マネジメント

20170207RAKUTEN_P01

楽天のドローン「天空」(Photo=提供:楽天)

楽天は2016年5月、千葉県のゴルフ場で1カ月間、ドローン配送サービスを実施した。期間と場所を限定したとはいえ、一般消費者向けに実サービスを提供する初めての事例となった。また、11月にはLTEを介した実証実験を実施。将来的な配送サービスの展開に向けて、一歩ずつ進んでいる。

安全面の配慮を徹底し試験サービスを成功

 楽天は、一般消費者向けドローン配送サービス「そら楽」の開発を進めている。その第一弾として、2016年5月から1カ月間、千葉県御宿町のゴルフ場「キャメルゴルフリゾート」において商品を配送するサービスを試験的に実施した。商品はクラブハウスの売店で販売している商品に加え、飲料や軽食など計100点を用意した。

 サービス実施にあたっては、飛行規制に関する交渉の過程で、安全面を考慮し人の頭上を飛ばないことが絶対条件となった。このため、クラブハウス近くの離陸地点から15番ホールのフルバックティー近くに設けた着陸地点まで数百メートルの距離を配送することになった。

 ドローンの機体「天空」は楽天が出資している自律制御システム研究所の技術がベースにある。ドローンは自律制御で、離陸ボタンを押してからはノータッチで、プログラムされた通りに指定の高度まで上昇し指定の経路を通り、指定ポイントで荷物を降ろして、また離陸して同じ経路で戻ってくる。ラジコン操作では、操作ミスによるヒューマンエラーの可能性があることと、物流は本来それなりの距離を運ぶものでラジコンの電波が及ばない範囲まで飛ぶことになるため、将来的なことを見据えて、自律制御のドローンを導入する。

 実際のオペレーションでは、御宿の強風に悩まされたという。ドローンの最大積載量は2キログラムとしているが、重量が重くなるほど突風に対する耐性が落ちるため、その日の気象条件に応じて積載量を減らすなどして対応した。さらに一定の風速を越えたら飛ばさないことを徹底し、安全な範囲内でサービスを運用した。一方で防水機能はなかったため、雨天は中止とした。また、ドローンに取り付ける配送用ボックスの中で荷物が動くと、ドローンがバランスを崩すため、梱包では荷物が動かないよう細心の注意を払った。

 結果として1カ月間のサービス実施で、ドローンが落ちるような大きなトラブルはなかったという。「われわれとしては大成功だった」とドローンプロジェクト推進課シニアマネージャーの向井秀明氏は手応えを語る。

LTEの実証実験で長距離配送にもメド

 楽天としては、このままゴルフ場でのサービスを続けることも可能だったが、次のフェーズの開発に注力するため、いったんサービスを中止した。そしてサービス実施で得られた改善点をフィードバックした新機体を11月に発表した。

 新機体では耐風性を向上させたほか、安全面では万が一のトラブルに備えてパラシュートを付けた。さらに完全防水ではないものの、カバーなどの形状を変えて防滴性を備え、軽い雨なら飛べるようにした。一方で、積載重量は変えていない。荷物の重さを上げると離陸重量全体が上がり安全性を損なう。楽天としては機体の積載重量を据え置き、飛行回数を増やして多くの配送に対応する方針だ。

 さらに新機体の発表に合わせて、ドローン特区である千葉市内で配送サービスの実証実験を行った。将来的なビジョンとして、市川塩浜の倉庫「楽天フルフィルメントセンター」から幕張新都心のドローン対応マンションに直接ドローンが商品を運ぶという構想がある。その縮図として、陸上の離陸地点を飛び立ったドローンが一度海上に出て海上を進み、陸上に戻って着陸地点に荷物を届けるデモを行った。実際の配送では10キロメートルの距離の飛行も想定され、ラジコンの無線は届かないため、NTTドコモのLTEを使った実証実験を行った。

 LTEを介したため、今回の飛行は二子玉川の楽天本社でモニターしており、実際にドローン離陸の指令は楽天本社から行った。今回LTEを介した飛行を実現したことで、「クリムゾンハウスから、いろんなところのドローンを離陸させて、オペレートする世界もみえてくる」(向井氏)という。

 今後の展開としては、空から商品を届ける新たな利便性を提供すること、過疎地の買い物弱者などに配送サービスを提供すること、救援物資搬送など災害対応の3本柱で考えている。

 その実現のためには、さらなる規制緩和が求められる。11月の千葉市の実証実験の実施でも特区でありながら20の関係各所の調整が必要だったという。規制に関する問題として、現在はホビー用も商用ドローンもすべて含めた包括的な規制になっていることを向井氏は指摘する。

 そこで商用ドローンについては、ある空域のあるルートだけを物流ドローンが飛ぶようにする「空の道」構想がある。これが実現できれば、ドローン物流は前進する。楽天としては、国の分科会などで提言を引き続き行っていく構えだ。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る