マネジメント

2014年度に売上高1兆円を突破し、20年度には売上高2兆円を視野に入れる日本電産。同社の成長は、戦略的なポートフォリオ転換やM&Aが牽引しているが、根本的な源は、「人の倍働く」姿勢が示すバイタリティーであろう。その日本電産が、残業ゼロを目指すという。これまでのハードワーキングのイメージとのギャップは大きいが、その背景には、グローバル競争を勝ち抜くための生産性向上の追求がある。創業時に掲げた「世界的企業」という目標に向けて、大きな転換点を迎えている。聞き手=村田晋一郎 Photo=宇野良匠

永守重信・日本電産会長プロフィール

永守重信

(ながもり・しげのぶ)1944年生まれ、京都府出身。67年職業訓練大学校卒業。73年日本電産を設立し、代表取締役社長に就任。2014年10月より代表取締役会長兼社長CEO。

 

グローバル企業への成長を目指す日本電産の働き方改革とは

 

時間での勝負から生産性での勝負へ転換

―― 永守会長の経営哲学と言うと、「情熱、熱意、執念」、「知的ハードワーキング」、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の3大精神が知られています。

永守 いや、ほかにもたくさんありますよ。その経営哲学にしても、どういう視点から見るかによって大分変わってくると思います。

 例えば、最近、当社で進めている働き方改革があります。昔、創業した時は従業員3人の零細企業でした。競争相手は日本を代表する巨大企業で、どうしたら戦えるか考えた時に、勝てるものはありませんでした。

 でも1つだけ平等なものがあって、それは1日24時間という時間でした。一般の会社は8時間働いていましたから、われわれは倍の16時間働くことをやってきました。

 その後、労働時間は14、12、10時間……と徐々に減ってきたのですが、売上高が1兆円になったら、働き方改革を抜本的にやろうと思い、「2020年に残業ゼロ」を目標に掲げています。

 ついこの間まで、「倍働け」と言っていた会社が「残業ゼロ」と言うのは、とんでもない話です。でも、別におかしな話ではありません。

 もともとの「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」や「情熱・熱意・執念」、「一番以外はビリ」という考えは、全然変わっていないのです。

 やはり何でもすぐにやらなければいけないし、できるまでやらなければいけません。会社の経営理念に根ざすものは変わりませんが、上に咲かせる花は、会社の規模や入ってくる人材によって変わってきます。

 以前はそれほど優秀な人材が集まらなかったので、倍働いて時間で勝負していました。しかし今は優秀な人材が入ってくるので、今度は生産性を上げていきます。残業ゼロばかりが注目されますが、残業ゼロは手段であって、あくまで目的は生産性2倍なのです。

 一昨年から、この運動を始めました。1兆円企業として、今後さらに売り上げを2兆円、5兆円、10兆円に持っていこうと思うと、今のままでは絶対に行きませんし、海外企業と戦わなければいけません。

 この十数年間に多くの海外企業を買収しました。海外企業は基本的に残業ゼロです。残業しない会社は戦いに負けると思っていたら、そうではなく、良い業績を上げています。

 北欧の企業はもっと生産性が高く、日本の2倍です。現在は従業員11万人のうち、1万人しか日本人はいません。グループ内でも東南アジアの企業はまだ残業をしますが、欧米の企業は残業をしません。そういうところと働き方を統一化していかないと、グローバル企業になれません。

 欧米企業ができていることは、われわれにもできると。そうならないと、われわれも一流会社になれないという危機意識から始まった運動です。

 始めて1年半ほどで残業は半分ほど減りました。かなり無駄なこともやっていましたから、半分は減ります。しかし半分からゼロにするには少し時間をかけないといけませんし、いろんな投資もしていかなければいけません。

―― 社内の反応は。

永守 社員の中には、残業手当を生活費に充てていて、その手当がなくなるとローンが返済できなくなるという人がいます。そもそも私もサラリーマンの時は残業手当だけで生活して、基本給とボーナスを全部貯金して、この会社の資本金をつくったわけです、だからその社員の気持ちは、痛いほど分かります。しかし、これから4年かけて生産性を上げることが目的であって、生産性が上がれば、給料も上がり、ボーナスも増えると。そうすれば、残業をしなくても年俸は変わらないということを社員には伝えています。

 世界で、グローバルスタンダードで生き残っている会社は、良い人材が集まってきます。残業ばかりしていたのでは、良い人材は集まりません。ですから、働く環境をまず変えていきます。お金もかけて、スーパーコンピューターを入れ、いろんなツールも揃えて、「近代兵器」で戦わなればいけません。これから20年までに1千億円投資します。大変な金額ですが、しかし1千億円投資しても、それ以上に成果が出てきます。欧米企業の多くは、残業ゼロですから、われわれも残業ゼロで戦える方法を考えないといけません。

