文化・ライフ

 テレビドラマの脚本家として数々の話題作、ヒット作を世に送り出してきた橋田壽賀子さんが、終活宣言! 親なし、夫なし、子なし、親戚なし、友もなければ、恋愛もなし。今や仕事もなければ、名誉欲もなし。葬儀もなしにして、後悔なしという、橋田流の世間を渡り切る知恵の集大成とは――。

90歳を前に開始した終活で身の回りのものを処分

20170221HASHIDA_P01

(はしだ・すがこ)1925年韓国ソウル生まれ。大阪府立堺高等女学校から日本女子大学卒業、早稲田大学中退。脚本家。松竹初の女性シナリオライターとして映画の脚本を書き、35歳からテレビの脚本家として活躍する。テレビの歴史とほぼ同じ時間を第一線にいてヒットを飛ばし続ける。「ただいま11人」「時間ですよ」「つくしの子」「たんぽぽ」「渡る世間は鬼ばかり」などのほか、NHK朝の連続テレビ小説「あしたこそ」「おしん」「春よ、来い」、大河ドラマ「おんな太閤記」「いのち」「春日局」など多数。35歳から91歳までの間に書いたテレビドラマは、「テレビドラマデータベース」によると単発219本、連続102本と膨大な数が放送されている。しかも連続ドラマは1年間の長丁場も少なくなかった。世界的にもこれほど多くのドラマ脚本を世に送り出した脚本家は類をみないという。

 90の声を聞いた時にけがをしました。病院の前で目まいがして転んでしまって。貧血だったんです。これはもう身辺整理しないといけないと思って終活を始めました。

 最初に、溜め込んでいたモノの整理です。24歳で松竹に入り脚本部に配属されましたが、本格的にテレビドラマの脚本を書き始めたのは、会社を辞めて独立した35歳から。以来60年近く書いてきたドラマの原稿や放送されたビデオテープが膨大にありました。衣服も随分捨てたし、本はあらかた熱海市の図書館に寄付して、資料として取ってあった新聞の切り抜きはすべて処分。今は自分の本しか残っていません。

 それからいろいろなことを考え始めたら、大事なのは死ぬことだと。年をとるとだんだん食が細くなるし、食べられなくなったら、いつか眠るように亡くなります。老衰は一番いい死に方ですね。がんだとホスピスに行けばいいので大歓迎。でも今、ホスピスはどこも満員なんだそうです。28年前にテレビマンだった夫に先立たれ、子どももいませんし、親戚づきあいもしてきませんでしたから、全くの独り身。認知症になったら周囲に迷惑をかけるし、人様の税金を使うのも嫌。何も分からなくなって、生きる楽しみがなくなった後まで生きていようとは思いません。

 誰にも心配や迷惑をかけることもなく、自分のお金で面倒をみてもらって死ぬ。そうしようとずっと考えていました。ちょうど20歳の時が終戦で思春期は戦争中でしたから、恋愛なんて全然ない。終戦後に皆さん引き揚げで帰ってみえたけど、同年代の男性の多くは戦死しているんです。当時はトラック1杯の女に男1人と言われた時代です。復員して来た男の人は、私より若い女性と結婚しちゃうから、飛ばされてしまったんですね。朝鮮から引き揚げて帰ってきた父は、一緒に復員して来た男の人と私を結婚させようとしたんですが、その方は事故で亡くなってしまいました。その後、父は亡くなるし、お金はないし、食べていくのに必死でした。戦争中は焼け野原で、あちこちに死体がごろごろしているのを見ていたから、死は特別なことではないという気持ちはあります。

 調べてみると、一番楽なのは安楽死だと分かりました。スイスには70万円で安楽死させてくれる団体があります。アメリカのいくつかの州も認められているそうです。日本では尊厳死法案が議論されることはあっても、反対にあってなかなか実現しません。いざという時のために、10年くらい前から日本尊厳死協会に入っているんですが、会費をお支払いしていないので、ダメかも知れません(笑)。

 病気になっても、無駄な延命はしないでくださいと周りの人には言っています。何の治療をしなくても1カ月くらいは生きるでしょう。それでは面倒だし、そんなに生かさないで医師が注射でピュッとやれば死んじゃう。そういうのがあればいいのに、と勝手に思っています。

クルーズで世界中を回り人間ウオッチングを

 夫が亡くなってからは、もう頼る人もいませんでした。今は朝8時から午前中だけ地元・熱海のお手伝いさんに来てもらって、料理や掃除、猫の世話とか、庭の手入れをしてくれる男の人も来ています。私は月水金と熱海のジムに通っているので、車の送迎と、トレーニングしている間に買い物をしてもらうなど、6人体制でやってもらっています。大好きな船旅には、昔からの友達が一緒に行ってくれます。

 今はお手伝いさんくらいしか話す人がいないので、船に乗っていると、いろんな人に出会えて人間ウオッチになっていいですね。主人が亡くなってからは、クルーズで世界中を回ってます。

 5、6年前に北極に行ったら台湾の人が乗っていて、『渡る世間は鬼ばかり』の翻訳本を持っているんです。びっくりしました。一昨年は2度目となる南極にも行きましたが、途中で経由したアフリカではまだ「おしん」を放映しているんです。ガイドの人が、「おしん」を書いている人だと私のことを紹介するものだから、チップを倍あげないといけなくなっちゃいました(笑)。

 船旅で何度かご一緒すると、お宅に遊びに行ってもいいですかとおっしゃる方もいらっしゃいます。でもすべてお断りしています。絶対深入りはしたくない。気を遣うのが嫌。私は人を信用しないんです。深入りしたら相手に期待したくなるし、裏切られたら悲しいでしょう。あるところで線を引いて綺麗な付き合いにしていたほうが、気が楽です。

