政治・経済

20170307komeコメどころの東北地方で“ブランド米戦争”が過熱している。昨年は青森県産の「青天の霹靂」が本格的に県外で販売されたほか、昨秋には岩手県産の「銀河のしずく」がデビュー。他県も新品種投入を控える。ブランド米をめぐる産地間競争は激しさを増すばかりだ。文=ジャーナリスト/来栖秀雄

「特A」を取得した青森「青天の霹靂」

 「生産者、農業関係団体の努力のたまもの。とにかく『ありがとう』と言いたい」

 一昨年の2月、コメのおいしさを格付けしている日本穀物検定協会(東京)が発表した米の食味ランキング。県東京事務所からの連絡を今や遅しと待っていた青森県の三村申吾知事は、県産の新ブランド米「青天の霹靂」が最高評価の「特A」を取得した、との報に感極まって声を詰まらせた。

 コメの産地にとって「特A」の奪取はまさに悲願だ。国内外で評価が高まり、その知名度もまるで違ってくるからだ。日本穀物検定協会が昨年発表した2015年産米の食味ランキングで、「特A」は14年産より4銘柄増えて46銘柄と過去最多となった。

 このうち東北地方からは、先述の青森「青天の霹靂」(中弘南黒・津軽・青森中央)のほか、岩手「あきたこまち」(県中)、「ひとめぼれ」(県南)▽宮城「ひとめぼれ」、「つや姫」▽秋田「あきたこまち」(県南)▽山形「はえぬき」、「ひとめぼれ」、「つや姫」▽福島「コシヒカリ」(会津)、「コシヒカリ」(中通り)、「ひとめぼれ」(会津)――の12産地・品種が「特A」評価を受けた。

 実に「特A」全体の3割近くを東北産のコメが占めたことになる。

 特に、青森は県として初めての「特A米」の誕生だっただけに感激もひとしおだった。青森のコメ作りは低温との戦いの歴史でもある。

 このため、寒さに強いことや安定して収穫できることが重視され、品種開発が進められてきた。主力の「つがるロマン」「まっしぐら」は寒さに強く、食味も良いのだが、価格が安く、県外では業務用として用いられることが多く、ブランド化は二の次だった。

 そうした中で「青天の霹靂」は多くの品種を掛け合わせ、約10年をかけて開発された。粒が大きめで食べ応えがあり、長時間の保温でも潰れない適度な硬さも売り物だ。青と白のロゴが印刷されたパッケージも消費者に鮮烈な印象を与えた。JAなどが設定した相対取引価格で、頂点に君臨する新潟県産「コシヒカリ」を超える価格を付けたこともあり、県外でも人気は急上昇中だ。

宮城が期待する「だて正夢」

 他県も追撃態勢を整える。

 まずは岩手県。こちらも約10年をかけて開発したという「銀河のしずく」が昨年秋に本格デビューを果たした。

 先述した15年の食味ランキングでは参考品種ながら最高評価「特A」を獲得。五つ星のお米マイスターが選ぶ「米のヒット甲子園2016」(日経トレンディ主催)でも大賞に選ばれた。今月に発表される16年の食味ランキングでも「特A」となる可能性が高そうだ。

 岩手県産米も青森と同様、病気への強さと収量の多さを重視してきたため、ブランド化が進んでいなかったが、状況は大きく変わりつつある。

 “二の矢”も放たれた。今年秋に発売する「金色(こんじき)の風」だ。銀河のしずくが白くて、あっさりした味が特徴なのに対し、金色の風は粒が大きくて甘く、食味が優れているという。県の担当者は「ともに味には自信がある。お客さんに手に取ってもらえればこっちのものだ」と、「金・銀」の二枚看板で勝負を懸ける。

 宮城県は1月、来年市場に本格投入する次期主力品種「東北210号」の新しい名称を、仙台藩祖の伊達政宗公や震災からの復興の「夢」をイメージさせる「だて正夢」に決めた。今秋にはロゴマークのデザインが決定する。

 宮城といえば、古くから「ササニシキ」が主力だったが、冷害に弱いことなどからその作付面積は大きく減少。今では「ひとめぼれ」が主流だ。そうした中での待望の新ブランド米。もっちりとした粘り強い食感で、冷めても残る甘みや粘りが特徴だ。

 村井嘉浩知事は「だて正夢は県産米のエース。ひとめぼれ、ササニシキを引っ張ってほしい。いずれは海外にも打って出たい」と宣言する。

 ブランド米は10年前後にデビューしたつや姫(山形)やゆめぴりか(北海道)などが一気に高級ブランドにのし上がったことで注目を集めた。

 そのトップランナーである山形県も18年秋に新品種「山形112号」をデビューさせる考え。「つや姫と一姫二太郎に」(吉村美栄子知事)として、「○○王子」など男性的な名称が検討されている。

 ブランド米戦争の背景には、18年産以降のコメについて国の生産調整(減反)が廃止されることがある。その後の米価の変動は予測できず、需給バランスに影響が出るとの懸念がある。そこで「おいしい、かつ、値段もお高め」のブランド米への期待が高まる。

 「県産のブランド米が評価されれば、従来の品種の評価や価格もそれにつれて上がってくるのでは」(岩手県のある農家)というわけだ。

 冷害による不作に悩まされ続けてきた東北地方。その厳しい気候条件の中で次々に生まれる新ブランド米は、技術革新や地元農家の努力の結晶といえるだろう。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る