政治・経済

グローバル化はヒト、モノ、カネの垣根を取り払ったというが、日本に限れば「人材」はまだまだだ。海外事業所への異動はともかく、研修の参加ですら嫌がる若手社員も多いという。克服のカギはどこにあるのか、人気の研修を訪ねた。 (本誌/古賀寛明)

海外勤務を嫌がる若手社員に勧めたい人材研修

 「私の自己紹介文をベトナム語に翻訳してください」

 たどたどしい英語で現地の人に話し掛けていく。ベトナムでは英語を理解する人も限られるため、相当数の人に話し掛けなければならない。既に何人に話し掛けた分からなくなった頃、ついに英語を理解できる人に遭遇、質問者にも安堵の表情が見える。

 初めてやってきたホーチミンの街中で走り回り、現地の人に話し掛ける。これが海外人材育成研修の中で、人気の「ミッションコンプリート」研修の初日の様子だ。

 現在、人材研修の中でグローバル人材を求める声が多いという。それもここ3、4年ほどのことだそうだ。日本の企業が生産拠点を海外に移す話も今では珍しくない。今さら、グローバル化と思うかもしれないが、発展著しい東南アジア諸国を中心に中産階級が発達、近年はマーケットとしての魅力が増しているのだ。つまり、工場であれば生産管理部門だけで十分だが、直接商売するとなれば、現地で暮らし、彼らと直接対面する機会も増える。日本にいても電話やメールでの業務連絡で海外に触れる機会は多くなるというわけだ。

 ところが現状は、海外勤務を敬遠する人が多いどころか、海外研修に参加すると、海外転勤を引き寄せると難色を示す人も多いのだという。さらに、驚くことに若手社員にその傾向が強いといわれている。

 しかし、企業としては喫緊の課題であり、語学研修を導入したはいいが、むしろ余計に英語嫌いになったという笑えない話まである。将来の幹部候補を派遣する留学についても、海外留学では700万~800万円、MBA取得ならば2千万円ほど掛かり、費用の面でも期間の面でも一般研修としては現実的な選択肢ではない。

 では、この「ミッションコンプリート」が選ばれる理由について、主催するJIN-G代表取締役の三城雄児氏に聞くと、「一言で言うと、ビジネス成果の追求型がほかになかったからだと思います。実践的なビジネス疑似体験で、自分に課せられたミッション(仕事)を最後には楽しんで遂行する。これで参加者に自信が生まれるからではないでしょうか」と語る。

 また三城氏は「成果は意欲的に取り組んでもらわなければ出ない」だけに、プログラムの設計にも気を配る。

 例えば、「ホーチミンでベトナム人をキャスティングし、ベトナム人に自社並びに自社の製品やサービスをPRするCMを制作する」という最終ミッションを必ず初日に伝えるそうだ。

 すると、参加者は「そんなこと、絶対に無理」だと思うのだが、最終的にはその実現不可能なミッションをクリアすることで、自分自身のマインドを変える。

 その間には、頑張れば達成可能な課題を与え続ける。参加者の中での選択肢は2つ。「挑戦する」か「逃げる」かしかない。その葛藤を乗り越え、クリアするたびに自信がつく。2、3回課題をクリアすると意欲的になるそうだ。ちなみに、課題は必ず現地の人の協力がなければ達成できないようになっている。さらに、必ずチーム制にするそうだ。2、3人で取り組むと日本人の特徴で、まわりの人に迷惑は掛けられないと、性格的に後ろ向きな人でも、逃げずに前向きに努力するとのこと。

 このプログラムが始まって1年余り、既に大手企業ばかり23社、100人超の参加者がいる。参加者の9割が海外志向になるといった実績などで、定例の研修として導入を決めた企業もあり、来年以降もベトナムを中心に、シンガポール、タイで行う予定。インドでも可能だがタフすぎる研修になってしまうといって導入に踏み切れない企業が多いとのこと。費用は5日間で、1人50万円ほど。

グローバル化=語学ではないと気付く人材研修

 楽天やユニクロの英語公用化が話題になったが、既にブリヂストンをはじめメーカーなど他の企業も追随する。英語公用化と言わないまでも日本企業の多くが外国人の採用を活発化し始めている。

 日系企業の海外進出も復調してきており、2000年代初めと同じ年間1千件を超える。

 変わった点といえば、以前は中国一辺倒だったが、今ではアセアン諸国が増えてきている。既に、アセアン諸国合計が、全体の3割を超え、中国を抜いている。中でもインドネシアの人気が高いそうだ。

 グローバル化の是非を問う以前に、避けられない状況であるようだ。

 その中で、この研修から分かることは、グローバル人材とは英語を流暢に操る人ではないということだ。

 海外に出ると分かることだが、ブロークンの英語を操る人が語学に堪能な人よりも活躍しているケースは珍しくない。言葉よりも表情や気づかい、ビジネスマナーなど、人と人とのコミュニケーション能力が重要で、それを駆使して日本と同じように仕事をすることこそが、人材のグローバル化だ。

 日本人は、海外に出ると途端に上がったり、おとなしくなったりしてしまい、実力が十分にあってもそれを発揮することが難しい。今回の研修もたった5日間ではあるが、ミッションを遂行することで「自分でもやれる」というマインドに変える。ここが大事なのだという。

 気持ちをニュートラルな状態にするだけで、気負いがなくなるのはもちろん、自分の課題である部分、例えば語学やマナーなどを自分自身で学び直そうとするそうだ。そして何より、海外でもビジネスが可能だと思えば、今までただの異国に見えていた地が、新たな市場に変わっている。

 「グローバル化」なんて言葉は、数年後なくなっているのかもしれない。

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