政治・経済

20170307NAGATACHO_P01

イラスト/のり

トランプとつかず離れずを維持できるかがカギ

 1月20日に就任したドナルド・トランプ米大統領が、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱の大統領令に署名したのを皮切りに、不法移民の流入を防ぐためとしてメキシコとの国境沿いに壁建設を指示する大統領令に署名。さらに、テロ対策として中東・アフリカ7カ国の一般市民の米国入国を90日間停止、すべての国からの難民の受け入れを一時的に停止という“入国禁止令”を出した。就任からわずか10日余りで、早くも世界がトランプ大統領に振り回されている。

 日本もトランプ大統領の“標的”にされている。1月31日、製薬メーカーの経営トップを集めた会合で為替について言及し、「中国が何をしているか、そして日本が何年も何をしてきたか見てみろ。彼らは、為替を操作して通貨安に誘導している」と、日本を名指しで批判。菅義偉官房長官はすぐさま「(批判は)全くあたらない」と反論した。2月10日の日米首脳会談を前に、早くも互いを牽制する舌戦が切られた格好だ。

 自民党関係者は語る。

 「トランプ大統領は、今なおビジネスマンのスタイルを貫き通している。つまり、先制攻撃を仕掛け、自分に優位に交渉を進めるというもの。“米国へのお土産”を取れるだけ取ろうという腹積もりなのでしょう」

 安倍晋三首相は、日本外交が厳しい状況に立たされることをあらかじめ想定していたと、官邸関係者は語る。

 「昨年、大統領選で当選を果たした際、すぐさまニューヨークへ駆け付け、トランプ氏に会ってきたことで、さまざまなシミュレーションを行ってきました。だからこそ、年明けには何度も『解散はない』『経済優先』を述べていたのです」

 想定内だったとはいえ、厳しい状況に変わりはない。米国に引きずられて尻尾を振るようなマネをすれば、アベノミクスが道半ばなのに海外でまたも大盤振る舞いするのかと、批判の矢面に立たされるからだ。加えて、海外から見れば、トランプ追従の国家としてテロの格好の対象になりかねない。うまくつかず離れずのポジションをキープしていけるかがカギとなるようだ。

 さらに、今年は3月のオランダ総選挙を皮切りに、4~5月フランス大統領選挙、6月フランス議会選挙、イタリア総選挙、9月ドイツ連邦議会選挙がある。つまり、欧州は選挙イヤーなのだ。昨年、英国がEU離脱を国民投票で決め、排外主義の傾向が色濃くなっていきそうな欧州各国だけに、その動向を見極め、外交のかじ取りを慎重に行わなくてはならない。

本気度が問われる働き方改革の実行

 加えて、国内経済でカギを握るのが、働き方改革の一環として掲げている長時間労働の見直しだ。労働基準法の一部改正により、残業時間は「年間で月平均60時間まで」を上限とする法案を提出する予定なのだ。

 ところが、野党からは反発の声も聞こえてくる。

 「政府案は、〈繁忙期は100時間まで認める〉とか〈2カ月連続で80時間までなら認める〉とした例外規定が盛り込まれている。これは抜け道でしかなく、働き方改革とは言えない」(民進党中堅衆院議員)

 以前、安倍首相は、クビ切り自由化、残業代ゼロの「ホワイトカラーエグゼンプション制度」と呼ばれる裁量労働制の拡大を目指してきた。それがとん挫した形となり、一転して残業規制に乗り出してきたのだから、野党は慎重に法案を吟味していく姿勢なのだという。

 働き方についてはこれまで、掛け声ばかりで何も進まなかった。ネット環境が整備され、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィスの略)が話題になり、起業した個人経営者は活用しているものの、企業内で自宅勤務の領域を広げるといったことはなかなか難しかった。政治も民間のことに口を挟むことを良しとしなかった部分もある。

 しかし、安倍政権は2%の経済成長を掲げたにもかかわらず、その実効性は見いだせていない。労働者側の働き方を見直し、企業の内部留保を吐き出させる方向に向かわせなければ何も変わらないと分かったからだ。

 低成長時代に、どのようにカネを回していくのか。都合のいい数字だけを見せて、うまくいっていると言えた時期はもう過ぎた。それは安倍首相が一番分かっていることで、国民が納得する働き方改革の実行が望まれている。

 かつて小泉純一郎元首相が「坂には上り坂、下り坂、“まさか”がある」と語ったが、この状況下では「すぐさま解散なんて、ムリな話」(別の自民党関係者)なのだろう。本腰を据えた議論が望まれている。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る