残業ゼロで変革を起こす

―― 残業ゼロで、かなり組織が変わることになりそうですね。

永守 時間ではなく、今度は生産性を上げて戦おうとしているわけで、一生懸命働かなければいけないことは確かなんです。ゆっくり遊べと言っているわけではありません。

 むしろ、残業ゼロのほうが、社員にとって厳しいですよ。5時半で終わらないといけないので、時間内に仕事ができる優秀な人が勝ちます。残業ゼロ体制は弱者にとって厳しいです。ですから体制の変更は時間をかけてやらないといけません。一度にやると大変なことになります。

 もう一つの目的は、語学力の強化です、日本の会社が世界で戦っていくためには、やはり英語力や中国語力が足りない。

 例えばお客さまからいただく仕様書が英語で書いてあって、それを訳すだけで半日ぐらいかかる場合があります。それがすぐに読めれば、生産性が上がります。

 だから早く帰って英語の勉強をしてくれませんかと、会社もそういう研修をやりますと言っています。今までの残業代が減った分は、半分は社員に返し、残り半分は教育研修費に充てます。そのためには、まず昼間の生産性を上げてもらわないと、その時間がないわけです。

 特に最近は少子高齢化で男性だけではやっていけなくなり、女性にも働いてもらわなければいけません。結婚しても、子どもをつくっても働ける働き方にする必要があります。管理職になったら、会社に遅くまでいないといけないとか、休んだらいけないというのではなく、在宅勤務や時差出勤も認めて、フレキシブルに対応します。

 それは時代の要請ですね。企業にとって重要なことは、時代の変化に順応していくことです。脱皮しない蛇は死ぬのと同じように、その時、その時の服装に着替えないといけません。

 現に私が、最近は7時に帰るようにしています。昔は10時、11時まで働いていたのを変えたわけです。

 これは身体が楽ですね。朝の生産性がものすごく上がります。早く帰って、きちんと運動し、熟睡して、翌朝会社に出てきたら、朝の仕事の能率が全然違います。「ああ、これか」と、自分で実感しています。

―― 海外企業の働き方を参考にしたとのことですが、昨年8月に米エマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ、発電機事業の買収を発表した際の会見で事業責任者のケイ・パン氏は日本電産の経営手法「Nidec Way」を理解するのに3年かかったと語っていました。

永守 当社独特の経営手法があって、それで成功してきたわけですから、これは今後も変わりません。彼らも日本電産の良いところを学ぼうとしたのだと思います。当社の「家計簿経営」や「千切り経営」「井戸掘り経営」は世界に通用する経営手法だから、彼らはそれを実践しているわけです。これは世界で通用するグローバルの経営手法です。

 今、政府がどんどん残業を減らす取り組みを進めていますが、全部が良いとは思いません。生産性を上げてから残業を減らすことは良いですが、生産性を上げないで残業を減らしていったらまずいでしょうね。

 当社は20年に残業ゼロと言っていますが、本当にできるのか、疑問視されています。しかし私は自信を持ってやっています。実現できれば大きな変革をもたらしますし、日本の社会が変わっていくと思います。

 そのためにはどこかが成功事例をつくらなければいけません。特に当社の場合は、今までは人の倍働けという極端な会社でしたから、それが残業ゼロを実現できれば、非常にインパクトを与えると思います。

 

永守氏の経営哲学を継承する後継者を育成

 

201706_DENSAN_P001―― 経営哲学の継承に関連して、グローバル経営大学校の状況は。本社前に研修センターが完成しました。

永守 この2~3年かけて、私がやってきた経営手法を1冊にまとめたテキストをつくりました。英語や中国語、タイ語などいろんな言語で、グループ全体に統一基準として、Nidec Wayとはどういうものかを理解していただくためのものです、言葉も文化も違いますが、基本的な経営手法については世界統一基準で学んでもらいます。グローバル経営大学校は昨年から始まりました。

―― 対象となるのは、グループ会社の社員ですか。

永守 あくまで、自社の経営トップを育成することが目的です。グループ会社が300数社あるので、大学校の歴史を重ねていって、卒業生の中からグループ会社のトップが次々と出てきて、また、彼らが今度は大学院で教えるということを繰り返していかないといけません。

―― 可能性として、永守会長の後継者も経営大学校から出るのでしょうか。

永守 もちろん、それもあるでしょうね。ただし今ではなく、次の次ぐらいの人でしょうね。本体だけでなく、グループ会社のトップも含め、ロングタームで今から育成していかなければいけません。100年先まで伸びている会社をつくろうと思ったら、20年先ぐらいまでの人材が揃っていないと駄目だと思います。

―― 永守会長は以前から後継者の条件として、世界一の会社をつくることを挙げています。

永守 私の理念、会社の目的は、世界的企業をつくることです。今は売り上げ1兆円ですが、10兆円になったら、世界的企業だと思います。後継者は、そういう良い意味での野望や野心を抱いている人ですね。現状に満足している人にバトンを渡したらまずいです。私は会社をもっともっと大きくして世界的企業を遺したいので、それを引き継いでくれる人でなければいけません。

 私はオーナー経営者ですから、株の配当もあるので、そんなに高い報酬を貰っていないのですが、次にバトンを渡す人には億単位の報酬を払います。会社の規模に相応しい年俸をきちんと払うことを決めています。

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