マネジメント

201706コラム2

 「論語と算盤」とは、日本資本主義経済の父とも言える渋沢栄一の言葉で、倫理と利益の両立を求めたものだ。この言葉を実践するのが、30ページに登場した北尾吉孝・SBIホールディングス社長で、インタビューにあるように北尾氏の経営哲学は、中国古典などを学ぶことによって形成されていった。

 北尾氏のように、古典や過去の偉人から、経営哲学や戦略を学び、自分のものとする経営者は珍しくない。

 かつて北尾氏とタッグを組んでいた孫正義・ソフトバンクグループ社長の場合は、「孫の二乗の兵法」と呼ばれる、孫子の兵法を独自にアレンジしたものを経営理念・戦略に役立てている。

 道 天 地 将 法

 頂 情 略 七 闘

 一 流 攻 守 群

 智 誠 仁 勇 厳

 風 林 火 山 海

 孫の二乗の兵法はこの25文字からなるが、それぞれの文字と並びに意味を持たせている。

 例えば1行目は経営理念を表していて、「道=志を立てる」「天=天の時を得る」「地=地の利を得る」「将=優れた幹部を集める」「法=勝つための仕組みをつくる」という意味だ。2行目はビジョンで「頂=目標を定め」「情=情報を集め」「略=取捨選択し」「七=7割の確率まで煮詰め」「闘=戦い抜く」となる。孫氏はよく「7割の勝率があったらゴーサインを出す。逆に失敗しても3割のダメージで収まるように工夫する。そうすれば痛手は負っても生き残れる」と言うが、「七」にはそうした意味がある。

 最後の行は、武田信玄の「風林火山」をアレンジしたものだが、孫氏に限らず多くの経営者が戦国武将から経営のヒントをもらっている。信玄の場合なら、鬼神のごとき強さを誇る軍隊を築き上げた戦略眼と統率力に憧れるのだろう。

 昨年、話題となったNHK大河ドラマの「真田丸」の主人公、真田幸村(信繁)も人気のある武将の1人だ。小大名である真田家が生き残るためにとったさまざまな戦略は、そのまま中小企業の生き残り戦略に結び付く。実際、取引先を相手に真田幸村をテーマにして経営セミナーを開いた地方銀行もあるほどだ。

 三傑――織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の人気も高い。信長の場合、常識にとらわれない発想力と創造力。そして行動力が評価されている。秀吉なら知略と人望力、家康なら組織論といった具合に、3人の強みがそれぞれ分かれていることで、さらに魅力を増している。「戦国武将に学ぶ経営戦略」というセミナー活動を行っているコンサルタントもいるが、セミナーには毎回多くの中小企業経営者が集まるという。

 信玄の「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」や、家康の「滅びる原因は自らの内にある」といった言葉はいまなお通用するものであり、経営者にとっては腑に落ちるところも多い。

 戦国武将以外では、明治維新の志士たちの人気も高い。坂本龍馬、西郷隆盛、吉田松陰等、新しい日本をつくった志士たちのエピソードを、不透明な時代に経営の舵を取らなければならない自分たちに重ね合わせている。

 歴史的な偉人は、激動の時代にこそ現れる。ということは、後世、高く評価される経営者が今の時代から生まれる可能性もある。その人がどんな経営哲学を持ち、どんな企業理念をつくっているのか。そしてそのバックボーンは何なのか。残念ながら現段階では分からない。

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