文化・ライフ

政治、社会、芸能、スポーツなど幅広いジャンルでスクープを連発している「週刊文春」。新谷学編集長が、人脈・企画・交渉・組織・決断・戦略など、結果を出すための85の奥義を公開する。聞き手=榎本正義

人生フルスイングで行こう

201706_SHINTANI_P001

著者:新谷 学  発行:ダイヤモンド社 定価:1,512円

―― 毎号話題の「週刊文春」編集長初の著作ということで、取材が殺到しています。

新谷 大人になって以降の大半の時間は仕事に費やされる訳ですから、当然、面白い方がいいですよね。仕事が面白ければ、人生も面白くなる。この本の中で、大変僭越ながら、人生フルスイングで行きましょうと訴えかけているのですが、それぞれ働いている皆さんが、仕事の面白さを再認識していただくきっかけになれば嬉しいです。

 週刊誌をつくる仕事は、決して特殊なものではありません。人との付き合い方、目の前の案件の可否の判断など、どんなビジネスにも通じると思います。まず今週のラインナップを決め、それにどういう取材体制で取り組むか。誰に書かせて、誰がサポートに付くのか。デスクは誰にするのかという人事も毎週行います。そして20近い取材班が発進し、それぞれの現場で、ゴー&ストップも含めて、あらゆる判断を瞬時に下しながら1冊をつくっていく。この濃縮された経験は、いろいろお役に立つかもしれないと考えました。

―― それがこの本の読みどころですね。

新谷 そもそも記者や編集者は黒子という考え方があります。しかし今の時代は、取材源は秘匿しつつも、「週刊文春」の記事はこういうプロセスでつくられていると可能な範囲でつまびらかにしていくことで、記事の信ぴょう性を担保する必要があると思うのです。

 これからの時代にメディアが生き残っていくには、ブランドの力が極めて重要です。今はあらゆるメディアの情報がスマホ上ではフラット化されて混在しています。その中で「週刊文春」という看板への信頼をいかに高めていくか。「週刊文春」が発信している情報なら、お金を払ってでも読む価値があると信頼していただくことが何より大事なのです。

“武器”をさらに磨き、最強化する

―― ダイヤモンド社からの出版です。

新谷 ビジネス書ではトップランナーのダイヤモンド社さんというフィルターを通すことは、「週刊文春」のブランディングという観点からも、非常に有意義だと考えています。

―― この本はリーダー論としても読まれているようです。

新谷 お付き合いのある企業の広報の方から、この本にはミッション、バリュー、ビジョンのすべてがあると過分なお褒めの言葉をいただきました。「週刊文春」特集班の取材チームは、原稿の書き手となる「カキ」と、カキをサポートする「アシ」で構成されます。その際のルールは「ネタを出した記者が必ず『カキ』を担当する」。現場の中でも一番熱い部分、キーマンの直撃取材のクライマックスは基本的にカキに背負ってもらいます。その上にデスクがいて、編集長がいるのですが、この指揮命令系統を崩してはいけない。他にも、それぞれのポジションでどうすればモチベーションが上がるかなど、働く上での指針として現場で掴んできた経験を盛り込んでいます。

―― 総合週刊誌トップの部数を維持するプレッシャーはないですか。

新谷 まあ、私は守りに入る性格ではないので、シンプルに、正攻法で臨んでいます。

 まず、私たちは、読者から何に対してお金を払っていただいているのかを突き詰めて考える。「週刊文春」の武器はコンテンツであり、最大の武器はスクープです。このスクープ力をさらに磨き、最強化していくことが、「週刊文春」というビジネスモデルを存続させる上で最も重要だと確信しています。

―― メディアの可能性について。

新谷 メディアが今、考えるべきは、自分たちのコンテンツをもう一度よく見つめ直すことだと思います。私はよく中味と外味の話をするのですが、紙かデジタルかとか、テレビの場合なら、4Kか8Kかなど画像の議論は外味の話です。その前に、それぞれのメディアが生み出すコンテンツにどれだけの価値があるかを突き詰めて考えるべきだと思います。私は、無料で記事を読ませるのは極力やるべきではないと思っています。あらゆるコンテンツは適正な価格で読者に届けるべきです。その上で、未来への「鉱脈」をきちんと掘り起こし、持続可能なものに育てていく。今後は有料のデジタル配信サービスや記事使用料も含め、「週刊文春」から生み出される利益をトータルでとらえる必要があるでしょう。

 14年にはドワンゴの有料ブログ&メルマガ配信サービス「ブロマガ」上で、「週刊文春デジタル」を立ち上げました。1カ月864円で現在会員数は約7千人。17年からはLINEと組んで有料の記事配信サービスを始めています。テレビ局などからの記事使用料をいただくシステムもつくりました。記事1本に付き3万円、動画は5万円です。このシステムをつくって1年くらいですが、使用料は4千万円を超えました。われわれにとって絶対に守るべき根幹は「伝えるべきファクトを伝える」ことです。それこそが読者の信頼を得るための方法です。取材費を削ったり、人を減らしたりすれば、自らの首を絞めることになります。信頼の幹をしっかり太くしていかなければいけないと肝に銘じています。

しんたに・まなぶ 1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文芸春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る