まで自由に決済ができるといった具合に権限を委譲、これにより意思決定のスピードアップを狙った。

 今ではカンパニー制を取り入れた企業は珍しくないが、すべてはソニーから始まった。もっともそのソニーは、カンパニー制では手ぬるいと、分社化に踏み切り、成果を上げている。今後ソニーにならって、社内カンパニーを分社化させるところが相次ぐかもしれない。

 執行役員制もソニーが最初だった。それまでの日本企業は、経営の監視役である取締役と執行役を同じ人間が務めていたが、これを分離することによってコーポレートガバナンスを強化することが目的だった。今では執行役制を導入することは極めて当たり前となった。

 こうした経営形態の変革は、ソニーの国際化の進展と無縁ではない。ソニーの社外取締役には昔から外国人経営者が名を連ねているし、逆にソニーのトップも海外の社外取締役を務めている。そこでコーポレートガバナンスの潮流を知り、ソニーに導入するという流れがある。

関連記事

好評連載

年収1億円の流儀

一覧へ
富裕層専門のカリスマFP 江上治

[連載]年収1億円の流儀(第59回)

運を動かす力は自らの内にある。

[連載]年収1億円の流儀(第58回)

運はどうしたら好転できるか?

[連載] 年収1億円の流儀(第57回)

すべて自分を責めれば最適の解決策が浮かぶ

[連載] 年収1億円の流儀(第56回)

問題や課題から逃げても、それは形を変えてついてくる。

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界6月号 [月刊記念特別号]
[特集]
トップ企業の経営哲学

  • ・永守重信(日本電産会長兼社長)
  • ・新浪剛史(サントリーホールディングス社長)
  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・林野 宏(クレディセゾン社長)
  • ・茂木友三郎(キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長)
  • ・樋口武男(大和ハウス工業会長)
  • ・北島義俊(大日本印刷社長)
  • ・澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長兼社長)
  • ・似鳥昭雄(ニトリホールディングス会長)
  • ・押味至一(鹿島社長)

[Interview]

 貝沼由久(ミネベアミツミ社長)

 経営統合で技術の受け皿を広げ新たなIoT時代に備える

[NEWS REPORT]

◆三井住友銀行、脱・たすき掛けの深層

◆一人負け、ソフトバンクに何が起きている

◆大塚家具、ロッテ……親子・兄弟相続の相克

◆ドキュメント シャープ鴻海入り1年のドラマ

◆長者番付で分かった日の丸ベンチャーの弱点

[政知巡礼]

 石破 茂(衆議院議員)

 「地方創生こそがポストオリンピックの鍵だ」

ページ上部へ戻る