政治・経済

高速道路の重大事故防止で注目される自動運転の技術

 先日、タレントの桜塚やっくんが交通事故で亡くなられました。中国自動車道を走行中、乗っていたワンボックスカーが中央分離帯に衝突し、追い越し車線に停止。直後に同乗者、桜塚さんが様子を見るために車外にでたところを、 それぞれ別の後続車にはねられて亡くなったという痛ましい事故でした。

 このニュースを聞いて考えたことがあります。

 高速道路での交通事故件数は、実はそれほど多くありません。警察庁の発表によると、2013年の事故件数は66万5千件ほどですが、このうち高速道路での事故はわずか6222件。しかし、死亡事故は156件にも上っており、一般道での死亡事故率を大幅に上回っています。つまり、件数は少ないものの、ひとたび高速道路で事故が起きれば、重大事故になりやすいのです。

 こうした状況に対しては、テクノロジーが貢献できる可能性が非常に高いと言えます。件数が少ないということは、それだけ事故に至る経緯をパターン化しやすいということですし、パターン化することによって重大事故が減らせれば、社会的効用も非常に大きいからです。高速道路を舞台にテクノロジーが貢献した例としてはETCが典型的ですが、できることはもっとあるのではないでしょうか。

 そこで、最近注目されている技術として「自動運転」があります。1つはドライバーの操作なしでも走行が可能な全自動運転車で、グーグルや日産自動車が取り組んでいます。もう1つは高速道路における自動運転道路システムで、こちらは主に欧州の自動車メーカーが熱心に取り組んでいます。

自動運転で高速道路の重大事故は圧倒的に減る

 自動運転車は、事故が起きた時に誰が責任を取るのか、保険はどうするのか、道路交通法の規制はどうするのかなど、さまざまな問題があるため、なかなか実用化が進まないという事情があります。

 しかし、米国ではプリウスを使って完全自動走行の実証実験をグーグルが始めていますし、ドイツではアウトバーンで高速自動走行の実験を行っています。一方、日本ではいまだに公道での実証実験は認められていません。このままでは、日本の自動車産業はどんどん遅れを取ってしまうでしょう。

 日本の市街地は複雑過ぎて道幅も狭いので、まずは高速道路における自動走行を優先的に検討することを提案します。技術的には実現できる可能性が高く、高速道路の重大事故が圧倒的に減ると予想されます。

 自動運転の導入は、事故防止だけでなく渋滞緩和にも有効です。高速道路における渋滞の最大の原因は上り坂での減速なので、追い越し車線で自動運転モードを適用して、前の車との距離を測りつつ走る数珠つなぎ走行にすればスムーズに車が流れるでしょう。

 万が一事故が起きた時は、列全体がストップするようにすれば、今回の中国自動車道のような事故は起きにくくなるはずです。

自動運転車は自動車産業のイノベーションマインドを刺激

 自動運転車の普及促進は、日本の自動車産業の革新にもつながります。自動運転車に用いられる自動ストップ機能の先鞭を付けたのは、富士重工業の「EyeSight(アイサイト)」という技術ですが、このシステムも当初はなかなか導入が認められませんでした。

 アイサイトの原理は、ミリ波レーダーではなくカメラを使用して障害物を認識するので、技術的に見れば難易度が低かったのですが、実用化の承認に時間がかかって先行開発の優位性をあまり生かせませんでした。

 いち早くこうした技術を導入していけば、日本の自動車産業の発展につながるし、何よりイノベーションマインドを刺激することになります。安全の確保と慎重なルールの適用はもちろん大事ですが、前向きにイノベーションを受け入れる姿勢に変えていけば、自動車産業全体のレベルが上がります。

 一番の課題になるのはやはり法整備と規制の緩和です。国民の安全にかかわることなので、慎重に検討しなければならないことは重々理解していますが、早急に整備していかないと世界の動きに乗り遅れてしまうでしょう。時間をかけても解決が難しい事柄に関しては、一定の割り切りを持って進めることも必要ではないでしょうか。さもなければ、日本はますますジリ貧に陥ってしまいますし、自動車産業そのものの衰退につながっていくと懸念します。

 日本メーカーが自動運転車を開発しても、実際に実用化されるのは米国が最初というような事態は何としても避けなければなりません。日本メーカーの実証実験は海外ではなく、北海道などで行なってほしいと思うところです。

 

夏野剛氏の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る