文化・ライフ

政治、社会、芸能、スポーツなど幅広いジャンルでスクープを連発している「週刊文春」。新谷学編集長が、人脈・企画・交渉・組織・決断・戦略など、結果を出すための85の奥義を公開する。聞き手=榎本正義

人生フルスイングで行こう

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著者:新谷 学  発行:ダイヤモンド社 定価:1,512円

―― 毎号話題の「週刊文春」編集長初の著作ということで、取材が殺到しています。

新谷 大人になって以降の大半の時間は仕事に費やされる訳ですから、当然、面白い方がいいですよね。仕事が面白ければ、人生も面白くなる。この本の中で、大変僭越ながら、人生フルスイングで行きましょうと訴えかけているのですが、それぞれ働いている皆さんが、仕事の面白さを再認識していただくきっかけになれば嬉しいです。

 週刊誌をつくる仕事は、決して特殊なものではありません。人との付き合い方、目の前の案件の可否の判断など、どんなビジネスにも通じると思います。まず今週のラインナップを決め、それにどういう取材体制で取り組むか。誰に書かせて、誰がサポートに付くのか。デスクは誰にするのかという人事も毎週行います。そして20近い取材班が発進し、それぞれの現場で、ゴー&ストップも含めて、あらゆる判断を瞬時に下しながら1冊をつくっていく。この濃縮された経験は、いろいろお役に立つかもしれないと考えました。

―― それがこの本の読みどころですね。

新谷 そもそも記者や編集者は黒子という考え方があります。しかし今の時代は、取材源は秘匿しつつも、「週刊文春」の記事はこういうプロセスでつくられていると可能な範囲でつまびらかにしていくことで、記事の信ぴょう性を担保する必要があると思うのです。

 これからの時代にメディアが生き残っていくには、ブランドの力が極めて重要です。今はあらゆるメディアの情報がスマホ上ではフラット化されて混在しています。その中で「週刊文春」という看板への信頼をいかに高めていくか。「週刊文春」が発信している情報なら、お金を払ってでも読む価値があると信頼していただくことが何より大事なのです。

“武器”をさらに磨き、最強化する

―― ダイヤモンド社からの出版です。

新谷 ビジネス書ではトップランナーのダイヤモンド社さんというフィルターを通すことは、「週刊文春」のブランディングという観点からも、非常に有意義だと考えています。

―― この本はリーダー論としても読まれているようです。

新谷 お付き合いのある企業の広報の方から、この本にはミッション、バリュー、ビジョンのすべてがあると過分なお褒めの言葉をいただきました。「週刊文春」特集班の取材チームは、原稿の書き手となる「カキ」と、カキをサポートする「アシ」で構成されます。その際のルールは「ネタを出した記者が必ず『カキ』を担当する」。現場の中でも一番熱い部分、キーマンの直撃取材のクライマックスは基本的にカキに背負ってもらいます。その上にデスクがいて、編集長がいるのですが、この指揮命令系統を崩してはいけない。他にも、それぞれのポジションでどうすればモチベーションが上がるかなど、働く上での指針として現場で掴んできた経験を盛り込んでいます。

―― 総合週刊誌トップの部数を維持するプレッシャーはないですか。

新谷 まあ、私は守りに入る性格ではないので、シンプルに、正攻法で臨んでいます。

 まず、私たちは、読者から何に対してお金を払っていただいているのかを突き詰めて考える。「週刊文春」の武器はコンテンツであり、最大の武器はスクープです。このスクープ力をさらに磨き、最強化していくことが、「週刊文春」というビジネスモデルを存続させる上で最も重要だと確信しています。

―― メディアの可能性について。

新谷 メディアが今、考えるべきは、自分たちのコンテンツをもう一度よく見つめ直すことだと思います。私はよく中味と外味の話をするのですが、紙かデジタルかとか、テレビの場合なら、4Kか8Kかなど画像の議論は外味の話です。その前に、それぞれのメディアが生み出すコンテンツにどれだけの価値があるかを突き詰めて考えるべきだと思います。私は、無料で記事を読ませるのは極力やるべきではないと思っています。あらゆるコンテンツは適正な価格で読者に届けるべきです。その上で、未来への「鉱脈」をきちんと掘り起こし、持続可能なものに育てていく。今後は有料のデジタル配信サービスや記事使用料も含め、「週刊文春」から生み出される利益をトータルでとらえる必要があるでしょう。

 14年にはドワンゴの有料ブログ&メルマガ配信サービス「ブロマガ」上で、「週刊文春デジタル」を立ち上げました。1カ月864円で現在会員数は約7千人。17年からはLINEと組んで有料の記事配信サービスを始めています。テレビ局などからの記事使用料をいただくシステムもつくりました。記事1本に付き3万円、動画は5万円です。このシステムをつくって1年くらいですが、使用料は4千万円を超えました。われわれにとって絶対に守るべき根幹は「伝えるべきファクトを伝える」ことです。それこそが読者の信頼を得るための方法です。取材費を削ったり、人を減らしたりすれば、自らの首を絞めることになります。信頼の幹をしっかり太くしていかなければいけないと肝に銘じています。

しんたに・まなぶ 1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文芸春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

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