政治・経済

 トランプ大統領誕生で世界は混迷の度合いを深めていく。翻って日本でも4年目に突入したアベノミクスが正念場を迎えている。2017年の日本経済はどう動くのか。再び成長軌道を描き、安倍政権が掲げるGDP600兆円を達成できるのか。経団連の榊原定征会長に聞いた。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐藤元樹

官民一体で進める10のプロジェクト

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(さかきばら・さだゆき)1943年生まれ。67年名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了後、東レ入社。96年取締役、98年常務、99年専務、2001年副社長、02年に社長。10年会長、15年から相談役最高顧問。14年に第13代経団連会長に就任した。

―― アベノミクスも4年目となり、胸突き八丁を迎えています。榊原さんのここまでの評価と今後の展望を聞かせてください。

榊原 最初の3年間は、「3本の矢」のうち、金融政策と財政出動が有効に機能した結果、国民所得は上昇し、税収は増え、雇用も改善されるなど、成果も上がりました。しかし残念ながら2014年の消費税増税以降、消費は停滞したままですし、消費者物価も目標の2%に対して0.2%程度にとどまるなど、踊り場状態にあります。

 17年にはぜひとも踊り場を脱して1歩でも2歩でもステップを上がる年になればと期待しています。そのためには3本目の矢である成長戦略をきちんと実行する必要があります。加えて構造改革、すなわち規制改革、社会保障改革、働き方改革を、勇気をもって進めていく。構造改革は痛みが伴いますが、政権基盤の安定している安倍政権なら必ずできるはずです。

 構造改革の中でも特に要望するのは規制緩和です。規制緩和と成長戦略の2つが、日本の経済成長のエンジンとなります。これを進めて、日本経済の活力を引き出していくことが重要です。

―― 安倍政権は昨年、GDP600兆円の目標を掲げました。そのためにも成長戦略は不可欠ですが、具体的にどうやって成長を加速していくのですか。

榊原 昨年、政府は「日本再興戦略2016」を策定しました。ここには経団連も関与した「官民戦略プロジェクト10」という10のプロジェクトが盛り込まれています。これを着実に実行していく必要があります。

 プロジェクト10の一番目は、「Society5.0の実現」です。これは成長戦略の柱とも言えるもので、IoTやAIを駆使して日本の製造業・サービス業・農林水産業等の生産性を格段に上げようというものです。非製造業を含めて、日本の経済社会を超スマート社会に変えていく。

 また、プロジェクト10の最後には、消費者の需要を喚起するために、「プレミアム・フライデー」を提唱しています。今年2月から、毎月第4金曜日をプレミアムに過ごしてもらい、消費につなげようというものです。

 具体的には、企業に対しては第4金曜日の午後3時から余暇を楽しんでもらうよう要請しています。同時に、そこにさまざまなイベントを用意する。これについては現在、百貨店協会を中心に検討していただいています。金曜日の午後、空いた時間にデパートで買い物するもよし、子どもと一緒に映画を見るのもよし、金曜日から旅行に行くもよし。豊かさを実感できる週末になるよう、キャンペーンを展開していきます。こうしたプロジェクトを官民が一体になって進めていきます。

規制緩和と外国人労働者

―― もうひとつのエンジンである規制緩和についてはいかがですか。

榊原 規制はそれぞれ理由があってできたものですが、経済成長の大きな障害になっていることは間違いありません。これを乗り越えていく。規制緩和を進めれば、ビジネスチャンスは広がります。

 今、中国では、新しい事業が次々と生まれ、新しい計画が進んでいます。中国には規制が非常に少ない。問題が起きて初めて規制しますが、入り口は極めて広く、チャレンジが容易です。ところが日本では規制でがんじがらめになっており、何もできません。それが活力の差になっています。

―― 規制緩和は小泉政権の頃からずっと課題になっています。10年以上たっても規制緩和が進まないということは、それほど既得権益を持つ人たちの抵抗が大きいということです。

榊原 それでも安倍政権の3年間で随分と緩和は進みました。国家戦略特区が全国に誕生、この中では規制を気にすることなく事業を展開でき、結果もついてきています。この成功事例を、ネーションワイドに広げていってほしい。既に結果が出ていることなら、抵抗もそれほど大きくはないでしょうし、あったとしても乗り越えやすい。これをぜひ進めていただきたい。

