マネジメント

30期連続で増収増益を続けているニトリホールディングス。同社の成長の原点は、似鳥昭雄会長が28歳の時に行ったアメリカ視察にある。その時に受けた衝撃と抱いた志が似鳥会長の経営哲学の源になっている。日本にも欧米並みの住まいの豊かさを提供するという思いから、半世紀以上を遅れているアメリカとの差を60年で追いつき追い越すため、第1期と第2期の2回の30年計画を立案。現在の成長はその計画を着実に実行している結果であり、最終的に2032年に3千店舗、売上高3兆円を目指す。聞き手=村田晋一郎 Photo=佐藤元樹

 

似鳥昭雄・ニトリホールディングス会長プロフィール

似鳥昭雄氏

にとり・あきお 1944年生まれ、樺太出身。66年北海学園大学経済学部卒業。67年似鳥家具店を創業、72年似鳥卸センターを設立。社名を78年ニトリ家具、86年ニトリに変更を経て、2010年ニトリホールディングスに移行。16年ニトリホールディングス代表取締役会長に就任、現在に至る。

 

似鳥昭雄会長が掲げる「5つの経営哲学」とは

 

―― 似鳥会長の経営哲学と言うと、最近の著作では、「ロマン」「ビジョン」「意欲」「執念」「好奇心」の5原則を示しています。最初にロマンが大事だとおっしゃっていますが。

似鳥 28歳の時にアメリカに視察に行きました。そうしたら、アメリカの暮らしがあまりに豊かなのでびっくりしました。一番びっくりしたのは、家具の勉強にアメリカに行ったのに家具がなかったこと。ソファーやベッドなど脚物だけでした。将来、日本でも箱物の家具がなくなり、大変なことになるという危機感を抱きました。

 あとは製品の価格が日本の2分の1以下で、品質や機能、コーディネートは日本よりもはるかに良かった。さらに広さはスーパーストアで、当時、私たちの店舗は200坪ぐらいでしたが、アメリカはその10倍、2千坪ぐらいありました。

 そういうところが日本と全然違っていて、日本はアメリカから50年以上遅れていると感じました。その半世紀以上の遅れを追いつき、追い越し、日本人の暮らしを豊かにしようと考えたのが、「ロマン」、志です。それで30年計画を2回やると60年になります。当時28歳で、60年後は88歳になりますので、このビジネスに人生をかけようと思いました。それがロマンです。

 「ビジョン」は、最初の30年間は「100店舗出店と売り上げ1千億円」「日本初の家具屋ではないホームファニシング」「上場」「全国にチェーン展開」というのが4大ビジョンでした。30年先のことは決めているので、そのために20年先、10年先はどうするか。10年を3年ごとに割ったり、1年ごとの課題をつくったり、計画を立てて取り組みました。

 また、最初の30年の大きなテーマとして、まず10年間は、店づくりで11店舗以上つくることしました。次の10年間で大卒定期採用者を入れて教育し、投資する。アメリカに連れていくなどして、教育に注力しました。そしてアメリカで言うプライベートブランド、この世にないものを新しくつくるマーチャンダイザーを多数育成していきました。これはだいたい希望どおりに順調に行っています。

 まずロマンとビジョンがあるから、「意欲」が出てきます。ビジョンは100倍以上のことを発想しますから、当然、意欲や情熱、熱意が出てきます。しかし、時には失敗して、途中で挫折しそうになったりします。だから諦めないで最後までやりぬくと。それが「執念」です。

 そして、物事を進めていくには、知識や技能や経験が必要です。ありとあらゆるものを見たり聞いたり、実行したり、経験したり、そういう「好奇心」を持とうということです。このロマン、ビジョン、意欲、執念、好奇心の5つの当社の経営哲学です。

―― ビジョンについては、当初からかなり綿密な計画を立てられていた印象を受けます。

似鳥 われわれがチェーンストアの勉強を教えてもらったのが、日本リテイリングセンター内のペガサスクラブでした。そこの主宰の渥美俊一先生が相談に乗ってくれました。細かい計画は、われわれが作りましたが、それを先生に見せて、チェックしてもらっていました。

 

家具市場縮小の中、ニトリが成長できた理由

 

―― 最初の30年計画は日本の高度経済成長が終わりかけて、家具市場がだんだん縮小して行った時期ですが、その中で成長戦略を描けたのはなぜでしょうか。

似鳥 家具市場はもう最盛期の3分の1くらいになりましたよね。ただ、3分の1になろうが、市場は何兆円かあるわけです。市場の減少に関係なく、私たちは計画通りにやって、シェアをとっていくということです。

―― シェアをとっていく上でニトリの強みは何でしょう。

似鳥 やはり店数です。店数を増やしていくことが重要です。社会貢献のバロメーターは店数と既存店の客数を増やすことです。そして客数を増やしていくためには、商品が魅力的でなければいけません。商品の魅力は、一番が安さ、次に品質。お値段以上の品質・機能にしていく。その次がコーディネートです。

 店数については、商品を海外のメーカーに発注するにはある程度の量が必要になります。店数を増やさないと大量発注はできないです。店数を増やすことで、仕入れや商品を開発する力が増していきます。

