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山村輝治・ダスキン社長「地域に根ざす強みを生かし人との関わりを提供する」

山村輝治・ダスキン社長プロフィール

山村輝治

山村輝治(やまむら・てるじ)1957年生まれ、大阪府出身。79年大阪体育大学卒業。小学校教諭を経て、82年ダスキン入社。2004年6月から取締役、09年4月に代表取締役社長に就任、現在に至る。

ダスキンはレンタルモップなどのクリーン・ケアビジネスとミスタードーナツに代表されるフードビジネスを展開している。一見畑違いの2つのビジネスだが、共通しているのはフランチャイズで、各加盟店がその地域のつながりに基づくサービスを提供していることだ。同社のビジネスの現状について、山村輝治社長に話を聞いた。聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=宇野良匠

ミスタードーナツで改革を進めた山村輝治・ダスキン社長

―― 現在の事業環境をどのように見ていますか。

山村 フードビジネスについては、ドーナツはスイーツ関連に入り、いろんなものが世の中にあふれてきているので、お客さまの取捨選択が進み、競争が激しくなっている感じはあります。

クリーン・ケアビジネスのほうは逆に、お掃除代行の需要が順調に伸びてきています。これから高齢化社会になってきて、また働く女性が増えるほど、もともとご自身がされていた作業を当社に依頼して、自分の時間を買うという流れはあると思います。

ですからクリーン・ケアビジネスはわずかではありますが、全体としてはプラス成長、フードビジネスは非常に厳しい1年だったと思います。

―― 現在3カ年の中期経営計画の2年目ですが、今後の見通しは。

山村 ミスタードーナツがこの2年間で店舗数が約120店舗減少したことによって収益が下がり、2期連続で落ち込み、当初の計画とのズレが生じました。

そこで2016年11月8日に大きな改革を発表しました。例えば、横浜の三ツ境駅(相模鉄道)で開店した「Mister Donut to go(ミスタードーナツ トゥゴー)」は、テイクアウト専門の店舗です。これは、働く女性が増えたことから、そうした方々が通勤途中に買えるような場所に出店するという新しいタイプの店舗で、今後増やしていこうと考えています。

―― 具体的に回復できるプランやスケジュールがあるということですか。

山村 基本的には新しい場所への出店ではなく、今ある店舗を積極的に改装していきます。その改装・閉店期間が2カ月ぐらいかかります。ですから改装をどんどん進めている時期は、閉店期間があるため、いったんは減収となるかもしれませんが、中長期的には必ずプラスになっていくプランで進めています。

―― では、将来的には回復していくと。

山村 そうですね。そういう意味では、フードビジネスの向こう10年ぐらいの計があるイメージを持っています。これまで続いたミスタードーナツの落ち込みをいったんリセットして、そしてさらに飛躍していくように持っていきます。

ダスキンのフランチャイズ政策に表れる「祈りの経営」とは

―― フードビジネス全体で競争が激しい状況で、今後反転していく戦略は。

山村 ミスタードーナツについては、これまで頑なに守ってきた、店舗内でつくることだけでなく、お客さまの行動やシーンに合わせて出店や改装をします。とかくフランチャイズというと、「同じパッケージで同じ建物で同じ商品で」ということがありますが、そこを少し離れて、今回のトゥゴーのような駅チカで出せるようなタイプ、また郊外では、ゆったりとくつろげるスペースがある店舗といったかたちで、そこに住んでいる方や行動される方に合わせた店のあり方、商品のあり方に変えていきます。地域独自性を追求することで、当社の優位性を明確にできると考えます。

しかし、それを実行するためには、長年培ってきた当社の単一化や標準化を変えなければいけません。一番のライバルは、自社で培ったノウハウであり、それをいったん崩すことです。したがって、他社がどうとかではなく、ミスタードーナツそのもののブランドをミスタードーナツ自らがいったんゼロにして、今の市場に合わせたかたちで出せるかがキーだと考えます。

―― 地域の独自性は加盟店の意見が反映されるのですか。

山村 トゥゴーの場合は本部からでしたが、当社の場合、加盟店会があり、その加盟店会と本部が頻繁に議論しています。

またミスタードーナツに限れば、毎月1回各都道府県単位で、お客さま約60人と私が直接対話する「ミスド ファンミーティング」を開催しています。お客さまの声を直接私が聞き、それを事業に反映しています。社長が最終ユーザーから直接お声をうかがう機会はなかなかありませんので、このファンミーティングは非常に意義があると思います。

