マネジメント

20161220RECURRING_P01

売りっぱなしではなく継続的に収益が発生

 「感動の追求と、事業と収益の持続的な成長を実現する手段であるリカーリング型ビジネスの追求の2つを軸として、新たな事業機会の創出にむけた取り組みを加速していく」

 これは、2015年2月に開かれたソニーの経営方針説明会の中での平井一夫社長の言葉だ。

 「感動の追求」とは、創業以来ソニーが追い求めてきたものと言っていい。単に製品をつくるのではなく、そこに驚きや感動がある。それがソニーをソニーたらしめてきた。これを今後はさらに強化していくというのだ。ではもうひとつの、リカーリング型ビジネスとは何か。

 リカーリングとは、顧客から継続的に収益を上げるビジネスモデルだ。以前のソニーが得意としてきたコンシューマー向け電化製品は、基本的には売りっぱなしのビジネスだ。商品が売れればそれで終わり。その後いくら商品を使い続けても、収益は生まれない。一方、リカーリング型とは、ある商品を売った後でも、使い続けることで収益が発生する。分かりやすいのはプリンターだ。使い続ければインクの補充が必要となり、メーカーはそこでも利益を上げることができる。

 ソニーがこれまでリカーリングをやってこなかったわけではない。

 「これまでにもいろんな形でリカーリングはやってきた。プレイステーションはその代表だし、カメラビジネスもそう。カメラを買った後、レンズやアクセサリを買っていただくことで売り上げが上がる。生命保険や損害保険もそう。そういう意味では昔からやっていたけれど、それをさらに拡大していく」(平井社長)

 実はソニーほど、リカーリング型ビジネスと相性のいい企業はほかにない。なぜなら、ソニーは、世界で唯一、ハードとソフト、言い換えればエレキ事業とエンターテインメント事業の両方を持つ会社だからだ。

 平井社長の言葉にあるように、ゲーム事業はリカーリングの代表だ。ハード本体を売った後も、ユーザーが新しいゲームソフトを買うたびに、収益が上がる。しかもプレイステーションをインターネットに接続したプレイステーションネットワークは、全世界で6500万人以上の会員を数えるまでになっており、このネットワークを通じて提供されるコンテンツにお金を落としてくれる。その結果、ゲーム分野はソニーの稼ぎ頭に成長した。

 ゲームだけではなく、音楽や映画などのコンテンツビジネスは、すべてリカーリングの対象となる。そのすべてを持つソニーは、このコンテンツを利用して収益を上げることができる。

CBS・ソニーを即決した盛田昭夫

 ソニーがソフト分野に参入したのは1968年のこと。日本で合弁相手を探していたCBSレコードが、アドバイスを求めるために盛田昭夫を訪れた。すると盛田は即座に「ソニーと合弁でやらないか」と名乗りを挙げ、わずか30分で、ソニーの音楽事業進出が決まった。こうして折半出資でCBS・ソニーが誕生、10年後には業界トップに立っていた。88年には合弁相手であるCBSレコードの全株式を取得。ソニーの100%子会社、ソニー・ミュージックエンタテインメントが誕生した。

 その翌年、今度は映画メジャーの一角であるコロンビア映画を買収(現ソニー・ピクチャーズエンターテインメント)する。買収額は34億ドルに加え、コロンビア映画の負債を引き受けたため、総額は日本企業によるM&Aとしては過去最大の48億ドル、当時の為替レートで7800億円の巨額買収劇だった。

 この背景にあったのが、ビデオ戦争だ。ソニーが開発したベータマックスは、日本ビクター(現JVCケンウッド)が開発し、パナソニックが陣営に加わったVHSと企画争いを繰り広げたが、結果は完敗。趨勢を決したのはハリウッドの映画メジャーが映画ビデオをVHSに一本化したことだった。ビデオソフトのキラーコンテンツであるハリウッド映画がVHSでしか見ることができないのだから、ベータが負けるのも当然だった。

