政治・経済

今年2月よりDAZN(ダゾーン)によるJリーグ中継が始まった。これまで10年にわたってJリーグ戦全戦生中継を行ってきたスカパー! は放映権を失い、加入者数の減少は約10万件に及んだ。スカパー! を運営するスカイJSATホールディングスの今後を展望する。文=村田晋一郎

約10万件の加入者減の影響は?

201708SKYPERFECT_P01 英パフォーム・グループの映像配信サービス「DAZN(ダゾーン)」が2017年シーズンよりJリーグの全試合を放送することになった。昨年7月にJリーグとパフォーム・グループで、10年間、約2100億円の大型契約が締結されたことは衝撃的なニュースだったが、同時に、それまで10年にわたってJリーグの全試合を放送してきた、スカパーJSATホールディングスの衛星放送サービス「スカパー!」の動向に注目が集まった。

 スカパー!では07年にJリーグの優先放送権を獲得、J1、J2のリーグ戦全試合の生中継を開始した。また、15年にスタートしたJ3についてはリーグ戦全試合のダイジェスト放送と注目カードの生中継を行っていた。

 スカパー!がリーグ戦全試合の生中継を開始した07年当時は、地上波での試合中継はNHKとTBSが年間数試合を放送するのみで、また、有線チャンネルでも一部の試合の中継にとどまっていた。そんな中で、スカパー!は他国の主要リーグでも実現していない全試合生中継に踏み切った。それだけにこの10年、「スカパー!がJリーグ、日本のサッカーを支えてきた」と感じるサッカーファンは少なくない。

 スカパーJSATとしては、パフォーム・グループからサブライセンスを受けて中継する方法を模索したが、交渉はまとまらなかった。結局、昨年12月にJリーグのリーグ戦中継からの撤退を発表した。一方で、天皇杯については放映権を引き続き確保、YBCルヴァンカップについても放映権を有するフジテレビジョンよりサブライセンスを受ける形となり、カップ戦の中継は今後も継続する。

 スカパー!にとってJリーグはキラーコンテンツであり、その放映権の喪失は直接的には加入者数と売り上げの減少という形になって表れた。スカパーJSATの17年3月期の決算では、スカパー!を含む有料多チャンネル事業は約36億円の減収。加入者数は前年度と比べて約16.2万件の純減で、そのうちJリーグ絡みは約10万件だという。それがスカパーJSATにとって大打撃かというと、そうとも言い切れない。

 昨年までリーグ戦中継については、コンテンツの調達費を含めた中継費や放映権料を含めると、リーグ戦中継は、ほとんど利益が出ていない状況だった。このため、リーグ戦中継がなくなることの利益面でのインパクトはないという。

 また、今回のJリーグ放送権喪失にかかわらず、スカパー!の加入者は近年ゆるやかな減少傾向にあり、解約率が毎月1~2%で推移している。有料放送市場自体が成熟しつつある一方で、それこそダゾーンのようなインターネットの動画配信サービスが台頭し、コンテンツ獲得や加入者獲得において、スカパー!も厳しい競争環境に置かれている。

 ただしスカパー!の場合は、再加入者が多いことが特徴だ。解約して1年以内なら再加入時に入会金が不要であるため、このシステムを利用して入退会を繰り返すユーザーがいる。ある特定のコンテンツを放映する期間だけ加入し、放映期間が終わったら退会するというユーザーが少なくない。そのため、加入者は、スポーツのシーズン開幕時期に増加し、シーズン終了時期に減少するサイクルがある。今回のJリーグ放映権喪失に関して言えば、正式発表した16年12月および翌17年1月は解約者数がそれぞれ6万人、10万人弱と突出し、解約率も2%、3%となった。しかし2月以降の解約率は通常の1%台前半で落ち着き、現在は通常の流れに戻ってきている。

深掘りする番組づくりを強みに

 スカパーJSATでは、18年3月期の有料多チャンネル事業について、視聴料収入の減少に伴い、減収減益を見込んでいるが、もちろん、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 サッカーについては、JリーグYBCルヴァンカップや天皇杯などのカップ戦は引き続き放送するため、これらの国内サッカーに加え、欧州サッカーを加えた「スカパー!サッカーセット」を新たに提供。Jリーグの解約分を取り戻していく方針。また、アニメや連続ドラマなどのオリジナル作品を増やすほか、コンテンツの差別化を引き続き図っていくほか、4K放送の展開を積極的に推進していく。

 18年3月期は新規加入者数が前年から4万件増の39万件、解約率が16.7%で1万件の加入者純増を目指している。さらに中期計画では、17年3月末で332万件の加入者数を21年3月期に400万件に引き上げる目標を掲げる。しかしこれは高いハードルといえる。