 今、家にいるときは、BS放送で「はぐれ刑事純情派」とか松本清張のドラマなどをずっと見ています。仕事ばっかりしてきたので、昔のドラマを全く見ていないからです。ドラマの脚本を書いているときは、遊んでいるときでも頭の中にはいつも締め切りがありましたから。でも仕事はもうほとんどお断りしていますし、もういいんです。遺言には「遺産はすべて橋田文化財団に寄付する」とだけ書きました。

 財団は、夫が残してくれた遺産などを元手に設立しました。2億8千万円ほどありましたが、財団を作るには2千万円足りません。石井ふく子さんが「何か書いたら会社から借金してあげる」と言うので、1年の連続ドラマを書きました。それが「渡る世間は鬼ばかり」の始まりです。1年で終わるつもりでスタートしたんですが、女5人姉妹が大きくなって、結婚して……と続いてきたんです。

 財団ができても最初のうちはお金がないので、講演をお引き受けし、1週間に2度くらい地方にも行き、全国を回りました。1年で3千万円くらい儲けましたよ(笑)。講演はいいですね。同じ話をしても、同じように笑っていただけるし。原稿はそうはいきません。

人に知られず、ひっそり死ぬのが理想の姿

20170221HASHIDA_P02 テレビドラマの脚本は、「ありがとう」というセリフでも、俳優さんによって自分の書いたもののイメージが変わっていくのが面白かったですね。中身はないけど締め切りだけは守るっていうのが私の仕事の信条ですから。テレビドラマは、俳優さんやスタッフなどたくさんの人が関わるので、私が締め切りに遅れたら大迷惑。

 主人には「どんなことがあっても、俺の前で脚本を執筆するな」と言われていたので、主人が寝ている時や会社に行ってて留守の間が勝負と思い、必死に書いていました。

 テレビの視聴率は1%でも大変な数の人が見ていることになるし、「おしん」を書いている時は、田舎に行くとおばあさんが私のことをありがとうと言って拝んでくれるんです。感動しましたね。

 ドラマを書くのに苦しいと思ったことはありません。自分の好きなことを書かせてもらったし、自分が秀吉になったり、ねねになったり、この時代にこんなことが言えたら楽しいなと思って書いてるから楽しいんです。のんきな性格なのと、一流になろうと思ったことがないからです。一流はしんどいから大嫌い。学生の時、バレーボール部でしたが、いつも補欠。それでも練習試合で先生にいろんなところに連れて行ってもらえるし、楽でいいから二流人生もいいかなと。

 年を取るとあまり人に会いたいと思わないもので、今日も居留守を使おうと思ったくらいです(笑)。ずっと付けていた日記はやめましたし、ファックスは夜中にガタガタ入ってくるのが嫌で外しました。私の希望は、原節子さんのように、人に知られずひっそりと死にたい。だから死んでも絶対に公表はしないで、葬式もしないでと言ってあります。葬式をしないのは、私が葬式に行くのが嫌いだから。盛大なご葬儀のたびに本当に偲んでいる方はどれくらいいるだろうと思ってしまう。忙しいのに義理で来ていただいてもうれしくないし、もう私に義理を感じることもないんだから、お葬式はいらないと思ってます。(談)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

理想よりも現実。手段よりも結果。東北楽天・梨田監督の戦いぶり

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト(第59回)

マラソンでメダル獲得目指す日本に妙案なき現実

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト(第57回)

不世出の大投手、沢村栄治をめぐるスピードボール論議

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト(第56回)

なでしこジャパン再建で高倉監督が着目したこと

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト(第54回)

世界屈指の強豪クラブと互角に戦ったアントラーズ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第19回)

壮大な目標を立てると努力しない人材になる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

CEOのゴルフ

一覧へ
eyecatch_CEOgolf_new

[連載] CEOのゴルフ(第19回)

腰と肩を同じように回すから飛距離が出ない

[連載] CEOのゴルフ(第18回)

右足の力で飛ばすには左股関節の「受け」が必要

[連載] CEOのゴルフ(第17回)

直線的に振り下ろす感覚がスライスの原因

[連載] CEOのゴルフ(第16回)

切り返しで下へ力を加えることが飛距離の源泉

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界7月号
[特集]
我がベンチャー魂

  • ・藤田 晋(サイバーエージェント社長)
  • ・髙島勇二(MCJ会長)
  • ・小池信三(三栄建築設計社長)
  • ・田中 仁(JINS社長)
  • ・宇野康秀(U-NEXT社長CEO/USEN会長)
  • ・寺田和正(サマンサタバサジャパンリミテッド社長)
  • ・坂下英樹(リンクアンドモチベーション社長)
  • ・冨田英揮(ディップ社長)
  • ・平野岳史(フルキャストホールディングス会長)
  • ・河野貴輝(ティーケーピー社長)
  • ・出雲 充(ユーグレナ社長)
  • ・方 永義(RSテクノロジーズ社長)
  • ・山海嘉之(CYBERDYNE社長/CEO)
  • ・高岡本州(エアウィーヴ会長)
  • ・酒井 将(ベリーベスト法律事務所代表弁護士)

[Interview]

 後藤 亘(東京メトロポリタンテレビジョン会長)

 技術がどんなに進歩しても、求められるのは「心に響く」コンテンツ

[NEWS REPORT]

◆金融業界に打ち寄せる人工知能の衝撃波

◆ついに会長職を退任 フジテレビと日枝 久の30年

◆停滞かそれとも飛躍への助走か 元年が過ぎた後のVR業界

◆爆買い超えも目前 インバウンドショッピング復活の裏側!

[政知巡礼]

 小野寺五典(衆議院議員)

 「北朝鮮の脅威で安全保障の潮目が変わった」

ページ上部へ戻る