マネジメント

 スポーツ産業の活性化を考える上で、食や地域と結び付けるスポーツツーリズムへの期待は高い。ホノルルマラソンは30年以上続くアウトバウンド型の成功例だが、昨今の訪日外国人客を取り込むインバウンド型のスポーツツーリズムも生まれている。ベトナム選手の獲得をきっかけに新たな取り組みを始めたJリーグ・水戸ホーリーホックの黄川田賢司氏に話を聞いた。

ベトナムのメッシにチャーター機も就航

20170307MITO_P01

 2016年10月16日、水戸ホーリーホックの本拠地ケーズデンキスタジアムで、水戸ホーリーホック対横浜FCの試合が行われた。記録の上では、J2リーグ戦の1つの試合でしかないのだが、スタジアムにはいつもと違い、多くのベトナム人の姿が目に付いた。

 「茨城×ベトナム親善交流マッチデー」と銘打たれたこの試合には、日本在住のベトナム人に加え、ベトナムからこの試合を観戦するために観光で訪れたお客さん、合わせて約400人がスタンドに陣取っていた。彼らのお目当ては「ベトナムのメッシ」と呼ばれるグェン・コン・フォン選手。本国ではフェイスブックのフォロワーが170万人もいる国民的スター選手で、ベトナムサッカー期待のホープだ。一方、対戦相手の横浜FCにも、ベトナムのピルロと呼ばれるグェン・トゥアン・アイン選手がいた。ホーリーホックもこの日のためにチームカラーの青ではなくベトナム国旗をイメージした赤い限定ユニフォームを着用するなど盛り上げたが、残念ながらトゥアン・アイン選手はけがのため出場できず、ベトナムダービーの実現はならなかった。しかし、地域クラブが日本を飛び出し、海外という新たな市場に手を伸ばした記念すべき日だといえる。

 もともと茨城県はベトナムとの関係が深く、農業技術や医療、介護の支援を行うなど、密接な関わりがあった。そうした背景も加わり、「獲得したコン・フォン選手の人気をマーケティングにいかせないか」(国際事業企画マネージャー・黄川田賢司氏)と、いうことで新たな取り組みが始まったのだという。黄川田氏は、まず日本とベトナムの間を定期就航するベトナム航空に話を持ちこみ、16年シーズンには、ユニフォームのスポンサー契約を結んでいる。さらに、このマッチデーに合わせ、茨城県や地元企業の茨城交通などと協力し、観戦ツアーを企画。ベトナム航空のチャーター機を茨城空港に迎えた。「お陰さまでチャーター機も満席になり、搭乗者の内の半数近くが試合も見に来てくれました。試合後には、フォトセッションや、コン・フォン選手との食事会も企画し、来られたお客さんにも喜んでもらえたんじゃないでしょうか」(同氏)。ただ、ホーリーホックにとってこの事業はきっかけにすぎない。

地域クラブだからできること

 「このようなスター選手ありきのモデルだと選手次第ということになり、お客さんを呼べる選手がいなければ何もできないわけです」と、黄川田氏。

 そうしたことから、スター選手に依存しない新たな取り組みを始めようとしている。そのひとつが、茨城県がベトナムで進める農業と医療介護支援にホーリーホックも旗振り役として加わろうというのものだ。例えば農業支援であれば、スマートアグリなど日本の最新技術をベトナムへ持ち込み、広めるといった役割。既に、農業分野で優れたIT技術を持つ企業はあるものの、受け入れ先であるベトナムの地方にパイプがないために、うまくいかないケースがある。そういった時に、大学や県と連携協定を結び、ベトナムにもパイプを持つ地元のサッカークラブがあれば、企業も安心して任せることができる。

 その拠点となるクラブハウスも来年度、水戸の近郊にある城里町に完成予定。行政と共同で使う中学校の廃校を活用したクラブハウスには、サッカークラブとしての機能はもちろん、ベトナムとの関係をより強化する拠点として農業や医療介護の研修も行えるようにし、サッカーでも、コン・フォン選手を目指すベトナムのユース年代の子どもたちを受け入れる施設にしたいと考えている。

 これまでプロスポーツクラブといえど興行など、日々の仕事に追われるばかりであったが、SHC(スポーツヒューマンキャピタル)の卒業生のように、プロスポーツクラブにもよりビジネスの視点を持った人材が加わってきている。黄川田氏もそのひとりだ。

 同氏は言う。「水戸のポテンシャルは非常に高いと思います。練習場もクラブハウスもようやく整うこれからのクラブです。そのクラブでサッカーに限らない新たな事業を生み出すことが本当の意味での地域のためになることではないでしょうか」。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る