 音楽ソフトでは、ソニーとフィリップスが開発したCDがレコードを駆逐した。CDへの移行にレコード業界は難色を示したが、ソニーはCBS・ソニー所属のアーティストのCDをリリース。これが呼び水となってCDは音楽ソフトのスタンダードとなった。もしビデオ戦争勃発時に映画会社を、傘下に持ち、ベータのソフト販売で先行したら、勝ち負けは逆だったかもしれない。その思いがコロンビア映画買収を決断させた。

 こうしてハードとソフトの両輪経営が始まるのだが、必ずしもうまくいってきたわけではない。映画会社買収直後には、現地トップの放漫経営で大赤字を出したこともあったし、ハードとソフト利益相反もあった。

 アップルの快進撃は、2001年に発売されたiPodが始まりだ。これにより音楽をダウンロードして楽しむスタイルが定着した。しかしソニーは、アップルより早くダウンロードサービスを始めていた。それなのに、自社でコンテンツを持っているため著作権保護に力を入れ、価格もCD並みにせざるを得なかった。一方、コンテンツを持たないアップルは、ユーザー側の立場に立ち、1曲200円で曲を提供した。結果、iPodは携帯音楽市場の地図を塗り替えた。

 これにより、コンテンツは持つものではなく利用するものとの流れができた。これではハードとソフトのシナジーなど期待できない。数年前、米投資ファンドで、一時はソニー株の7%を所有していたサード・ポイントは、ソニーに対しエンターテインメント部門を分離して上場するよう要求したが、エンタ部門の利益率が低いことに加え、エレキとのシナジーがあまりなかったことへの不満があった。

「定額制」が変えたコンテンツの価値

 しかし、潮目が変わった。コンテンツを持つことに価値がある時代がやってきたのだ。

 音楽販売がCDからダウンロードに移行するに伴い、市場はどんどん縮んでいった。例えば日本市場なら、90年代末には6千億円だった音楽ソフト市場は現在半分以下となっている。これは世界市場でも同様だ。ところがここにきて市場は拡大に転じた。そのきっかけになったのが定額型の音楽ソフト配信サービスだ。月額1千円前後で聞き放題。単価は安いが利用者が多いので、全体のパイは膨らむことになる。そして音楽を聴くたびに、権利者には一定額のお金が入ってくる。

 ソニーは2012年に英EMIの音楽出版部門を22億ドルで買収。今年も、かつてマイケル・ジャクソンと合弁で設立した音楽出版会社、ATMを7億5千万ドルで100%子会社化した。いまやソニーは世界でもっとも音楽著作権を持つ会社だ。

 コンテンツの価値向上は映像にも当てはまる。ネットフリックスやHuluなどの定額型サービスが普及したが、各社ともコンテンツの確保に躍起になっている。ソニー・ピクチャーズは、コロンビア映画以来の映画コンテンツだけでなく、テレビ番組の制作部門を持つ。ソニーの映画部門は、苦戦が続いているが、テレビ制作部門の売り上げは大きく伸びており、映画部門を下支えしている。

 こうしたことが背景にあって、昨年の経営方針発表会で平井社長は「エンターテインメントはソニーグループにとってたいへん重要な事業。一部では相変わらずソニーの本業はエレクトロニクスで、エンターテインメントを副業ととらえる向きもあるが、18年間連続して黒字を継続しており、安定的に収益を創出する、まさにソニーグループの大きな柱のひとつ」と、エンタがエレキと並ぶ「本業」であると宣言した。その上で今後のソニーをリードしていく4つの「成長牽引領域」に、イメージセンサーなどのデバイス分野、ゲーム&ネットワークス分野と並んで、映画分野と音楽分野を挙げた。つまり、4つの成長牽引領域のうち、3分野がリカーリング型ビジネスであり、これはソフト部門を持つからできることだ。 盛田が提唱した「ハードとソフトの両輪経営」が、これから本番を迎える。(一部敬称略)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る