政治・経済

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは、経済も世の中の空気も何とかムード先行で引っ張れるかもしれない。しかし、その後日本は大きく後退局面に入るという予測が、各界各層から出始めている。相変わらず「高度成長の夢よ、もう一度」といった印象が強い安倍政権の政策の方向感は誤ってはいないだろうか。

 そんな中、昨年の内閣改造で、安倍首相の打診を断り、あえて閣外に去った石破茂元地方創生相。その理由が、「次期首相へ向けての準備」であることは明らかだが、石破氏は、2020年以降に誰よりも「危機感」を抱いている。打開すべき政権構想のキーワードは「地方創生」だ。今、次期首相の有力候補の一人、石破氏に聞いた。聞き手=鈴木哲夫(政治ジャーナリスト) Photo=幸田 森

石破茂氏プロフィール

 

石破茂2

いしば・しげる 1957年生まれ、鳥取県出身。慶応義塾大学卒業後、三井銀行に入行。86年衆議院議員に全国最年少で初当選。現在9期目。防衛庁長官、防衛大臣、農水大臣、自民党幹事長を歴任。2014年国務大臣 地方創生国家戦略特別区域担当に就任。

 

自らの発想と潜在力を発揮するのが本当の地方創生

 

── ポスト2020年は、日本は大変な状況になる。政治の準備が必要ではないですか。

石破 いわゆる「まつりのあと」で、1964年の東京オリンピックのあとも冷え込んだ。今度はそれ以上に深刻になる可能性があります。このまま少子化、超高齢化に歯止めがかけられなければ、2100年には人口は今の半分の5200万人になる。人口減少に対処するためにも、東京一極集中を何とかしなければなりません。

 また、世界の主要都市の中で、東京は危険度ランキングで断トツ1位です。直下型地震の可能性が非常に高く、木造密集地が多い。そこに、ヒト、モノ、カネが集まっている。この東京の危険度を低減することも課題。こうしたことから、地方にこそ目を向け、地方の経済の潜在力を引き出し、東京から地方へと人が移り住んで行くことが必要になってくるわけです。

── 石破さんが進める「地方創生プロジェクト」がそこに生まれるわけですね。

石破 これまでも田中角栄総理の日本列島改造論、大平正芳総理の田園都市国家構想、竹下登総理のふるさと創生と、歴代政権はみんな地方に重きを置いてきた。しかし、従来の政策には、それほどの切迫感はなかった。なぜなら高度成長期だったからです。でも今回の地方創生は違う。相当な危機感を持ってやっています。

── これまでの地方政策との違いは。

石破 これまでは結局、日本全国どこにも同じようなまちを作ることになってしまった。今まで地方を支えてきたのが公共事業と企業誘致。道路、下水道、空港、港湾などを公共事業で整備し、大量生産で大量に規格品を作る工場を誘致してきた。そうやってどこも同じようなまちになり、高度成長が終わると、どこも同じように冷えてきたんですね。

── 地方もそうした「国がやってくれる」というスタイルに慣れてきた面もあります。

石破 地方から大勢で霞が関や永田町に来て、額の大きな事業をくださいと陳情合戦をしてきたところがありました。地方創生担当大臣を拝命して、これを変えるために一括交付金を用意し、使い道も権限も市町村に任せます、その代わり何をやるかは市町村自身が考えて決めてください、ということにしました。

 それまで国からの事業や政策に頼っていた地方にとっては厳しいことです。知恵や努力が必要で失敗したら自らの責任になる。でも、地方にはそこでしか分からない発想や潜在力がある。中央では分からないんです。そうした地方の潜在力を発揮してこそ本当の地方創生になります。

 

地方創生に必要な「発想の転換」

 

── 地方に向かって、考えろなどと厳しさを求めた政治家はいないんじゃないですか。

石破 分かってくれる首長もたくさんいますよ。先日、高知県佐川町に行ったんですが、ここの町長は東大の建築関係卒。それまでは町の総合計画を作っても誰も読まなかった。そこで誰が読んでも分かるようにと、中高生も一緒になって「私たちの作りたい町」を議論して作った。これは、この町長ならではのアイデアですよ。子どもたちに、「きみたちが計画した町を作るために帰ってこい」と言える。

 今回、全市町村に策定をお願いした総合戦略も、東京のコンサルタント会社に丸投げしたところもある。佐川町は違う。

── 地方創生の政策的な特徴は、発想の転換ですね。

石破 地方の持っている潜在力をしっかり見極めて、それを今までにない発想でどう生かすかということです。例えば農業。日本ほど土と水と日照に恵まれている国はない。なのに、輸出で見れば1位はアメリカ、2位はオランダ。日本の農産品は世界で一番安全でおいしいのだから、世界中に売ればいい。地方の農産品を世界中で売るためにはどうマーケティングし、どう流通経路を作ればいいのか考えるべき。

 漁業もそう。日本の排他的経済水域は体積で言えば世界4位なのに、これを生かしていない。これまで漁業は、たくさん獲ってたくさん売る、「親の仇と魚は見たときにとれ」なんて言っていましたが、発想の転換が必要です。

