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デアゴスティーニが消費者に刺さる理由―村野 一(デアゴスティーニ・ジャパン社長)

出版物の販売部数が右肩下がりとなる中、その景況にあまり左右されない動きを見せているのがデアゴスティーニだ。パートワーク(分冊百科)という独自のジャンルを日本でも定着させ、出版業界の活性化に一役買っている。

取材協力者プロフィール

村野一

村野一(むらの・はじめ)1962年生まれ、東京都出身。85年横浜国立大学経済学部卒業後、ソニー入社。ソニーハンガリー社長、ソニーメキシコ社長、グローバルセールス&マーケティング本部部門長を歴任。2012年リコー顧問、リコーイメージング常務執行役員を経て、15年デアゴスティーニ・ジャパン入社、同年6月社長に就任、現在に至る。

1つのテーマを長期間、リーズナブルに楽しめる

パートワーク(分冊百科)とは、特定分野の深く掘り下げた知識を週刊もしくは隔週刊形式で少しずつ紹介していく「楽習」方法である。雑誌だけでなく、パーツが付属し模型などが完成する組み立てシリーズや、毎号1つCDやDVDソフト、ミニチュアモデルなどが付属しコレクションできるシリーズもある。

組み立てシリーズでは1年以上に分けて組み立てることになるが、全号揃えると10万円以上の高額製品が多いため、週刊に分割することで買いやすくなる。また、現在は余暇の時間が限られる人が多く、毎日少しずつ楽しめる形も時流に合っている側面があり、なおかつ完成までに長期間楽しめるメリットがある。

このパートワークのフォーマットを確立したのがデアゴスティーニだ。同社は1901年にイタリアで創業し、日本には80年代にパートワークを持ち込んだ。現在までいくつかのヒットタイトルを生み出し、パートワークを根付かせている。

パートワークの雑誌は基本的に1つのテーマを深く掘り下げることになるため、テーマ選びが何よりも重要となる。ワンテーマなので絞り込む。広く浅いテーマよりは、狭く深いテーマのほうが人にささり、継続率の高い読者が付きやすい。その一方で、継続して購読してもらうためには、創刊号を手に取った時点で全号そろえた最後の姿が予見できることも重要となる。

最近の代表的なヒットタイトルは、コミュニケーションロボット「ロビ」を組み立てる『週刊「ロビ」』。全70号で、ロビの完成まで約70週を要したが、好評を博し第3版まで刊行された。

また、デアゴスティーニで特徴的なのはテレビCMだ。出版社のCMがテレビで流れることは少ないが、同社は創刊号に合わせて積極的にテレビCMを打つ。また、雑誌のテーマが絞られているため、対象としている層には響く内容のCMになっており、興味を持った人が書店に足を運ぶ動機になる。また、総額十数万円となるため、書店も定期購読を勧めており、売り場の活性化にもつながっている。

注目を集める仕掛けを機動的に展開

デアゴスティーニ・ジャパンは近年、年間約10タイトルの製品を出しているが、業界動向に関係なく、ロビのようなヒットタイトルが出た年は業績を大きく押し上げる。今後はタイトル数を増やすと同時に、ヒットタイトルの創出にこだわる。

ヒットタイトルを生むためには、製品が魅力的なことはもちろんだ。さらに情報があふれている中で、いかに読者に興味を持ってもらい、書店で手に取ってもらうかが重要となる。「そのために雑誌でもいろんなプラスアルファのことが機動的にできる」とデアゴスティーニ・ジャパンの村野一社長は語る。

一つの試みが、今年1月5日に創刊した『週刊「日本の城 改訂版」』だ。きっかけは昨年夏、村野社長が義援金を持って震災の慰労のため熊本を訪問したこと。書店からは「普通に商売がしたいから商品を持ってきてほしい」という声が挙がった。また、避難された方々からは「震災前の熊本城の姿を見て元気を出したい」という話も聞いたという。

そこで、2013年に創刊した『週刊「日本の城」』を再編し、創刊号に熊本城を持ってきて商品化した。創刊号の特別定価299円のうち100円、第2号以降の収益金の一部を熊本城の復興支援に寄付する形をとっている。今回の場合は城について深く知るという本来の雑誌の目的に加え、さらにプラスアルファとして熊本城を一緒に直そうということを明確に打ち出した。これを機会に城を勉強しようという読者も増え、第2号以降の継続率も非常に高いという。

「今回の日本の城シリーズは、雑誌ものとしては、非常にタイムリーで、かつお客さまの目にとまり、手にとっていただけたのかなと思います」と村野社長は手応えを感じている。

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