―― フランチャイズにおける本部と加盟店との関係は。

山村 当社の創業者が各事業を立ち上げた時に、加盟店と本部は車の両輪だと語っていました。本部は商品やシステムを開発するが、最終的に販売・接客するのは加盟店なのだから、どちらが良くても、どちらが悪くても、車はまっすぐ走らない。だから開発する本部と販売する加盟店は運命共同体だということをしきりに言っていました。

契約書ではなく夫婦間のように婚姻届みたいなかたちで、もちろんたまには議論もしくは喧嘩もするだろう、でも一緒に助けあって将来的には良き家庭を築いていこう、良きダスキンブランド、良きミスタードーナツブランドを築いていこうという目指すところは一緒なんだと。これが当社の一番の特徴で、「祈りの経営」に表されている部分です。ですから、加盟店から契約内容と違うというような訴訟問題は今のところないですね。

今は加盟店も2代目、3代目に変わっていますが、加盟契約時に「お金儲けだけが目的であれば、加盟しないでください」とお話しています。過去からずっと事業説明会をやってきていて、恐らく何万人という人が説明会を聞いたと思いますが、それでも「やってみようかな」と思った方々が今の加盟店オーナーなので、そういう意味では、同じ共通認識があると思います。

ダスキンのモップを他の掃除用具とどう差別化して行くか

―― クリーン・ケアビジネスの展開は。

山村 クリーン・ケアビジネスは家庭用と事業所用に分かれています。

事業所用は今までのように単にマットやモップを届けるのではなく、トータルで衛生管理を提案していきます。例えば、検査キットを使って飲食店などの細菌の状況や量を調べ、それで当社の商品を置いて、細菌が減ったかどうかまで見える化する。そうしていかないと、お客さまは納得されません。今後は衛生管理のアドバイザーとして進めています。

家庭用のほうは創業期に比べて圧倒的に留守宅が増えました。これは当社だけでなく、訪問活動をされている企業はみんな同じ状況だと思います。ですから、その課題を克服するために、人の集まるところ、例えば事業所用のお客さま先で家庭用の商品をお知らせしたりしています。またレンタル商品は自宅のポストで受け取って郵便ポストに返却してもらう仕組みを増やしています。

お客さまの在宅率が低いなりの商品の提案とお届けの仕方、そしてカード決済を取り入れることでカバーしていきます。それでも都市部のタワーマンションなどは営業すらできない、チラシすら入れられないことが多いので、そこはテレビCMなどを活用しながら、ネットでの注文を促しています。

―― ダスキンのモップは特別な商品というイメージがあり、その一方で、今は掃除用具が安く簡単に手に入るようになってきています。そこでの差別化はどう考えていますか。

山村 お客さま数で言うと、今、家庭用で全国520万軒ぐらい4週間に1回商品を交換させていただいていますので、他の掃除用品との差別化は十分できていると思います。

ただし、ダスキンはリサイクルで交換され、使い捨てではないので環境にやさしいということと、ダスキンのモップの特長や性能の良さを私たちのほうからお客さまに説明し、認知を高めていきます。ダスキンを使うのとほかの掃除道具を使う場合の違いも説明していきます。

超アナログの接点を強化するダスキンの狙い

―― 長期的な展望については。

山村 訪問営業が主であるクリーン・ケアビジネスは、お客さまとの接点が超アナログのビジネスです。世の中の少子高齢化が進むほど、ダスキンの組織と高齢者の方々との接点は深くなっていくと思うので、この接点をこれからも強化していきます。世の中でIT化やロボット化が進めば進むほど、人と人との関わりを多く提供できる企業体になり続けたいと考えます。

ダスキンの場合は商品を届ける際に交換する作業が入り、対話が生じます。そのときに何か会話をしたり、様子をうかがったりすることで、「遠くの親戚よりも近い関係」になっていく。また、当社がフランチャイズ展開しているメリットは、その地域で生まれ育った人が活動していることです。地域の会社が地域のお客さまに地域に根ざしたより良いサービスを提供する。そして最終的にお客さまからすると、「何か困ったら、とにかくダスキンに言えば何とかしてくれる」という関係をつくっていきたいと思います。

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