経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「地域振興に結び付けてこそカジノ解禁の意味がある」木曽 崇(国際カジノ研究所所長)

実施法案では十分な審議を

木曽崇氏

―― 昨年12月にIR推進法案が成立しました。

木曽 正直に言うと遅きに失したところがあります。私がカジノの調査・研究を行うようになってから15年がたちますが、その間、シンガポールに大型IRが誕生したほか、アジア各国にカジノが誕生するなどベストなタイミングを外してしまいました。ただ2020年の東京オリンピック後の観光振興策としては意味があると考えています。

―― 今後は年内にもIR実施法案が提出され、議論が始まります。推進法案が最初に提出されたのは13年でしたが、廃案、提出を繰り返し、4年目にしてようやく成立しました。実施法案も同じような目に合わないですか。

木曽 推進法案は議員立法でしたが、実施法案は内閣が提出します。つまり与党である自民党、公明党による可決を前提に提出されます。ですから成立することは間違いない。ただし、推進法案はわずか2週間でほとんど審議もすることなく成立しました。実施法案ではそうはいきません。カジノにはどのような問題があり、それを解決するためにどのような方策があるのかということを含め、しっかりと審議していただきたい。

―― 反対派が必ず言うのが、ギャンブル依存症の人が増えるということです。

木曽 残念ながらギャンブル依存症をゼロにすることはできません。カジノには、依存症だけでなく、反社をどう排除するかといった問題もあります。でもこうした問題は、海外のカジノでもさまざまな取り組みがなされています。日本はそうした中から、ベストな制度設計をすることでデメリットを最小化できる。その一方で経済効果を中心にメリットを最大化する。その2つを比較して、社会にとってプラスかマイナスかで判断すべきです。一人でも依存症患者が出たら駄目という考え方ではいけません。

ハードル高い地方議会の同意

―― 実施法案が成立すると、次は自治体の選定が始まります。IRを誘致したいと考えている地域は数多くありますが、どういうところが選ばれるのでしょう。

木曽 政府はIRの目的を、観光の振興、地域経済の振興、財政への貢献、の3つとしています。ですからその地域の政策をIR法案の目的に合致させた上で、どれだけ魅力的なものを出せるかが鍵になります。

もうひとつ重要なのは、推進法案の付帯決議に、「地方議会の同意を要件とすること」との一文が入ったことです。このハードルは結構高い。IRに関心を示している自治体は数多くありますが、実際に都道府県が予算を計上し、調査・検討などのアクションを起こしているのは北海道、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、和歌山県、長崎県の7都道府県にすぎず、他の府県はこれまでのところ明確なコミットメントは出していません。しかも、その7都道府県にしても、IRを建設する場所の市(区)議会の同意を取れるとは限りません。

横浜市と大阪市は、ともにIR誘致の有力候補です。大阪の場合、橋下徹知事の時代からIRに強い関心を示していました。ところが、府議会は維新の会が過半数の議席を持っているため同意は間違いなくても、市議会では維新の会は過半に届いていないため、他の政党を組み入れなければいけません。横浜市も、市議会の勢力を見ると賛成派は過半にいたりません。東京都にしても、小池知事は国会議員時代、IR議連に属していましたが、都として推進するかどうかはこれからというスタンスです。日本に誕生するIRは、当初2、3カ所、最大で10カ所です。でも議会の同意を得ることが条件となると、手を挙げるところが2、3カ所にさえ届かないということにもなりかねない。

―― もう一つの懸念は、IR誕生後、本当に人が来るのかどうか。アジアには多数のカジノがあります。その競争にどうすれば勝てるのでしょうか。

木曽 重要なのは、観光客の数より消費額をいかに増やすかだと思います。カジノがあることで観光客を呼び込み、より多くのお金を落としてもらう。カジノ以外のところでの消費が増えなければ意味がありません。そのためには、カジノと地域の資源をどう連携するかが重要です。世界のIRを見ても、それがきちんとできているところはうまくいっています。逆に、客がカジノにしかお金を落とさないとなると、カジノは儲かるかもしれませんが地域振興にはつながらない。それではIRを建設する目的にも合致しません。いかにカジノ以外の魅力を提供できるかによって、日本のIRが成功するかどうかが決まります。

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