―― 今、30年計画の第1期が終わって、第2期のちょうど折り返しにあたります。ここまでの手応えはどう感じていますか。

似鳥 今まではほぼ計画通りに来ています。しかし、これから難しくなります。計画では5年で現在の規模を倍にすることになります。売り上げは5千億円を1兆円に、店舗数は今470店舗を1千店にしなければいけません。店数は実現できる可能性が高いですが、1兆円は難しいですね。日本だけでは無理ですから、当然、海外が入ってきます。

 

ニトリの海外進出の現状と課題

 

―― 今、海外は、中国と台湾とアメリカで展開されています。アジアに比べて、アメリカの出店はあまり拡大していない印象を受けます。

似鳥 アメリカは、われわれの想像した以上に進んでいて、競争が激しい。ですから、今は出店をストップして、対策を練っているところです。台湾は27店、中国が11店で、今年10店舗を一挙にオープンしようと思っています。ですからまずはアジアを攻めてからになると思います。特に中国ですね。中国は日本の11倍の人口がありますから、理屈の上では日本の10倍は店を建てられます。

―― アメリカでの展開では何が一番難しいですか。

似鳥 特にコーディネートが進んでいます。それと人間も住宅も大きくサイズが全然違っていて、好みやスタイルも違います。日本で通用する商品があまりないですし、アメリカの店数が多くないため輸入もできない。そういう面で、ちょっと苦戦しています。

―― 逆に台湾や中国の展開での課題はありますか。

似鳥 言葉の違いはありますし、人材育成が課題です。これは昔からですが、継続成長に人材育成は欠かせません。日本だけでなく中国に急速に出店しなければいけないので、人材育成が難しいところです。

―― 日本での出店と、中国の出店のやり方に違いはありますか。日本はロードサイドと都市部のそれぞれの戦略がありますが。

似鳥 やはり若干違いますね。日本の場合には、土地を借りて建物を建てるとか、土地も建物も建てるとことがありますが、今、中国は100%テナントです。それから、うちは大きい店は2千坪、2番目は1500坪、1千坪、あと700坪とありますが、今、中国は700坪ぐらいの店ですね。今は、まだそこまでの需要がないというか、商品力が整っていないということですね。品揃えを変えていかなきゃならないでしょう。

 

日本国内では都市部で新たな需要を掘り起こす

 

201706_NITORI_P001―― 日本での展開は、銀座など都市部での出店が目立っています。

似鳥 手応えは非常にありますし、目標通り売れています。都市部で車のない、電車でいらっしゃるお客さまは非常に多いですよ。これで、新しい客層を掘り起こしていきます。

 都市部の展開は、2年前の銀座プランタンから始まって、そこが以前は1フロアでしたけど、マロニエゲートという店名に変わりまして、2フロアになりました。あとは目黒店と池袋の東武百貨店が3月に同時オープンしました。ほかには新宿髙島屋、中目黒もありますし、今後は6月に渋谷でオープンします。

―― また、札幌駅にEXPRESSという新しい業態の店を出されるとのことですが、業態の棲み分けは。

似鳥 EXPRESSは300坪前後でニトリの小型版ですね。一方、デコホームは今ニトリの商品をやっていますが、商品を変えていきます。

―― こうした小型店を出店していくときの狙いは。

似鳥 小型店は、どちらかというと駅前立地です。郊外に行けないというお客さまはたくさんいますからね、電車でいらっしゃるお客さまを対象にしています。

 

似鳥昭雄氏が描く事業の将来展望

 

―― 今後の景況感についてどのように考えていますか。

似鳥 日本の景気は、業界によって多少は違うでしょうが、全体としては少しずつ上向いているかもしれません。来年いっぱいまでは好況が続くかもしれないですが、来年はアメリカ経済が下降期に入ると思うので、その影響は日本も多少あると思います。19年は、東京オリンピックの工事が既に終わっていて、景気が下降に入ってくるでしょう。そのタイミングで、消費税増税が施行されたら、20年から3年程度、景気は良くないと思います。今はそれに向けて準備しているところです。

 景気が良くなろうが、悪くなろうが、当社は出店を計画通り進めていきます。ただし、中身は違ってきます。今はテナントが大部分ですけど、景気が悪くなってきたら、物の値段が下がります。だから、投資が多くなってくると思います。今は年間の投資がだいたい400億円ぐらいですが、そのころになると、投資が倍になると思います。

―― これまで出店は年間50店舗ずつ増やしてきているようですが。

似鳥 今年はもう60店です。その増加分は中国です。中国で今年は10店、来年は20店出したいと思います。だから来年は全体で70店と、出店ペースはだんだん増えていきますよ。

―― 将来的に60年計画を完遂するために、現在直面している課題は。

似鳥 22年の1千店舗に向けて、今は小型店や、小商圏フォーマットに取り組んでいます。まずはこれを成功させなければいけません。今51店舗ですが、これを早く100、200と出して軌道に乗せる。それから中国出店を加速する。そのためにも、商品力を向上させる必要があります。

 さらにベトナムのホーチミンに自社工場を建築中で、これが8月にオープンします。ここを順調に稼働させなければいけません。また、これらの課題に対応するためにも、人材を育成しなければいけないと考えています。

 
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