 一つの例として、羽田空港ビルのど真ん中で、全国から羽田に朝一番に着く飛行機に全国各地から朝一番に獲れた魚を乗せて運んで、それを市場を通さずに寿司屋や飲食店に直接売る会社が出てきています。その日の昼や夕方には東京の消費者が新鮮でおいしい魚を食べられる。

 これは「たくさん獲ってたくさん売る」のではなく、付加価値をつけて一匹の値段を高くするということ。このシステムで年収1千万円になった漁業者も出ています。

── 地方と言えば、観光・サービス業も主流ですが、最近では客が来ないなど衰退も懸念されていますが。

石破 神奈川県秦野市に陣屋という由緒ある名旅館があります。でもリーマンショック後、経営が大変なことになった。そんな中であとを継いだのがメーカーの技術者だったご子息でした。メーカーの目から旅館業を見て驚いたそうです。まず従業員がどこで何をしているか分からない。

 そこで、みんなにタブレット端末を持たせて、一番大事なお客さまと接する時間が増えるように管理したそうです。また、食事ごとにお客さまが残す料理を洗い出し、ここを節約して人気の料理に重点化しました。最も画期的なのは365日営業が当たり前の旅館業で従業員を週休2日にしたことです。これでモチベーションが上がり、サービスの質が向上した。業績は急回復しました。

── 地方のサービス業も、発想の転換があればやれる?

石破 地方の潜在力として期待しているのは商工会、商工会議所ですね。行政だけがやってもだめなんです。地域企業の集まりですから、その地域事情を知り尽くしている。

 つまり、その地域にしかない発想や潜在力が必ずある。もちろん、大企業の中にも、本社機能を創業の地である地方に移転し、新入社員を東京一括ではなく地域ごとに採用して、しかも東京と地方の給与に差をつけないという企業もあります。これは東京から地方に人材が移り住めるようにしようという取り組みです。

 しかしそれはまだ例外的であって、地元に根付いている企業こそ、俺たちが変えようという意識で頑張ってほしい。日本の歴史を見てください。都(みやこ)が国を変えた例はない、国を変えたのはいつも地方の人たちです。

 

地方創生に向けて政治が取り組むべきこと

 

── いま政治がやるべきは、そうした「地方創生」を政権構想としてまとめることではないか。

石破 地方創生、1億総活躍、働き方改革、と看板を掛け替えているように見えるかもしれませんが、通奏低音は同じです。やるべきことは決まっているんじゃないでしょうか。大事なのは、オリンピック・パラリンピックの後を見据えて、地方の潜在力を伸ばす種をどれだけまくかということです。大胆な金融緩和や機動的な財政出動はいつまでもどこまでも続くはずはないし、いつまでも金利ゼロが続くはずもない。今、マクロから見た経済では必ずしも現れてきていない地方の豊かさ、本当の幸せをどう実現していくか。旅館の365日営業は当たり前?いやそうじゃない。魚1匹を飛行機で運ぶのは高すぎる?いやそうじゃない。発想を変えていけば地方には伸びしろがたくさんある。オリンピックが終わって、あれが日本の最後の輝きだったね、ということにならないようにするためには、絶対に必要なことだと思います。

── これを実現するためには首相を目指すということ。

石破 首相は目的ではないでしょう。こんな国を作りたいというのがあって、それを実現するために首相になるかどうか。私は、地方が新しい日本を作る、そして東京の負荷を減らして行く、そんな国にしたいと思っています。地方創生大臣を2年やって、ああこんなにも自分は日本を知らなかったのかと痛感しました。地方はみんな違う。それぞれに、生活があり経済があり文化がある。

 一言で北海道と言ったって179の市町村がある。大臣を退任しても地方をずっと回っています。この2週間でも、北海道の留寿都村、室蘭市、石川県珠洲市、輪島市、茨城県美浦村、兵庫県宍粟市と伺いましたが、もっといろいろな地方を回って潜在力を確かめて、そこに暮らす人たちとどうすれば地方が国を創っていけるかをとことん話していきたい。

 これからの日本は夢みたいなことばかり言っていられないと思うんです。社会保障だって持続可能にするためには考え直さなきゃならない。でもそうした持続可能な国の仕組みにしていくためにこそ、国民があの政府の言うことなら、って思ってもらえることが大事なんだろうと。私は、地方創生を通じて、その地域に暮らす人たち、頑張ろうという人たちが、共感し納得してくれることを目指したい。今の華やかな政治のあとに必要なものはそういう政治ではないかと思っています。

 

石破氏は、来年9月の次期自民党総裁選への出馬などについて直接言及せず、「アベノミクスを否定していないが誰かがそのあとを準備しなければならない」、また、「過去自民党は、三角大福中、安竹宮、麻垣康三と常に現首相の次を準備してきた。いまは準備するとすごく弾圧される」とだけ語った。しかし、何よりも、今回「地方創生」というポストオリンピックの政権構想そのものを熱く語ってくれたことこそが、今後日本が生き残って行くための厳しい舵取り役を引き受ける覚悟、つまり首相への道を歩く宣言だと感じた。(鈴木哲夫)

 

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