政治・経済

2019年までに農水産物や食品の輸出を1兆円まで伸ばすことを目指す政府。12年からトントン拍子で伸びてきたが、ここにきて伸び悩んでいる。16年は昨年比0.7%増の7503億円。果たして、19年の1兆円達成はできるのであろうか。文=本誌/古賀寛明

金額は伸び悩む最大の理由は為替

20161018nouchi 地方活性化の切り札とされる海外インバウンド客は、昨年2400万人を超えた。これまで東京と京都・大阪を結ぶゴールデンルート上の大都市か一部の地方都市にばかり訪日観光客が集中していたものが、飛騨高山や熊野古道といった場所が人気のスポットになるなど全国に広がり、観光産業は順調な成長を見せている。一方、もうひとつの地方活性化の柱として期待されていた農業は、農協改革など変革の声は聞こえてくるものの抜本的な改革には踏み込めず、TPPの頓挫もあり戦略の練り直しが必要な状況だ。その農業分野の中で、インバウンド観光との関係も深い農水産物や食品の輸出に限っては、これまで順調に伸びてきていた。

 冬の北海道や北陸では多くの外国人観光客がカニを買って帰っている、日本で食べたイチゴの甘さに感激し、帰国後も日本のイチゴを買っているといったうれしい話を聞くことも多い。輸出全体に占める観光客の消費額などは、微々たるものではあるが、今後の成長を感じさせる象徴的な動きである。

 政府と農水省は2019年までに農水産物の海外輸出を1兆円にまで増やす目標を掲げている。実際、東日本大震災の翌年、12年の輸出額は4497億円であったが、14年には6117億円、翌15年には7451億円と、3年連続で伸びていた。そのことで、従来20年までに1兆円を目指すと言っていた目標を1年前倒しするほどだった。

 ところが、16年の輸出額は7503億円(速報値)。4年連続での最高額達成とはいえ、伸び率はわずか0.7%。これでは、1兆円達成に黄信号がともったと言われても仕方がない。

 金額の伸びが鈍化した一番の理由が為替。アルコール飲料や加工食品を中心に円高によって収入が減少してしまった。輸出の難しさは為替に加え、農水産物などは天候なども関係するところにある。不作や不漁でも困るが、豊作や大漁でも値崩れしてしまう。

 しかし、トータルの金額は伸び悩んだものの数量ベースで見れば伸びている品目は多い。例えば、アルコール飲料は、金額では10.2%の伸びにとどまっているが、数量は13.2%も伸びている。豚肉も金額では4.6%の伸びにすぎないが、数量に関して言えば10.8%の伸びを示している。山本有二農水大臣も定例会見で、「鉱工業製品も含めたわが国輸出総額がマイナス7.4%の中でのプラスは画期的」と農水産物や食品の輸出の成果を強調する。しかし、19年の1兆円達成の自信を問われると歯切れが悪い。

 数量ベースでいくら伸びたとしても、金額が伸びなければ利益も増えないということであり、極端な話、それでは未来はない。しかし、数量減少でも金額が伸びている優良品目もある。

日本食の飲食店増加が輸出増大のカギ

 例えば緑茶。数量は減少したが金額は101億円から、115億円にまで増えた。その要因として、高単価で取引される抹茶の需要が欧米を含めた市場で広がっていることが挙げられる。EUには厳しい残留農薬基準があるが、それをクリアするなど、取り組みの成果でもある。また、アルコール飲料の中でも日本酒に限って言えば、対前年比で11.2%増の155億円と拡大した。ほかにも、ブドウ、イチゴはそれぞれ金額ベースで50%、35%の伸びを示している。もっとも、伸び率に関して言えば出荷量が少ないことで、少し伸びただけでも跳ね上がってしまうといえなくもない。

 海外50カ国に日本食を輸出する酒類・食品卸の国分グループ本社の媚山活也貿易事業部長によれば、「為替の関係で伸びが止まっているように見えるが、日本食のマーケットは確実に広がっている」という。媚山氏によれば、日本食の拡大は日本食レストランの増加に比例する。実際に、農水省の資料をみると、06年に約2.4万軒だった日本食レストランは、15年には8.9万軒にまで増えている。それが、そのまま輸出量の拡大につながっているのだ。

 また、日本食の広がりは料理に合う酒、つまり日本酒の伸びを呼び込むという。そういった観点でいえば、7年連続で増えている日本酒は輸出拡大の順調さを物語る。

 ただ、このまま19年に1兆円の大台に到達できるかどうかといえば、正直難しいところだ。最大の問題は、福島第一原発の放射能の影響。中国ではいまだ福島や東京、埼玉といった1都9県産の食品輸入を全面停止しており、台湾や韓国もさまざまな規制を設けている。鮮度が物を言う食品も多いだけに、距離が近く、輸出しやすい近隣諸国の輸入停止は痛い。しかし逆を言えば、状況が改善されるだけで1兆円突破は堅いともいえる。

 もちろん、ほかにも輸送コストやブランド力の強化などやらねばならぬことはたくさんある。とはいえ、食品産業の国内生産額は81兆円(13年)もあり、政府も後押しに力を入れる。そう考えれば、輸出額1兆円は達成しなければならない数字といえるのではないだろうか。

 

【農協改革】関連記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る