 政府にはもうひとつ進めていただきたいことがあります。

 今、日本経済成長を阻害している大きな要因のひとつに人手不足があります。先日、日本を代表する工業地域の商工会議所の方とお会いしたのですが、皆さん、人が足りないと悲鳴を上げていました。企業にしても設備投資をする意欲はあるのに、人が集まらないから仕方なく海外に工場を建設するという。建設業界でも人手不足は深刻で工期にも影響が出始めています。これを解消するためにも、外国人労働者の受け入れの門戸を広げてほしいと思います。以前に比べれば広くなってはいますが、まだ足りません。

 例えば介護業界では、外国人介護士の受け入れが始まっていますが、日本で資格を取るには、3年間、介護施設で働いたあとに、試験を受けなければなりません。インドネシアやフィリピンには介護に適した方がたくさんいるにもかかわらず、日本語の試験のため資格を取るハードルが高く、なかなか数が増えません。こうした規制も緩和できるのではないでしょうか。

 移民が増えることには抵抗のある人も多いでしょうが、外国人労働者は移民ではありません。ぜひ政府に決断していただきたいと思います。

「同一」よりも均等・均衡待遇

20170207SAKAKIBARA_P02―― 安倍首相は働き方改革を掲げ、「同一労働同一賃金」の実現を目指しています。経団連としてはどう対応していきますか。

榊原 私が経済界の代表として言っているのは、日本には長い年月をかけてつくりあげた日本式の雇用慣行があり、労使の話し合いで決めてきた給料や賞与、手当などの給与体系があります。労働者の給与は、現在やっている仕事に加え、その人の役割、将来への期待といったものを総合的に判断して決まるものです。それを、今の仕事だけを切り取って、正規社員のAさんと非正規社員のBさんの給料を同じにするということはあり得ません。正規社員には転勤リスクもあるなど、非正規社員と同一に論じることはできないからです。

 もちろん、極度の格差は是正しなければならないのは当然ですし、格差をきちんと説明できる給与体系にする必要があります。それをもって同一労働同一賃金というのであれば、経済界としても協力していきます。ただし、同一という言葉は誤解を招く可能性があるため、われわれは仕事の軽重に見合った待遇をするという意味で、「均等・均衡待遇」と言っています。

―― いよいよ賃金交渉の時期です。今年も安倍首相はベースアップを要請しています。どのように臨みますか。

榊原 政府が経済界に出した要請は、給与は昨年並み以上に上げ、ベースアップを4年連続で実施、さらには期待物価上昇率も勘案してほしい、というものでした。デフレから完全に脱却するためにも、賃金上昇のモメンタムは維持しなければいけないと考えています。でもベースアップや期待物価上昇率については、個々の企業次第です。実は昨年も、われわれは企業に対して「収益を上げた企業は年収ベースで給与が上がるよう努力してほしい。ベースアップはひとつの選択肢です」と伝えてきましたが、今年も同様の考えです。

 ただし、今年と昨年では状況が違います。前期はほとんどの企業が増益でしたが、今期は上期ベースで増益・減益が半々です。特に製造業など輸出関連産業は、昨年前半の円高もあり、業績は厳しい。下期は回復基調にありますが、企業によって立場が違います。そこを理解していただきたい。

安倍首相の指導力が世界をリードする

―― 国際情勢も不透明です。ブレグジットやトランプ大統領によって何が起きるか。これからはっきりしてきます。

榊原 世界はグローバリズムから保護主義、ナショナリズム、ポピュリズムへと向かいかけています。しかし世界が持続的成長を遂げるには、自由で開かれた通商と経済社会体制の維持が不可欠です。そのためにはG7が結束する必要があります。G7は自由、民主主義、市場経済、人権の尊重といった基本的な価値観を共有しています。

 そこで期待したいのが安倍首相のリーダーシップです。政権の長さや安定度を考えると、国際社会の中で今、最も強力な指導者は安倍首相です。昨年の伊勢志摩サミットでも、リーダーシップを遺憾なく発揮しました。今年はさらに、自由で開かれた経済社会を守り、世界が持続的繁栄をするために、リーダーシップを発揮してほしいと思います。

―― それを経団連は支えていくということですね。

榊原 おっしゃるとおりです。よく、今の経団連は政府に近すぎると言われます。一般的には、経済界と政界は一定の距離を保ち、切磋琢磨しあうのが健全な姿です。でも今は平時ではなく、難問が山積しています。日本丸が嵐の中を航海しているのに、船長と機関長が喧嘩をしていては沈んでしまいます。ここは手を結んで、何としても安全に岸にたどり着く。そのためにも経済界と政界は同じ方向を向いていなければなりません。

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