政治・経済

ゴルフコースなど競技施設の見直しが物議を醸している東京オリンピックだが、過去の決定過程のずさんさを露わにすることで、政局の道具になっている印象すら受ける。さらにオリンピック施設に関連しては、経済損失を引き起こしかねない問題が浮上している。文=本誌/村田晋一郎

20カ月にわたり展示会場の利用が制限

20170321_TENJI_P01 日本展示会協会(日展協)は1月、小池百合子・東京都知事宛に8万通の請願署名を提出した。請願は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、東京国際展示場(東京ビッグサイト)がメディア施設として使用されることを受けたもの。例年ビッグサイトで開催している多くの展示会が中止を余儀なくされる可能性があることから、代替の仮設展示場を首都圏に建設もしくは、メディア施設をビッグサイト以外の場所に新設することを求めている。

 東京ビッグサイトは東展示場1~8ホール、西展示場1~4ホールから成り、総面積は約9万6千平米で日本最大の展示会場だ。全フロアを使う展示会は、東京モーターショーやコミックマーケットなどわずかだが、約2万平米規模の展示会が4つ同時に開催されるなど、施設全体の稼働率は高い。

 東京オリンピック・パラリンピックでは、東京ビッグサイトを国際放送センター(IBC)およびメーンメディアセンター(MPC)として使用する予定。オリンピックで既存施設の利用に制限が生じるのは、ほかの施設でも起こることだが、ビッグサイトで問題なのは、制限が広範かつ長期間に及ぶことだ。

 オリンピック施設は、メーンスタジアムなどの大型競技場が注目されがちだが、実は最もスペースをとるのは、IBCやMPCである。先のリオオリンピックでは、IBCが約8万5千平米、MPCが約2万7千平米の施設だった。しかもプレ大会を開催するため、IBCは1年前から稼働する。

 このため、IBCやMPCの準備工事、利用、撤去の期間を含め、19年4月から20年11月までの20カ月間、ビッグサイトの利用が制限される。具体的には、IBCとして利用する東1~8ホールが19年4月から20年11月まで使えず、MPCとして利用する西1~4ホールと建設予定の西拡張棟も20年4月から10月まで使えなくなる。つまり20年4~10月の7カ月は全く利用できない状況となる。

 代替処置として、東京都は近隣の東京テレポート駅付近に約2万3千平米の仮設展示場の建設を検討しているが、利用は19年度に限られ、オリンピック開催前の20年4月に撤去される。

 例年ビッグサイトで開催している展示会は規模を縮小するか、別会場で開催することになる。別会場と言っても、首都圏の大型の展示会場は幕張メッセやパシフィコ横浜などに限られ、すべては代替できない。ある業界団体は、毎年開催している展示会について既に2年後の代替会場を検討・確保しているという。しかし代替会場が確保できない展示会は、2年にわたり開催中止ということになりかねない。

 日展協によると、展示会の開催規模縮小もしくは中止で、例年ビッグサイトに出展している5万社のうち、3万8千社が出展できなくなり、約1兆2千億円の売り上げを失うという。

曖昧な経緯で決まったビッグサイトの活用

 広大なスペースを要する機能を恒常的に稼働している既存施設で担おうとしたことに無理があり、既存の経済活動に支障が出るのは当然だ。リオでも、その前のロンドンや北京でもメディア施設は仮設施設を新築し、終了後に展示会場などに転用する方式をとっていた。

 そもそもなぜビッグサイトなのか。話は16年のオリンピック誘致にさかのぼる。08年に招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した「申請ファイル」では、築地市場を移転した跡地にメディア施設を建設する構想だった。その後、豊洲の土壌汚染が問題視され、移転計画が遅れたことから、当時の石原慎太郎・東京都知事が築地跡地の利用を断念。09年に提出した「立候補ファイル」では、メディア施設をビッグサイトに設置する計画に変わった。この時のビッグサイトへの変更は、議会で議論されたわけでもなく、利害関係者にヒアリングすることもなく決まったものだという。結局、16年誘致には失敗したが、そのままの流れで20年誘致の立候補でもビッグサイトを利用する計画となった。

 東京都がビッグサイトの利用計画を公表したのは15年10月。それと前後して日展協は陳情を行ってきた。今回の小池都知事への請願署名は危機感の表れだが、東京都や組織委員会の対応を待っているだけでは、物事が好転するとは思えない。ほかの競技施設の問題と同様に計画のずさんさが招いた事態だけに、現在懸案の豊洲市場移転問題や競技施設選定のように格好の政局の道具に使われる可能性があり、話題には上っても事態は進まない状況に陥る危惧がある。

 日展協は、100億円の資金と用地と2年の時間があれば、代替の仮設施設の建設は可能としている。しかし、ビッグサイトの利用が制限される19年4月から逆算すると、現在は既に工事に入っていてもおかしくない時期だ。もう時間はない。タイムリミットは迫っている。

 日展協が展示会の開催規模を維持したいなら、行政に頼らず、今すぐ業界を挙げて用地を取得し、代替施設の建設に着手すべきだろう。それができないならば、規模を縮小した形で最善の開催を目指すしかない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

会員制ホテルなどを展開するリゾートトラストは4月1日付でトップが交代し、創業者の1人である伊藤與朗会長は代表取締役ファウンダーグループCEOに就いた。共同創業者の伊藤勝康社長は代表取締役会長CEOとなった。伏見有貴副社長は代表取締役社長COOとなり、創業45年で初めて代表取締役3人体制となった。聞き手=榎本正…

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る