国際

20151222NIRUMARA

過去20年間でスラムに暮らす人数は倍になった

 もしも映画、「スラムドッグ$ミリオネア」を見ていない人がいたら、すぐに見ることをお薦めする。この映画はおよそありそうもないハッピーエンドで終わるおとぎ話だが、スラムに生きる無数の住人の生活を生き生きと描いている。

 過去20年間でスラムに暮らす人の数はおよそ2倍となった。1981年の2700万人が、91年に4600万人、2001年に5200万人、そして10年末には6500万人に達した。インドの金融の本拠地、ムンバイには数多くのスラムがあり、アジア最大のスラムであるダラヴィ地区もある。

 インド経済は過去5年間に平均年率8%で成長してきたが、アナリストは、多くの貧困層はこの成長の蚊帳の外にいると指摘する。政府は都市部のスラムの住人のための施策をいくつか実施した。「ジャワハルラル・ネルー全国都市再生計画」(JNNURM)もその一つで、約50都市で貧困層のために住宅や公共施設を提供している。

 一般的にスラムは、もともときちんとした住宅エリアだったものが、住人が他の良い地区に移り住んだ後に、家屋が細かく仕切られて低所得者層に賃貸され、スラムとなった。インドでは、経済的な理由から住居に適さない場所に住み着いた人々のスラムもあれば、新しい都市開発によって住み家を奪われた住民が住み着いてできたスラムもある。そうしたスラムは、政府が水道や排水設備をはじめとしたインフラを整えていないので、居住地として相応しくない。

 スラムが増えたのは、インドの経済が長い間停滞していて、政府が住宅を整備する余裕がなかったためでもある。また、国の管理が行き届かなかったせいもある。加えて、独立以来、中央政府や各州はそれぞれにスラムの判断基準を設けていたため、どの地域が開発すべきで、どの地域が開発中かが判別しにくく、開発や整備が進まないという状況を生んでいる。例えばある地域ではスラムの中に高層ビルがあるなど、インフラが本当は整っているのだが、周囲はスラムのまま残されているのは、住民の開発に対する反対が大きいからである。そうしたところでは犯罪も多く、現在政府も持て余している。

 インドの経済発展が不均衡であるため、地方の雇用機会はあまり多くない。そのため、こうした地方では高い失業率と低い求人数のために、就労機会を求めて都市に出て行かざるを得なくなる。この現象は、独立後に急速な都市化が生じたことで増加したが、人々は住む場所を見つけることができず、未開発の地区に移り住んだ。

 サービス部門の成長で都市部は急激な人口増加を見たものの、都市のインフラは同じペースで増えてはいかなかった。地方からの膨大な数の移住者や、非公式部門で働く労働者のための住居やその他の施設が間に合わず、支援のないほとんどの移住者は、どこであろうと住めるところに住まざるを得ない。元からいる人々と流れ着いて来た多くの移住者の人口増加がスラムを脹れあがらせた。多くのスラムは国有地にある。これは役人の怠慢と管理不行き届きが招いた結果である。

スラム撲滅プロジェクトは潜在的なマーケットに

 スラムの住人には自分たちの住宅の所有権がないため、政府機関に基本的設備を要求することができない。仮にそれらが提供されたとしてもこれらの地域は開発された地区とは比較にもならないくらい劣っている。多くのスラム住人は単純労働者や半熟練労働者であり、おしなべて貧困層以下である。多くのスラム住居は基準を満たす衛生設備や水道や電気設備もない。

 国家スラム開発計画は、スラムの段階的改善を目指し、水道、道路、街灯、トイレなどの基本的設備を整えていくことを目的として最近始まった取り組みで、現存するスラムを公式な社会体制の中に取り込んで、普通の町と同様のレベルの設備を整える一方、スラム出現の背景にある制度の不備を是正し、都市部の土地不足の打開や、都市部の貧困層への住居問題の解決などを総合的に取り組んでいる。

 もし、インドがスラム問題に取り組んで人々に住居と基本的な設備を確保して、生活環境が整えば、皆がきちんとした雇用を確保でき、国全体の透明性と生産性の向上に貢献するだろう。政府は多くの施策を実施してきたが、先は長い。スラム撲滅ができれば、インドは今後世界の表舞台で大きく輝くであろう。

 スラム撲滅のためのインフラプロジェクトが計画されている。この分野は日本企業にとって潜在的なマーケットである。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

2015年の中国リスクと新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第35回)

「3不社会」韓国の「3放世代」

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る