国際

20151222NIRUMARA

偽造通貨や不正蓄財根絶目指してショック療法

 インド政府は、警告なしですべての500ルピー(約800円)と1千ルピー(約1600円)紙幣を廃止することを決定した。この2つの高額紙幣は、流通紙幣のおよそ86%を占めており、インドでは金融取引のほぼ70%が現金で行われている。ブラックマネーと言われるお金のほとんどが500ルピーまたは1千ルピー紙幣で保持されている。

 インドでは大多数の企業が、現金で運営されている。インドのGDPの3分の2が税制に組み込まれていない現金経済だ。現金取引が重要な役割を果たす主要部門は、不動産、建設、金や日用生活品の小規模業者・販売者などの非公式部門だ。例えば、果物や野菜の小規模農民は、地方の市場で農産物を現金で売り払う必要があるので、直ちに影響を受ける可能性がある。小規模業者、レストラン所有者、輸送業者なども影響は避けられない。その影響自体は徐々に減退するだろうが、突然の紙幣廃止は経済に悪影響を与え、縮小の事態に見舞われる公算が大きい。

 インドの通貨の86%が無効となったため、中央銀行は差し替え用紙幣(新紙幣はサイズが違い既存のATMには使えない)の印刷に苦闘している。モディ首相は、国民に対して50日間辛抱するように要請したが、実際にはこのプロセスに4カ月もの時間がかかる可能性がある。労働人口の多くが、新しい通貨を引き出すために銀行やATMの前に長い列を作っている。

 消費者は今後数週間の間、現金に困り、支出に打撃を与えるだろうが、この戦略はインドのイメージや経済的展望を長期的には押し上げるものだ。アナリストによっては、今回の動きをモディ首相の見事な手腕であるという人もいる。これにより多くの人が本当の収入を明らかにして税金を払い、腐敗やブラックマネーの問題に取り組むことになり、テロリストへの資金提供になりやすい偽金を阻止して、インドの経済成長モデルが軌道に乗る可能性がある。

 インドのインターネット新規事業はこの機会を利用しようとしている。例えば、タクシー配車サービスのUberとインド企業のOlaやモバイル決済大手のPaytmなどは、人々が現金からデジタル支払いに移行したため、新規登録数が急増している。

 インドが自国通貨を廃止したのは今回が初めてではない。1946年にインド準備銀行によって1千ルピー紙幣と1万ルピー紙幣が廃止された。その後、54年に5千ルピー紙幣が導入されたが、市中では定着せず、78年に廃止された。

紙幣切り替えの影響に海外メディアの反応は

 旧紙幣の廃止は、若者には歓迎されたが、一部には眠れない夜を迎えている人もいる。ある病院は、治療費を払う新紙幣がない患者に対して医療処置や薬を無料で提供すると発表した。また、あるホテルは今回の紙幣廃止の影響を受けた旅行者に無料で食料を提供している。

 インドを訪れる旅行者は、短期的には必要な紙幣を使用・交換できずに多少困ることになるだろう。しかし、ほとんどの高級ホテルではクレジットカードや国際的なデビットカードが使用可能なため、現金不足は外国人旅行者にとってそれほど困難な事態にはならないだろう。

 一部の野党のリーダーは、一般大衆への影響から施策の撤回を要求している。だが、実際に撤回が行われるとインドは政治的危機に見舞われると予測するアナリストもいる。

 フォーブスは、「インドの紙幣切り替えは功を奏する様子――銀行には300億ルピーの預金」という記事を発表。これだけの規模の動きは「明白な混沌」を引き起こすが、「現在のところ、うまくいっている様子である」と指摘している。

 BBCはより批判的で、「インドの通貨廃止がいかに貧困者を困らせるか」とし、ATMの前の長い列や急な現金不足で小規模業者が直面する問題などに注目している。

 ニューヨークタイムズは、ATM前の人だかりについて取り上げ、今回の施策を賢いやり方だと言う専門家の言葉を引用している。記事では、「今回の計画は、モディ首相の発表までトップシークレットだった。思い切った一手であり、インドの転換点になる可能性もある」と述べている。

 米国のワシントンポストは、肯定的な形で反応した。ナレンドラ・モディ首相の取り組みを“野心的”と呼び、ブラックマネーに対し断固たる措置を取ると述べた選挙時の誓約を守っていることに触れた。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

2015年の中国リスクと新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第35回)

「3不社会」韓国の「3放世代」

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

シェアハウス業界のトップを走るオークハウス(山中武志社長)。“ソーシャルレジデンス”として高い付加価値が評価され、外国人を中心に人気を集めて成長している。ライバルの追随を許さないのは、ハードとソフトが融合された顧客目線のサービス力にある。[PR]入居者目線でソフトとハードを革新 シェアハウスは外国人向けの特別…

20161004OKAHOUSE_CATCH

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新たな価値観への シフトを目指すソフトウエアテストのプロ集団――SHIFT社長 丹下 大

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

アニメーションから実写、3DCGまで、目的に合った動画の企画・制作を行うCrevo(クレボ)。マーケティング目線の動画をていねいな進行管理で制作し、リーズナブルな価格でありながら完成度が高いことで好評を得ている。── 起業のきっかけは。柴田 起業前、ソフトバンクの子会社で働いており、孫社長が主催す…

企業eye

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

部材選び、設計、施工まで100%オリジナルの住宅を提供。木製サッシ生産にも注力――東京組

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界1月24日号
[特集]
2017年注目企業43

  • ・時代をリードする経営者
  • ・急成長
  • ・ヘルスケア
  • ・ものづくり
  • ・IT
  • ・人材サービス
  • ・グローバル
  • ・オンリーワン

[Special Interview]

 片野坂真哉(ANAホールディングス社長)

 「追いつき追い越せで30年 挑戦こそがANAのDNA」

[NEWS REPORT]

◆新頭取は国際部門のスペシャリスト 三井住友銀行のサプライズ人事

◆爆買いから越境ECへヤマトホールディングスの目のつけどころ

[神田昌典対談企画]

 「知」の伝道者

 ゲスト 和崎信哉(WOWOW会長)

ページ上部へ戻る