国際

20世紀最高のスパイのゾルゲ、二重スパイのキム・フィルビー、スパイからベストセラー作家になったジョン・ル・カレ、ウィキリークス主宰者アサンジ、CIA内部文書を内部告発したスノーデンなど、「畸人」たちの生き様はインテリジェンスセンスを磨く最高のテキストだ。聞き手=本誌/榎本正義

「インテリジェンス」は国の命運をも左右する

20170418TESHIMA_P01

(てしま・りゅういち)1949年北海道生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。74年NHK入局、政治部記者として外務省、総理官邸、自民党を担当。ワシントン特派員、ボン特派員、ハーバード大学国際問題研究所上級研究員を経て、97年からワシントン支局長。2005年NHKを退職し、外交ジャーナリストとして独立。主な著書に『ニッポンFSXを撃て』『ウルトラダラー』などがある。

―― 副題に、インテリジェンス畸人伝、とありますが。

手嶋 「畸人」とは、「British eccentric」という言葉に置き換えられますが、栄光の老情報大国・英国が産んだ情報戦の戦士たちにその面影をみることができます。『寒い国から帰ってきたスパイ』などの傑作で知られるジョン・ル・カレが世に送り出したいぶし銀のようなスパイ・マスター、スマイリーもそのひとり。彼の原型は情報部の輝ける星ジョン・ビンガムです。世紀の二重スパイ、キム・フィルビーらスパイ群像も畸人の系譜に属しています。近頃の情報戦はサイバー世界に移ってしまい、告発サイト「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジや、CIAにいながら国家機密を漏らしたエドワード・スノーデンら“サイバー空間の叛逆者”が世を騒がしています。「インテリジェンス」も「インフォメーション」も「情報」と訳されますが、「インフォメーション」は膨大で雑多な一般情報にすぎません。しかし、インテリジェンスとは国家の舵取りを委ねられた者が国の命運を賭けて下す決断の拠り所になる、選り抜かれた情報をいいます。

―― トランプの誕生にプーチンの関与が言われ、金正男暗殺事件でスパイやインテリジェンスに注目が集まっています。

手嶋 世界の大富豪や独裁者が巨万の富をカリブ海の国などに隠していた実態を暴いた「パナマ文書」は、額に汗して働く庶民の怒りに火を点けました。アメリカでもプア・ホワイトの叛乱で共和党のトランプ陣営が勝利しました。ところが、皮肉にも不動産王トランプ氏こそ超富裕層です。一方で、ウィキリークスはヒラリーの国務長官時代のメールを暴露し、大統領選敗北の引き金になりました。アサンジは、人種差別発言を繰り返す暴言王に手を貸す意図などなかったはずです。これまた何という皮肉か。インテリジェンスの起爆力に戸惑っているのは、機密を漏らした当人でしょう。

インテリジェンスは企業にとっても重要

―― 本書では、第1章「パナマ文書」の紳士録から始まり、現代史を彩ったスパイたちの素顔を描き、最終章に「ウィキリークス」を取り上げています。

手嶋 世紀のスパイ、リハルト・ゾルゲ、華麗なる二重スパイ、キム・フィルビーなどは、世界を揺るがす超一級の情報をいかにして手に入れたのでしょう。相手の懐に深く入り込み、信頼を勝ち得て、質の高い情報を引き出したのです。結局は、スパイがどれほど人間としての魅力を備えているかに尽きる。本書に登場するスパイたちは皆、あふれんばかりの人間的魅力を秘めた人たちです。彼らは19世紀から20世紀にかけて活躍したのですが、現代への架け橋として「パナマ文書」と「ウィキリークス」を配してあります。

 今の若者は人に会うとき、条件反射のように検索サイトを叩きます。それでは皆同じ予備知識と先入観を持ってしまうことになる。真のインテリジェンスは、検索サイトからは得られない。第二次大戦での英独の情報戦、近くはアメリカの対イラク戦争でも、インテリジェンスは国の命運を左右しました。ブッシュ政権はイラクが核・生物化学兵器を隠し持っているという誤った情報を信じて開戦し、日本はそんなアメリカを真っ先に支持しました。日本は独自のインテリジェンスも情報要員も持っていなかったからです。

20170418TESHIMA_P02―― アメリカはインテリジェンス大国なのですか。

手嶋 いえ、アメリカは圧倒的な軍事力のゆえに、最後は武力で決着をつけることができます。それゆえインテリジェンス大国でなくてもいいのです。一方、イギリスやイスラエルなど中規模の国家はインテリジェンスなしには生き抜けません。日本も軍事力に頼れないため、インテリジェンスを武器にすべきなのですが、現実はお寒い状態です。

―― アメリカでは経営トップの右腕に、チーフ・インテリジェンス・オフィサーという仕事を務める人がいるそうですね。

手嶋 経営者が的確な決断を下せるよう、雑多な情報をインテリジェンスに高めるのがその責務です。アメリカの先進的な企業はみなそうですよ。日本でも優れた企業はインテリジェンス・サイクルが粛々と回っている。精緻な決断はインテリジェンスを武器にすることで、初めて可能です。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る