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「ソニーらしさ」復活へのチャレンジ 新入社員のアイデアを商品化して新規事業へ 

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SAPから生まれた商品の「FES Watch」

アイデアが商品につながらない風土

 「社長になった時、まず商品を強化しなければならない、もっと面白い、ソニーらしいねと言っていただける商品を出していく方針を明確にした」

 インタビュー記事中の平井一夫社長のこの言葉は、2012年の社長就任時、ソニーの商品力が低下していたことを物語っている。

 70年前に誕生して以来、ソニーは数々のヒット商品を送り出してきた。しかも単なる電化製品ではなく、これまで世の中に存在しない製品を開発し、市場を新たに創造してきた。創業者の井深大が東京通信工業設立趣意書に「他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う」と書いたことを実践してきたのがソニーである。それがソニー神話をつくり、熱烈なるソニーファンを生んだ。

 現在、東京・銀座のソニービルで、「It's a Sony展」が開かれており、そこには数々の歴史的名機が飾られているが、ある程度の年齢の人にはこたえられない品々ばかりだ。

 しかし、そうした目を引く製品のほとんどは、20世紀に発売されたもの。21世紀になってからの製品で市場をリードしたと言えるのは、プレイステーションシリーズぐらいでしかない。ここにソニーの苦悩がある。かつてはヒット商品を連発していたソニーはどこに行ってしまったのか、というのが多くのソニーファンの嘆きである。

 03年4月、「ソニー・ショック」が起きる。決算発表で業績悪化が明らかとなり、ソニー株はストップ安をつけ、それに引きずられる形で日経平均もバブル後最安値まで下落した「事件」である。以降、ソニーの業績は低迷するが、それに伴い、すべてのことがシュリンクしていった。

 昔のソニーには、上司が反対した商品開発をこっそりと続け、それがのちにヒット商品になったといった逸話が数多くあった。ところが、「素晴らしいアイデアを上司に伝えても、『そんなことしている場合ではない』『それはお前の仕事ではない』と言われる」と平井社長のインタビューにあるように、業績の悪化で、その余裕はなくなり、全社的に、確実に収益につながりそうなものだけが事業化される。これではソニーらしい、新たな市場を創造するような商品など生まれるはずがない。平井社長は、これをなんとかしたかった。それが冒頭の発言に結び付く。

クラウドファンディングで集めた1億円の資金

 14年4月、ソニーは「新規事業や創造的な製品の創出に向けた取り組みを加速します」と宣言した。しかし、同時に発表されたのがソニー不動産の設立だったため、「ソニーはどこに向かおうとしているのか」との批判も起きた。しかしソニー不動産誕生を告げるニュースリリースにはこうも書かれていた。

 《4月1日付で新規事業の創出を担当する専門組織を設置し、社内から提案される新たな技術や商品、サービスについてのアイデアをスピーディーに事業化する取り組みを開始しました》

 この取り組みが、「Seed Acceleration Program」、頭文字を取って「SAP」と呼ばれる新規事業創造プログラムだ。

 これは新規事業を立ち上げるシステムで、ソニーの社員なら誰でも、年に4回開かれるオーディションに新規事業のアイデアを提案できる。これまでにオーディションは7回行われ、約1500人の社員から550件の提案があった。その中から、既に5つが商品化された。

 「FES Watch」は、一見、何の変哲もない時計に見える。しかしこの時計、文字盤とベルトが一枚の電子ペーパーでできているため、デザインが変わる。バリエーションは24種類で、その日の気分や服装に合わせることができる。

 「wena wrist」という時計の最大の特徴は、ベルト部分にある。ここにメカとアンテナとバッテリーを組み込んだことで、電子マネー、メール等の通知、活動記録の3つの機能を持つ。現在はムーブメントと一体での販売だが、その気になれば、お気に入りの腕時計をスマートウォッチ化することも可能だ。このアイデアを出した社員はまだ入社1年目だった。そして今はこの事業のリーダーとして10数人のチームを率いている。

 「AROMASTIC」は、携帯型のアロマディフュザー。高さ86ミリ、直径25ミリの小型円筒形の本体に5種類の香りを閉じ込めたカートリッジをセットすれば、好きなときに好きな香りをかいで気分をリフレッシュできる。

 「MESH」はさまざまな機能を持った電子ブロック。これを実際に配線するのではなく、スマホやタブレットのアプリ上で結び付けると、無線によってつながれ、音楽の再生や照明や室温をコントロールできるもので、IoTを身近に体験できる。

 そして「HUIS REMOTE CONTROLLER」は、複数のリモコンをひとつにまとめることができる。これさえあれば、テレビ、ビデオ、冷暖房などのリモコンがどこに行ったかと迷うこともない。

 SAPの新しさは、オーディション形式による提案だけではない。オーディション自体、単なる新商品のアイデアだけではなく、販路も含めたビジネスモデルも審査される。これにパスすると、いよいよ事業化に向けて動き出すのだが、ユニークなのは資金調達もクラウドファンディングによって自前で行うことだ。単に資金を集めるというだけでなく、応募してきてくれた人に商品を見せることで意見をフィードバックさせ、より商品をブラッシュアップすることができる。もちろん資金が集まらない場合、商品化は見送られる。

 「wena wrist」は、1千万円の調達を目指したが、応募の合計は1億円を超えた。これは日本のクラウドファンディング史上最高額だった。

平井社長の「失敗してもかまわない」宣言

 SAPを始めるにあたりソニーは、本社1階に「クリエイティブラウンジ」設置した。ここでは3Dプリンタや工作機器を格安な料金で使用できる。昔は上司に隠れてやっていた作業を、今はオープンスペースで行うことができるようになったのだ。

 ソニーの新規事業はSAPばかりではない。平井社長直轄の「TS事業室」も、これまでにない製品をつかったライフスタイルを提案している。

 その代表的製品が単焦点の4Kプロジェクター。壁に映像を投射する場合、通常のプロジェクターは、壁から離れた場所に設置しなければならないが、このプロジェクターは、壁にぴったりとつけて垂直方向に映像を投射、壁に4K画質の映像を映し出すというものだ。

 ソニーの放送機器の部隊がある厚木事業所の社員が、プロ用ではなく家庭の壁に投射する機器を開発しようと考えたが、どの事業部も引き取りたがらない。そこで厚木を訪れていた平井社長に直訴したところ、TS事業室で製品化されることになった。

 平井社長は4年ほど前、TS事業室のプロジェクトについて「私が独断と偏見で選んだ有望商品。失敗してもいい。私は音楽産業出身。音楽でも新人10人のうち当たるのは1人か2人。リスクを取ってやろうと、決めた」と語っていたが、余裕を失い失敗を極度に恐れていた時代とは明らかに違うソニーである。

 もちろん、ここで取り上げた商品の売り上げのボリュームはまだまだ小さいし、ソニーの収益に寄与しているとはいいがたい。かつてのソニー製品のように、世の中を変えるには至っていない。しかし、重要なのは、新しいものにチャレンジしようというその姿勢であり、社員のやる気をサポートするシステムだ。戦うソニーが戻ってきた。

 
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