マネジメント

紙の出版物の部数減と歩調を合わせるようにネット書店に押され、リアル書店の規模縮小・閉店が続いている。そんな中、国内外で紀伊國屋書店は新規出店のペースを上げ、紙文化の発信力を高めている。

 

高井昌史・紀伊國屋書店会長兼社長プロフィール

高井昌史氏

(たかい・まさし)1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部卒業後、71年紀伊國屋書店入社。各地の営業所長などを経て、常務、専務、2008年に代表取締役社長就任。15年より代表取締役会長も兼務。出版健康保険組合理事長、出版文化産業振興財団常務理事、図書館振興財団理事などを務める。

 

文化の発信地として楽しい書店づくりを追求する紀伊国屋

 

 出版不況が叫ばれる中、書籍と雑誌を合わせた紙の出版物の売り上げは年率3%の水準で下がり続けている。紀伊國屋書店でもその影響は避けられないが、その下がり幅を抑える方策として、積極的な出店を行っている。

 2016年8月に大規模店舗の新宿南店を縮小したが、その売り上げをカバーしようと、この春だけで4店舗をオープンする。具体的には新規がエブリイ津高店(岡山市)、天神イムズ店(福岡市)、木場店(東京都江東区)の3店舗、さらに昨年の熊本地震の影響で長期休業していた熊本はません店(熊本市)をリニューアルオープンする。

 ネット全盛の時代になぜリアル書店を拡大するのか。高井昌史会長兼社長は次のように語る。

 「まず、そこに本屋がなくなったら困る人がいるということ。次に本屋には本屋ならではの魅力がある。ネットでピンポイントで本を買う人が多くなっているが、本屋で本との出会いを求める読者もいる。そのための場所を作っていかないといけない」

 また、紀伊國屋書店への期待もある。具体的には新宿本店を基点として形成された「紀伊國屋文化」と呼べるものだ。

 1964年の紀伊國屋ビル竣工時に新設した紀伊國屋ホールでは、数多くの演劇が上演され、「新劇の甲子園」との評価を受けている。また、新宿本店では作家のサイン会やトークショーなどを開催。もちろん店内には百数十万冊の書籍が並び、手にとれる。

 まさに「本好きの人々だけでなく、文化を大事にする人々にとっては最高の場所」(高井会長)となっている。本屋ならではの楽しみを重視し、読者がいて楽しいと思う店づくりを追求。こうした動きが紀伊國屋書店のブランドとして評価されている。

 今後も楽しい書店づくりを追求していくが、最近の独自展開として、日本茶カフェ「紀伊茶屋(きのちゃや)」がある。2015年12月に新宿本店で1号店をスタート。今年1月には2号店を大手町ビル店(東京都千代田区)に、3月には3号店を新潟店(新潟市)にオープンした。書店に併設したカフェが増えている中で、日本茶を楽しむスペースを設け、独特の体験を提供する。

 

「紙の文化復権」を信じる高井昌史氏

 

 紀伊國屋書店は現在、海外展開を積極的に進めている。出版不況の日本とは異なり、海外は紙文化が成長する可能性が高いためだ。現在、海外で30店舗を構えている。

 まず米国だけで10店舗以上展開。現在米国は人口が増え、知識人層も増えていることから本の売り上げは上がっているという。その意味で、出版文化は堅調で、そこを手堅く抑える。最近も昨年12月と今年2月にテキサス州で2店舗を出店した。

 また、東南アジアは民主化されたミャンマーをはじめ、国づくりで教育を充実させている。そこで積極的に書店を展開し、本の文化をつくるサポートを行い、教育の向上につなげていく。

 さらに日本文化の発信という意味では、人気サッカー漫画「キャプテン翼」のアラビア語訳を出版した。

 同社は中東ではドバイ店があるが、当地で一番人気があるアニメは「キャプテン翼」だという。「キャプテン翼」は複数の言語に翻訳されているものの、アラビア語の翻訳はなかった。そこで紀伊國屋書店がアラビア語訳を、中東および北アフリカのアラビア語圏で出版・販売することになった。第1巻を今年1月に発売し、今後、年4~5冊のペースで刊行していく。

 「中東は政情不安で疲弊している子どもが多い。そういう子どもたちが漫画を読んで楽しめる環境をつくりたい。われわれは平和活動ができるわけではないので、彼らのための本を作って送りたい」(高井会長)

 紙の文化が強い海外市場を攻める一方で、日本の紙文化の復活にも期待している。その入り口は教育だ。入試制度改革により、大学入試センター試験が見直され、マークシートによる選択式から、問題解決型の記述式へと移行する。つまり本を読んで、自分で考える力をつけないと解けない問題が増えてくる。中学受験では既にその傾向が強まっている。その意味で紙の出版物には追い風となる。

 「紙の文化が復権することを信じている。信じているからこそリアル書店を出している」と高井会長は意気込みを語る。

 

【高井昌史】氏関連記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る