国際

20世紀最高のスパイのゾルゲ、二重スパイのキム・フィルビー、スパイからベストセラー作家になったジョン・ル・カレ、ウィキリークス主宰者アサンジ、CIA内部文書を内部告発したスノーデンなど、「畸人」たちの生き様はインテリジェンスセンスを磨く最高のテキストだ。聞き手=本誌/榎本正義

「インテリジェンス」は国の命運をも左右する

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(てしま・りゅういち)1949年北海道生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。74年NHK入局、政治部記者として外務省、総理官邸、自民党を担当。ワシントン特派員、ボン特派員、ハーバード大学国際問題研究所上級研究員を経て、97年からワシントン支局長。2005年NHKを退職し、外交ジャーナリストとして独立。主な著書に『ニッポンFSXを撃て』『ウルトラダラー』などがある。

―― 副題に、インテリジェンス畸人伝、とありますが。

手嶋 「畸人」とは、「British eccentric」という言葉に置き換えられますが、栄光の老情報大国・英国が産んだ情報戦の戦士たちにその面影をみることができます。『寒い国から帰ってきたスパイ』などの傑作で知られるジョン・ル・カレが世に送り出したいぶし銀のようなスパイ・マスター、スマイリーもそのひとり。彼の原型は情報部の輝ける星ジョン・ビンガムです。世紀の二重スパイ、キム・フィルビーらスパイ群像も畸人の系譜に属しています。近頃の情報戦はサイバー世界に移ってしまい、告発サイト「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジや、CIAにいながら国家機密を漏らしたエドワード・スノーデンら“サイバー空間の叛逆者”が世を騒がしています。「インテリジェンス」も「インフォメーション」も「情報」と訳されますが、「インフォメーション」は膨大で雑多な一般情報にすぎません。しかし、インテリジェンスとは国家の舵取りを委ねられた者が国の命運を賭けて下す決断の拠り所になる、選り抜かれた情報をいいます。

―― トランプの誕生にプーチンの関与が言われ、金正男暗殺事件でスパイやインテリジェンスに注目が集まっています。

手嶋 世界の大富豪や独裁者が巨万の富をカリブ海の国などに隠していた実態を暴いた「パナマ文書」は、額に汗して働く庶民の怒りに火を点けました。アメリカでもプア・ホワイトの叛乱で共和党のトランプ陣営が勝利しました。ところが、皮肉にも不動産王トランプ氏こそ超富裕層です。一方で、ウィキリークスはヒラリーの国務長官時代のメールを暴露し、大統領選敗北の引き金になりました。アサンジは、人種差別発言を繰り返す暴言王に手を貸す意図などなかったはずです。これまた何という皮肉か。インテリジェンスの起爆力に戸惑っているのは、機密を漏らした当人でしょう。

インテリジェンスは企業にとっても重要

―― 本書では、第1章「パナマ文書」の紳士録から始まり、現代史を彩ったスパイたちの素顔を描き、最終章に「ウィキリークス」を取り上げています。

手嶋 世紀のスパイ、リハルト・ゾルゲ、華麗なる二重スパイ、キム・フィルビーなどは、世界を揺るがす超一級の情報をいかにして手に入れたのでしょう。相手の懐に深く入り込み、信頼を勝ち得て、質の高い情報を引き出したのです。結局は、スパイがどれほど人間としての魅力を備えているかに尽きる。本書に登場するスパイたちは皆、あふれんばかりの人間的魅力を秘めた人たちです。彼らは19世紀から20世紀にかけて活躍したのですが、現代への架け橋として「パナマ文書」と「ウィキリークス」を配してあります。

 今の若者は人に会うとき、条件反射のように検索サイトを叩きます。それでは皆同じ予備知識と先入観を持ってしまうことになる。真のインテリジェンスは、検索サイトからは得られない。第二次大戦での英独の情報戦、近くはアメリカの対イラク戦争でも、インテリジェンスは国の命運を左右しました。ブッシュ政権はイラクが核・生物化学兵器を隠し持っているという誤った情報を信じて開戦し、日本はそんなアメリカを真っ先に支持しました。日本は独自のインテリジェンスも情報要員も持っていなかったからです。

20170418TESHIMA_P02―― アメリカはインテリジェンス大国なのですか。

手嶋 いえ、アメリカは圧倒的な軍事力のゆえに、最後は武力で決着をつけることができます。それゆえインテリジェンス大国でなくてもいいのです。一方、イギリスやイスラエルなど中規模の国家はインテリジェンスなしには生き抜けません。日本も軍事力に頼れないため、インテリジェンスを武器にすべきなのですが、現実はお寒い状態です。

―― アメリカでは経営トップの右腕に、チーフ・インテリジェンス・オフィサーという仕事を務める人がいるそうですね。

手嶋 経営者が的確な決断を下せるよう、雑多な情報をインテリジェンスに高めるのがその責務です。アメリカの先進的な企業はみなそうですよ。日本でも優れた企業はインテリジェンス・サイクルが粛々と回っている。精緻な決断はインテリジェンスを武器にすることで、初めて可能です。

 
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