政治・経済

20170124REPORT_MITSUI

左から髙島誠次期頭取、國部毅頭取、宮田孝一・SMFG社長

三井住友銀行が頭取人事を発表した。國部毅頭取が次期頭取として紹介したのは、下馬評には上がっていなかった国際派の髙島誠氏で、本人もびっくりのサプライズ人事だった。この人事は、低金利が続き国内で稼げない時代の三井住友銀行の進む道を示している。文=本誌/関 慎夫

頭取人事で内外に示した海外シフト

 「世界で十指に入る金融機関を目指す」

 三井住友銀行次期頭取の髙島誠専務執行役員は、2016年12月16日に開かれた頭取交代会見で抱負を語った。

 現頭取の國部毅氏は三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)社長に、宮田孝一・SMFG社長はSMFG会長兼三井住友銀行会長にそれぞれ就任する(4月1日付)。國部頭取は間もなく就任6年を迎えるだけに、交代は規定路線だった。しかし髙島氏本人が「本当に意外だった」と語っているように、髙島氏の名前は下馬評には挙がっていなかった。行内にも、今度の人事に対して驚きの声が上がっている。

 髙島氏が選ばれた理由は、その経歴を見ればすぐ分かる。

 交代会見で配られた髙島氏のプロフィールにはこうある。「入行時3年強の京都支店勤務以外は、ほとんどのキャリアを国際関連業務に費やす」。さらに「1987年以降ニューヨーク勤務計5回、通算11年半の米国勤務経験(留学を入れると在米計13年)」とも。現在の担当も国際部門統括で、根っからの国際派だ。三井住友銀行頭取の登竜門である経営企画部長を務めたこともあるが、国内営業部門に関与したことがほとんどないことがネックとなり、頭取候補とは見られてこなかった。

 見方を変えれば、国内を知らなくてもかまわないほど、三井住友銀行は海外重視の成長戦略を描いているということだ。國部頭取も「成長分野は海外で、頭取には国際感覚やグローバルな視野が必要」と、髙島氏を選んだ理由を語っている。

 長引く低金利と一向に回復しない企業の資金需要が相まって、国内融資は利ザヤが縮小、収益を上げるのがむずかしい。その点、海外は「日本に比べるとびっくりするぐらい利ザヤが稼げる」(メガバンク幹部)。海外シフトはある意味当然といえる。

 もともと三井住友銀行は、今年度を最終年度とする中期経営計画で掲げた「10年後を見据えたビジョン」で、①アジア・セントリック②国内トップの収益基盤③「真のグローバル化」と「ビジネスモデルの絶えざる進化」――を実現すると謳っていた。①の「アジア・セントリック」とはアジア屈指の金融グループを目指すというものだ。具体的には「グローバルに展開する非日系大企業との複合的な取引を強化。また、アセットの多様化や機動的なポートフォリオの入替えにより、高採算なポートフォリオの構築」とある。

 こうした施策が奏功したこともあり、國部氏が頭取就任時には23%だった海外収益比率は、現在45%に高まっている。髙島氏に頭取を譲ることによって、それをさらに加速しようということだ。

 中計では、成長力のあるアジアに軸足を置き、「アジアビジネス強化を最重要戦略」と位置付けていたが、アメリカ生活の長い髙島氏を頭取に据えたということはアジアに加え、アメリカでのビジネスにも力を入れるという意思表示でもある。次期大統領のドナルド・トランプ氏は、「強いアメリカ」を掲げ、積極的な財政出動を行うと明言している。髙島氏に白羽の矢が立ったのはこうした背景と無縁ではない。

合併16年で終えるたすき掛け人事

 頭取交代発表から4日後、それを証明する記事が日経新聞の1面トップを語った。三井住友銀行が、北米の鉄道貨物車両のリース会社を30億ドル(約3500億円)で買収するというのだ。

 買収するのはミズーリ州に本社を置くアメリカン・レールカー・リーシング(ARL)で、業界6位の3万4千台の車両を保有する。同社の売上高は350億円、営業利益は120億円と、極めて安定している。三井住友銀行は13年に別の貨車リース会社を買収しており、両社を合わせると保有車両台数は5万5千台と、存在感を増す。今後トランプ政権によって米国経済が成長軌道に乗れば物流が拡大し、鉄道貨物車両の需要も増えることが期待される。それを見越してのARLの買収だった。

 もう一つ、今度の人事で話題になったのは、2001年の三井住友銀行誕生以来続いていた、旧住友銀行と旧さくら銀行(三井銀行)のたすき掛け人事に終止符が打たれたことだ。合併当時は、旧住友頭取が新銀行頭取、旧さくら頭取が新銀行会長となり、持ち株会社に移行してからは、旧住友が銀行頭取、旧さくらがSMFG社長という構図が続いてきた。しかし國部頭取がSMFG社長になることで、両トップともに旧住友出身者が占めることになった。

 合併から間もなく16年。既に行員の半数以上が新銀行入行組となっており、それほど旧住友、旧さくらにこだわらなくはなっているが、旧さくら出身者からは「合併当初から住友銀行主導で進んできたが、いよいよその最終段階にきた」と諦めの声も上がっている。その一方で、別の旧さくら出身者は「たすき掛けがはずれたことで、人事の自由度は増した。むしろチャンスと受け止めたい」と言う。

 4月1日、三井住友銀行は新たなスタートを切る。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

永田町ウォッチング

一覧へ

目が離せない小池都知事の2017年

[永田町ウォッチング]

20170124NAGATACHO_CATCH

[永田町ウォッチング]

2016年の政治を振り返って

[永田町ウォッチング]

小池知事の政治塾は『新党』への布石

[永田町ウォッチング]

衆院補選勝利で浮上した解散説の裏事情

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

シェアハウス業界のトップを走るオークハウス(山中武志社長)。“ソーシャルレジデンス”として高い付加価値が評価され、外国人を中心に人気を集めて成長している。ライバルの追随を許さないのは、ハードとソフトが融合された顧客目線のサービス力にある。[PR]入居者目線でソフトとハードを革新 シェアハウスは外国人向けの特別…

20161004OKAHOUSE_CATCH

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新たな価値観への シフトを目指すソフトウエアテストのプロ集団――SHIFT社長 丹下 大

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

アニメーションから実写、3DCGまで、目的に合った動画の企画・制作を行うCrevo(クレボ)。マーケティング目線の動画をていねいな進行管理で制作し、リーズナブルな価格でありながら完成度が高いことで好評を得ている。── 起業のきっかけは。柴田 起業前、ソフトバンクの子会社で働いており、孫社長が主催す…

企業eye

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

部材選び、設計、施工まで100%オリジナルの住宅を提供。木製サッシ生産にも注力――東京組

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界1月24日号
[特集]
2017年注目企業43

  • ・時代をリードする経営者
  • ・急成長
  • ・ヘルスケア
  • ・ものづくり
  • ・IT
  • ・人材サービス
  • ・グローバル
  • ・オンリーワン

[Special Interview]

 片野坂真哉(ANAホールディングス社長)

 「追いつき追い越せで30年 挑戦こそがANAのDNA」

[NEWS REPORT]

◆新頭取は国際部門のスペシャリスト 三井住友銀行のサプライズ人事

◆爆買いから越境ECへヤマトホールディングスの目のつけどころ

[神田昌典対談企画]

 「知」の伝道者

 ゲスト 和崎信哉(WOWOW会長)

ページ上部へ戻る