政治・経済

経団連の榊原定征会長の任期は2018年5月までとあと1年あまり。そのため今年5月の定時総会で就任する副会長選びは、今秋にも決まる次期会長人事を左右するものとして注目されていた。ただ結果的には、財界の人材不足を露呈する苦しい人事となった。文=ジャーナリスト/根島隆明

トヨタ、新日鉄住金の後継候補は「苦肉の策」

20170307KEIDANREN_p01 経団連の副会長は定員18人。現在は2人欠員で16人が選ばれている。このうち友野宏・新日鉄住金相談役と、内山田竹志・トヨタ自動車会長が任期満了で退任。そこで新たに4人を選任して定員を満たす。

 友野氏の後任は同じ新日鉄住金の進藤孝生社長、内山田氏の後任もトヨタから早川茂専務役員(4月1日付でトヨタ副会長に就任)が選ばれた。財界の名門企業で順送りしただけにも見えるが、実際には両社とも問題を抱えている。簡単に言えば候補者の不足だ。

 進藤氏は新日鉄住金社長になって3年目。かつてなら社長は社業に専念し、財界活動は会長に任せるのが一般的だった。しかし同社の宗岡正二会長は4年前に経団連副会長を経験ずみで、進藤社長以外に候補がいない。やむなく社長が財界活動を行うことになる。

 それでも社長が経団連活動をするならまだいい。トヨタの場合はもっと深刻だ。社長の豊田章男氏は、まだ財界デビューしていない。豊田氏は、いずれ経団連会長になると見込まれる財界の切り札的存在。もし今年、経団連副会長に就任すれば“ポスト榊原”が確実視される。ただ同氏はまだ60歳と若く、米国のトランプ政権との関係など社業も厳しい局面にある。

 そこで豊田氏のブレーン的存在であり、財界まわり担当の渉外経験を持つ早川専務を立てることにした。ただ経団連副会長が専務では格好がつかないので、ついでにトヨタの副会長に引き上げる。

 経団連副会長である内山田氏も社長は未経験。5年前に副社長から副会長に昇格して経団連の副会長を受け、その後にトヨタ会長になった。豊田章男氏を温存するために、トヨタは2度にわたってわざわざ副会長ポストを作ることになる。

 経団連には多数の会員企業があるのだから、副会長に適当な人物がいなければ他社の社長・会長を選べばいい。しかし経団連は、中核企業である新日鉄住金とトヨタを“空席”にできないと判断した。人物本位ではなく企業前提の人選をするしかない点に、今の経団連を支える企業の層の薄さが見える。

初の建設業界出身副会長

 人材の不足を補うのが新規登用だ。内定した経団連副会長4人のうち2人は、財界銘柄としては異色といえる。

 ひとりは三菱電機の山西健一郎会長。同社としては北岡隆元社長以来、約20年ぶりの副会長ポストとなる。重電大手であり、業績もいいだけに当然と思えるが、背景には微妙な企業間の力学が働いている。

 三菱グループ内では、重工・商事・銀行の“御三家”が優先的に経団連副会長に就任するのが不文律。特にグループ内で製造業を代表する三菱重工業は三菱電機を格下に見ており、同格の副会長になることを喜んでいない。

 ただ財界の名門・東芝が経営危機で当分、経団連役員になる見込みがなく、電機業界を代表する企業が足りない。また三菱重工自身も造船事業の赤字や航空機開発の遅れなど経営難に直面しており、発言力が低下している。そうした背景から、経団連が三菱電機を受け入れる余地が生まれた。

 経団連の新任副会長の4人目、大成建設の山内隆司会長は、初の建設業界出身。その意味で最もフレッシュな存在だが、残念ながら財界筋の視線は懐疑的だ。

 建設業界には伝統ある企業が多く、規模も小さくない。なぜこれまで経団連副会長に選ばれなかったのか。それは不適切な企業活動が懸念されたからだ。もし贈収賄や談合が明るみに出た時に、経団連の役員企業であれば打撃は財界全体に及ぶ。

 大成の山内氏の副会長就任は、業界がクリーンになった証拠であるのかもしれない。しかし経団連副会長の人材不足が深刻化し、やむを得なかったという見方も根強い。

 新任以外の副会長14氏のうち、経団連の次期会長候補と目されているのは日立製作所の中西宏明会長ただひとり。対抗馬は三菱重工業の宮永俊一社長だったが、前述したように同社の経営難から、可能性は限りなく低い。

 今年の副会長選びは、中西氏の独走を阻む次期会長候補がいるかどうかが焦点だった。新日鉄住金の進藤社長は普通なら候補になるが、日本商工会議所会頭が同社の三村明夫名誉会長であることを考えれば、“ポスト榊原”はあり得ない。ほかには有力候補はいない。

 いわゆる財界銘柄以外に目を転ずれば、ソフトバンクグループの孫正義社長はじめ、実力ある経営者がいないわけではない。しかし経団連は、そうした人材を取り込む意思はないようだ。

 “韓国の経団連”といわれる全経連は最近、サムスン・グループが退会を表明したことで、存続の危機がささやかれている。経団連にも、そうした日がやってこないとも限らない。

 

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