 この400万件という目標は、16年3月期を末とする前回の中期計画でも目標に掲げて未達に終わった数字を据え置いたもの。今後は従来の衛星放送だけでなくインターネット配信サービスも含め、あらゆるサービスを駆使して加入者を増やすとしているが、達成は容易ではないだろう。まずは、新たな取り組みとして、ネット配信をいかに拡大できるかがポイントとなる。

 今後の加入者増加を考える上で一つのヒントになるのは、これまでのサッカー中継放送のつくりだ。

 ダゾーンによるJリーグ中継が始まって3カ月、ここに来て、スカパー!との違いも露わになってきた。昨年のスカパー!の「Jリーグパック」が月額4千円以上だったのに対して、ダゾーンは同1750円と確かに安い。しかし番組づくりについて言えば、昨年までのスカパー!のサッカーの中継番組やダイジェスト番組は、テレビの番組づくりのノウハウが活用されていたという。一方、ダゾーンについては、豊富なコンテンツが強みだが、ただコンテンツを流しているだけで、昨年までのスカパー!のダイジェスト番組のような試合の戦況やチームの動向を深掘りする内容ではなく、簡素な内容に感じられる。それだけに視聴をしていて、新たな「気づき」が生まれにくいことに物足りなさを感じる視聴者もいるようだ。

 例えて言うなら、スカパー!の番組が本屋やレコードショップだとすれば、ダゾーンの放送は電子書籍やデジタル配信とも言える。もちろん世の趨勢は電子書籍やデジタル配信にあるが、本屋やレコードショップでは新たな出会いが生まれる可能性があり、その出会いを求める顧客に支持されている。本屋やレコードショップの集客に見られるようなコンテンツの深掘りでスカパー!も活路を見いだせるのではないだろうか。

 だからといって、ダゾーンに加入した視聴者がそのままスカパー!に戻ってくるわけではない。そもそもサッカー中継を有料放送で見ようという視聴者はほとんどが自分の贔屓のチームの試合を欠かさず見ることが目的である。例えばカップ戦は負ければ終わりのトーナメントであり、カップ戦目当てに加入した視聴者は贔屓チームの敗退と同時に解約するケースもある。このため、シーズン終了まで毎週試合があるリーグ戦を視聴できるダゾーンに流れるのは仕方がない。

 ダゾーンに流れた顧客を取り返すというよりは、新たな領域を開拓することになる。もちろんダゾーンはさまざまなスポーツにおいてコンテンツ提供を行っており、スカパー!が差別化できる領域を見つけることは容易ではない。しかし、そこで、これまで培ってきた番組づくりが生かせれば、スカパー!の強みとなる。

アジア最大の通信衛星網インフラ

 スカパーJSATにとって、有料多チャンネル事業に次ぐ、事業の柱が宇宙・衛星事業だ。

 昨年度は4機の通信衛星の打ち上げに成功。アジアの事業者で最大の18機の通信衛星を保有し、アジア全域からオセアニア、北米もカバーする。これらの衛星ネットワークを利用して、スカパー!の番組伝送や船舶・航空機向けのブロードバンド通信サービスを提供している。

 また、官公庁が保有する衛星に関する運用受託事業も手掛ける。1月に打ち上げに成功した防衛省の通信衛星「きらめき2号」は、スカパーJSAT子会社のディー・エヌ・エヌが調達や運用を受託。このきらめき2号の売却益で、宇宙・衛星事業の17年3月期の売上高は約331億円となり、グループ全体では過去最高の収益を達成した。

 一方、18年3月期は、衛星売却益がなくなるため、減収減益が予想されるが、翌19年3月期は3機の衛星打ち上げを予定し、そのうち1機は防衛省へ売却予定の通信衛星「きらめき1号」であることから、増収増益が期待される。さらに、従来衛星よりも高い伝送能力を有するHTS衛星(ハイスループットサテライト)を2機調達予定で、グローバルマーケットでの需要拡大に対応する。

 また、今後急成長が見込まれる低軌道・非静止衛星にも積極的に取り組む。そして昨年6月にはドローンメーカーであるエンルートを子会社化し、ドローンを使ったビジネスを進めている。静止衛星から地上のコネクテッドカーまで、あらゆる軌道上での通信インフラを担っていく構えだ。

 ある意味、市場が成熟し競争環境が激化している有線多チャンネル事業に対して、宇宙・衛星事業は、まだまだ市場拡大が期待されている。もちろんそれだけに激しいグローバル競争にさらされることになるが、衛星通信について現時点でアジア最大かつ世界5位のポジションを確立していることはスカパーJSATにとって大きい。インフラ事業者としての強みをさらに高めていくことが、コンテンツ配信における差別化にもつながり、有線多チャンネル事業へ相乗効果をもたらすだろう。

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