政治・経済

メキシコシティへの新規路線就航やベトナム航空への出資など、積極的な展開を図るANAホールディングスがまた動いた。フルサービスキャリアの全日空の社長交代を発表し、LCCのピーチ・アビエーションを子会社化する。国際線を軸に成長を図る両社をいかに舵取りしていくのか。文=本誌/古賀寛明

LCC事業、成功のカギは非常識の維持

20170321_ANA_P01

篠辺修社長(左)と、4月1日付で社長に就任する平子裕志取締役執行役員

 2月24日、ANAホールディングス(以下、ANAHD)は、39%の株式を持つピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)の株式出資比率を67%まで引き上げると発表した。33%を保有する香港のファースト・イースタンアビエーションホールディングス、28%の株式保有の産業革新機構からそれぞれ約半分の株式を、総額約304億円で買い取り、子会社化する。

 就航5周年目を迎えるピーチは、機内食に「ウナギ味のナマズ」や「お好み焼き」、機内販売ではフォルクスワーゲンのビートルを売るなど、常識にとらわれない取り組みとフレンドリーなサービスで若い女性を中心に人気が高い。一方で、チェックイン機の外枠を段ボール製にするなど、コスト感覚にも敏感だ。その結果、経営の面からみても優等生といえる存在で、日系LCCの中ではいち早く黒字化を果たし、2016年3月期の決算では27億円の純利益を出しており、累損も一掃した。

 好調の要因として関西、成田に続き、那覇空港を第3の拠点にしたことで、国内客には沖縄を身近にし、台湾の乗客など海外需要もうまく取り込んだ。ピーチの井上慎一社長も以前、「美容院で髪を切るために沖縄に来る台湾の若い女性もいる」と述べているとおり、まるでバス。15年度の平均搭乗率86.7%がそれを物語る。

 昨年には関西、成田から上海を結び、この2月からは、那覇とタイのバンコクを結ぶ路線を開設。また、今夏には仙台、翌18年には新千歳を拠点化する意向を示しており、地方活性化の新たなエンジンとしても期待されている。

 ピーチの子会社化は、ANAHDにとっては収益力を強化することになるが、それ以上に収益力の源泉である豊富なアイデアと勢いを取り込むことが魅力であろう。一方、ピーチにとっても機材や燃油などを共同で購入できるため、経営は安定する。

 ただ、懸念されるのはピーチの競争力の源泉である発想力やフルサービスキャリアに負けないといった気概が、失われないかということ。ホールディングスの片野坂真哉社長は「独自性は担保する」と明言しているが、もし、ピーチのユニークさが失われることがあれば、どちらにとっても良くない。

 また、ピーチの子会社化は、100%子会社であるLCC、バニラエアの存在も浮かび上げる。現在、バニラエアも黒字化を果たしてはいるが、まだ単年でのこと。しばらくは競わせていく方針のようだが、経営統合など一本化もそう遠くはないのではないだろうか。

 というのもLCCの世界では合従連衡が始まっており、従来4時間圏内といわれていたLCCの世界も長距離路線が増えている。最近ではエアアジアXが、関空とハワイを6月末から結ぶと発表するなど、北東アジアにも競争激化の波が押し寄せる。国際線を軸に成長を図るANAHDにとって、ピーチの子会社化は、群雄割拠のLCC分野で豊富なアイデアという武器を手に入れたということ。これをうまく生かせるかどうかが、グループの未来にもつながってくるはずだ。

新社長の堅実さで就航先を収益源に

 一方、フルサービスキャリアの全日本空輸(以下、全日空)でも、ピーチの子会社化発表からさかのぼること8日前、社長交代が発表されている。4月1日付で社長に就任する平子裕志取締役執行役員は、大分県出身の59歳。東京大学経済学部を卒業後、全日空に入社。レベニューマネジメント部長や企画部長、ニューヨーク支店長などを経験し、直近ではホールディングスの財務・IRを管掌しCFOを務めていた。なお、5年間社長を務めてきた篠辺修社長はANAHDの副会長に就任する。

 社長就任にあたっては、「国際経験の豊かさと、堅実な人柄」(篠辺氏)が、平子氏を選んだ理由のようだが、もうひとつ首都圏の空港発着枠の拡大が、少なくとも19年度まではないということも、このタイミングになった理由のひとつ。

 平子氏に課せられるミッションは、ブリュッセルやプノンペン、メキシコシティなど、ここ数年で開設してきた多くの路線を収益の上がる路線に育てていくことであり、そのために世界での全日空の知名度を上げていくことだ。また社内に向けては、小さなトラブルが多発していることもあり「現場力を徹底する」ことで、安全性という原点に立ち戻ることを表明している。

 今後、日本国内の人口減少で国内線事業の大幅な成長は見込めない。一方、トランプ政権のようなリスクはあるもののインバウンドの増加など、国際線事業にはまだまだ成長の余地がある。

 ただ、競争は激しさを増している。ライバル日本航空は今年度末で制限されていた新規の投資や路線開設といた制約が解かれ、独自路線を貫いていた中東勢も欧州の航空会社とアライアンスを組むなど戦略を変えてきている。

 ピーチの常識外れのアイデアを取り込み、平子新社長の堅実さを上手く収益に結び付けられるのか、ANAHDは世界での戦いに向けて、新たな体制で臨もうとしている。

 

【ANAホールディングス】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る