政治・経済

20170307eigoインバウンドの増加で、外国人との接点は劇的に増えた。しかしいつまでたっても、日本人と外国人の間には「言葉の壁」が立ちはだかる。この壁を技術によって乗り越えようと動きが急になってきた。携帯型翻訳機が1台あれば、あなたも今日から国際人としてふるまえる。文=ジャーナリスト/三島紘一

訪日外国人急増でも出国日本人は減少

 昨年、日本を訪れた外国人はついに2千万人を超え、2400万人となった。2019年にはラグビーワールドカップがあり、20年には東京オリンピックがある。これらのイベント効果を勘案すると、政府が目標とする3千万人という数字も現実味を帯びてくる。

 ところが、いつまでたっても上達しないのが、日本人の英語力。楽天が全社員にTOEIC受験を義務付けたのは10年。当初、平均点が500点台(990点満点)だったものが、5年後には800点台となるなど、着実に成果が出ているようだが、それはあくまで減給などの強制力を伴っていたから。日本人全体の英語力が上がったという話は寡聞にして知らない。

 「結果にコミットする」で有名なダイエットジムのライザップは、昨年、「ライザップ・イングリッシュ」を開設、英語に関しても結果にコミットしているが、その方法はダイエット同様、受講者一人ひとりに専属トレーナーがついて面倒をみるというもの。逆に言えば、そこまでしなければ、英語をマスターするのは難しいということだ。

 来日外国人が増え続けている一方で、外国に出掛ける日本人は12年に1849万人だったものが、15年には1621万人まで減っている。日本経済の停滞や高齢化、テロの危険性などの影響が大きいが、英語を筆頭とした語学の壁が、海外に足を運ぶのを逡巡させているという側面も否めない。

 こうした日本人の「悩み」を、ITの活用により解決しようという動きが目立つようになってきた。

 例えばパナソニックは、20年をにらんで、外国人とのコミュニケーションを行う機器・システムの開発を進めている。その一環で、昨年発表したのがペンダント型翻訳機。これは、首にぶら下げた端末に話し掛けると、翻訳してくれるというもの。具体的には、話した言葉をテキスト化。それをクラウド上で翻訳し、外国語で表記するとともに発声する。言語は英語だけでなく、中国語、韓国語にも対応している。

 パナソニックはこのほかにも、日本語で話すと外国語でアナウンスされるメガホン型翻訳スピーカーや、観光案内所での使用を想定した、テーブルにディスプレーを備えた翻訳機の実証実験を行っている。

 ペンダント型翻訳機は、翻訳作業をクラウド上で行っている。つまり、Wi-Fi環境にあるか、あるいは携帯電話の通じるところでないと機能しない。世界の観光地の中には、携帯の電波の届かないところも珍しくない。日本国内でも、山の中で携帯がつながらないところはいくらでもある。この状況での翻訳は不可能だ。

 これはスマホにしても同じこと。最新のiPhoneやアンドロイドには翻訳機能がついており、日本語で話し掛ければ翻訳して音声で伝えてくれる。しかも翻訳機能は日々進化している。ただしこれも電波がつながってなければ意味がない。

ネット環境に頼らないポータブル翻訳機

20170307eigo2 そこで、クラウドに頼らない、インターネット不要のスタンドアローン型の翻訳機も登場した。ベンチャー企業のログバーが開発した「ili」(イリー)という機器がある。全長10センチほどで手の平に収まる小型端末だが、これ1台で場所を選ばずに翻訳が可能だ。イリーのユニークなところは、機能をとことんまで絞り込んでいることだ。

 一例を挙げれば、前述のペンダント型翻訳機やスマホの翻訳機能はいずれも双方向。つまり日本語から英語、英語から日本語へと、それぞれ翻訳できる。しかしイリーの場合、日本語から英語に設定したら、逆はできない。また、使うシーンを旅行と想定しており、辞書も旅行で使う言葉にフォーカスしている。その分、ビジネス英語などの機能は弱い。その代わりに手に入れたのが、使いやすさ。イリーに向かって言葉を話すと、最速0.2秒で翻訳され、タイムラグはほとんどない。しかも旅行英語に特化している分だけ、その分野に関しての誤訳は極めて少ない。

 「旅行に行って困るのが、自分の意思が相手に伝わらない時。でもイリーがあればそれができる。それだけで、利用者の満足度は高い」(吉田卓郎・ログバー社長)

 相手の英語が分からなければ意味がないと思うかもしれないが、例えばホテルのフロントで自分の意思を伝えられれば、あとはホテル側がなんとかしてくれる。レストランでも同様だ。しかも、スタンドアローンなため、場所を選ばない。

 このように、日本人の国際化の最大の障壁であった言葉の問題をクリアするための技術が普及し始めた。20年に向けてこの動きはますます加速していく。近い将来には、ウエアラブルで、使っていることを意識しない翻訳機も出てくるはずだ。日本人の本当の意味での国際化がこれから始まるのかもしれない。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

入学試験や資格取得のための勉強法については、さまざまなハウツーコンテンツが世にあふれている。そんな中、独自の学習理論で注目されているのが、サイトビジット社長の鬼頭政人氏。勉強法という個人的な問題を解決するためのサービスを、「働き方改革」を推進する法人向けにも展開している。(取材・文=吉田浩) …

鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る