テクノロジー

登山が趣味なわけでもなく、人命救助の現場に明るいわけでもない久我氏がなぜ、『HITOCOCO(ヒトココ)』を手掛けるに至ったのか。幼いころに培われた外国への好奇心が、海外での仕事、そして通信技術の応用へとつながっていく。

久我一総氏の海外経験①英語の定着を目指して大学で米国留学

 

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人生の貴重な経験となった留学時代の冒険旅行

 外国への興味から大学では英語を専攻したものの、何もしなければ卒業後すぐに忘れてしまうと思い、卒業が1年遅れることを承知で米国へ1年間の交換留学を決意した。

 学生寮の仲間だったブラジル人のエリックとは最初から不思議と馬が合った。長距離バスで旅行にも行った。目的地はヘミングウェイが愛したキーウエスト島。途中、水浴びをした川でワニに遭遇して命からがら逃げたり、知らずに進入禁止区域に入り込み地元の警察と騒ぎになったりと冒険譚には事欠かなかった。たどり着いた無人島で満月の下、ウオッカを飲みながら釣り糸を垂れ、将来の夢を語り合った夜を、久我氏は「人生で一番、印象に残っている夜」と語る。

 しかしアメリカで英気を養い、帰国した彼を待っていたのは就職をめぐる予期せぬ現実だった。

 帰国したのは2度目の4年生の夏。残り少ない学生生活を満喫しているうちに年が明け、いよいよ卒業である。しかし、彼はひとつ重要なことを忘れていた。あろうことか、彼は就職活動を全くせず、卒業を迎えてしまったのだ。

 既卒では、就活のためのエントリーシートを手に入れることもままならない。なんとか手に入れて提出するも、既卒だと分かった時点ではねられてしまうことが多かった。しかし、面接をしてくれたありがたい会社もあった。そのひとつが九州松下電器(現パナソニック システムネットワークス)だ。

 久我氏は営業がやりたかった。世界中を駆け回ってセールスをする。実に楽しそうだ。しかし、話はそううまくは進まない。「今年は営業の採用はないんだよね。バイヤーはどう?」「ものを買うのには興味がないんです」「営業と一緒だよ。海外にも行けるし。君は買い物、好きだろう?」「好きですね!じゃあご縁があったらよろしくお願いします」

 後日、久我氏の元に九州松下電器から内定の知らせが届き、1年遅れの就職活動は、無事に終了した。

 希望どおり、入社してすぐに海外での仕事が待っていた。当時、九州松下電器では生産地の海外移管が進んでおり、初の出張先はマレーシアだった。担当していたPBX(Private Branch eXchange)という商材は、企業などの施設内に複数設置され、電話機同士で内線通話できるようにしたり、外線との接続を行ったりするために使われる電話交換機だ。

 実はヒトココの無線技術はPBXがヒントになっている。そして現在の製造拠点のひとつはマレーシアだ。当時の縁が、今の久我氏のビジネスを支えているのだ。

 

久我一総氏の海外経験②ギブ&ギブで始まった孤軍奮闘のイギリス駐在

 

 1年のうち半分はマレーシアやシンガポールを訪れる日々が、3年ほど続いた。現場では久我氏を駐在させたようかという話が出始めていたが、その頃の会社の方針は「新規の駐在先は増やさない」。憧れの駐在員の立場を諦めかけたそのとき、運よくイギリスの駐在ポストに空きが出ることが分かった。行かない理由はない。2005年6月、久我氏は初夏のイギリス、ウェールズに降り立った。

201707GOLDEN_P01 日本人は1人。今まで部下を持ったことすらないのに、初めての駐在でいきなり責任者の立場になってしまった。しかもフロアを見渡す限り自分が最年少。嫌な予感しかしない。

 イギリス人のスタッフはやるべき仕事が終わっていなくても、「ワイフと約束があるから」と定時で帰ってしまう。ラインが止まると怒られるのは自分なので、残業するしかない。深夜までかかってやっと終えると、地球の向う側では日本が目覚める。いくらやっても仕事は終わらなかった。「会社員時代で一番きつかった」と久我氏は当時を振り返る。

 しかし、いつまでも同じ状態が続いていたわけではなかった。久我氏が必死で取り組んでいる姿を、スタッフはちゃんと見ていた。「久我さんが言うならやろうか」という関係が一人一人とでき始め、いつしか彼は定時で帰ることができるようになっていた。

 仕事は信頼関係があって初めてシェアできるもの。久我氏がイギリスで苦労しながら得たものは大きかった。「自分の能力なんてたかが知れているんですよ。組織でやっていかないと何もできない」。トップに必要とされる資質を、彼はイギリスの地で着々と身に付けていった。

 

(くが・かずふさ)1978年生まれ、福岡県出身。西南学院大学文学部外国語学科英語専攻卒業後、2002年パナソニックシステムネットワークス入社。SCM部門の責任者として英国子会社へ出向。10年に帰国後、商品企画部門へ異動。北米向け無線機器を担当。12年に同社を退職し、起業。現在に至る。

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